第40話「復活するマグジール」
「呆気ないな……。」
戦闘を終えた俺はかざした手を下ろした。
正直、コレを使う程の事ではなかったと言っていい。
「アルシア。時間は残っておるが、もう解除しても良かろう。」
「そうだな。」
短く答えて召喚を解除すると、手脚を覆っていた氷が砕けて霧散していった。
それと同時に、抑えていた痛覚が戻り、激痛が全身を襲う。一瞬、気が遠のきかけたレベルだ。
「いっ!?つつつ……、フレスにでもしとくべきだったか……。」
「大丈夫ですか、アルシアさん。」
「ああ、アリス。すまないな……。」
アリスに治療魔法をかけてもらいながら、俺は自分でも治療魔法を身体にかけていく。
近接戦闘に於いては無類の強さを誇るフェンリルの召喚だが、身体強化を肉体の限界を超えて使うのと、痛覚を一部遮断して使う為、反動が凄まじいのだ。
普段ならバフォロスをあんな風に振り回す事など出来ないし、ただの身体強化だけであんな移動速度は出ない。
これでもかなり抑えて戦った方だ。
「フレスの力となると、自然とバフォロスも使うだろう。火山地帯が目茶苦茶になるから止めておけ。」
「それもそうか。それよりも………、やっぱこれでも死なないか。」
俺は目の前の光景を見て呆れた。
普通に考えれば今のでトドメだが、どうにもコレで終わりではないらしい。
砕かれてバラバラになったマグジールは、何事もなかったかのように元の身体に戻って、平然と起き上がった。
「驚いたよ、アルシア……。まさか、そんな技まで持ってるとは……」
「お褒めに預かり光栄だがな。俺はそこまでしてまだ何事もなく蘇生するお前に驚きだよ。」
近接戦に全てを割いている分、氷魔法の力はフェンリルのそれに遠く及ばないが、それでも破壊力と殺傷力は折り紙付きだ。
あれで死なない方がおかしい。
だが、マグジールはそんな事を気にする事もなく、自慢げに笑った。
「これで分かったろう?お前が僕を殺す事なんて無理なんだよ。さあ、続きを……」
「続きなんて必要ないわ。それに、もう蘇生出来なくしてあげる。この私が。」
俺が構えるのを手で制して、先程からマグジールを観察していたニーザが前に出た。
どうやら戦うつもりらしい。
「もういいのか?」
「ええ、充分よ。5分もいらなかったわ。やっぱりデッドコピーよ。正確にはデッドコピーもどきかしら?」
「コピーだと……?」
マグジールがコピーという言葉に反応して顔を歪ませる。コピーと言う事実を指摘されて動揺したのか、或いは気に入らなかったのか……
「じゃが、もどきとはいえ、デッドコピーであれば妾達が……」
「そう、普通ならば気付く。こいつは恐らく、この騒動を起こした者の命と同じ命としてカウントされている。増えてもないし、気付かれない様に偽装されているのだから、気付けないのも仕方ないわ。デッドコピーもどきっていうのは、製法がそれに似てるだけ。寧ろ、こっちのマグジールの方がデッドコピーという技術で見た場合、完成度は遥かに高いわ。」
なるほど…、と俺もフェンリルも頷く。
フェンリル達に気付かれない様に自分自身として偽装を施し、別の命としてカウントさせない。加えてご丁寧に偽装まで加えているときた。
たしかにそれなら生命を管理するフェンリル達の目を欺けるだろう。
「ご丁寧に端末化出来て、今見た通り複数回蘇生出来るように調整されて、ね。まあ……、それも私の前だと何の意味も無いのだけれど。」
「意味が無い、か……。それはお前だ邪悪竜ニーズヘッグ。貴様の得意とする魔法戦闘……その悉くが僕の前では何の意味も為さんと知れ!」
そう叫ぶとマグジールはその身体にドス黒い力を纏った。魔力では無い。これは……
「貴方が神術、ね………。魔法に於いて三流以下の貴方がそんな物使えるなんて、貴方の創造主は中々出来るようね?」
そう、マグジールが纏っている黒い力は神術のそれだった。
恐らく、マグジールを蘇生した何者かが付加したのだろう。
ニーザは「面白くなりそうだ。」と、口元を歪ませながら、自分の真横の空間を歪めて自身の武器である錫杖を取ると、それを黒い力を纏ったマグジールに突き付けた。
空を埋め尽くすほどの、無数の魔法陣を展開しながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます