第17話「スノーヴェール雪山」

「ここは相変わらずだな。」


俺は目の前に広がる光景を見てそう呟いた。

辺り一面、それ以外の色など存在しないと言わんばかりに吹雪が吹き荒れ、白い世界と化したここは俺達の目的地、スノーヴェール雪山だ。

この雪山はある特徴があり、それは上空からでなければ近づけない事だ。


麓に大量の魔族がいて、容易に侵入出来ない……という事ではなく、ここに流れる龍脈は特殊な流れをしており、この吹き荒れる吹雪を外からの侵入を防ぐように特殊な流れを作らせた上で吹かせている。

特に麓に於いてそれが強くなっており、山頂付近から僅かに存在するようになる吹雪の幕の隙間から内部に入る以外、この山に入る方法はない。

スノーヴェールとはよく言ったものだ。


加えて、ここにはもう一つ厄介な特徴があり、殆どの魔法が使えなくなるのだ。

使えなくなると言っても、身体強化は使えるし、アーティファクトの類なども使える。

分かりやすく言えば、火球などの身体から離れてしまう魔法の殆どが意味を為さない。

龍脈の魔力が干渉して、それを掻き消してしまうからだ。


俺は身体強化に加えて、予め魔道具に仕込んでいた魔法を起動し、雪に埋もれることなく、その上を歩いた。普段よりも多めに魔力を使わなければ満足に起動しないのが地味に鬱陶しい。

遅れて、同じように防寒用の装備を予め着込んでいたフレスが人間の姿に変化して、俺の隣に降り立つ。


「ここにあるのか?」

「ああ。私がここに隠した。」

「……隠した?グレイブヤードで保管したりするのは駄目なのか?」


先行するフレスの後ろに付いていき、気になった事を聞いてみる。

たしかにここは何かを隠すにはうってつけではある。だが、ここまでして保管するのには訳があるはずだ。


。魔界に置けなくて、リアドール君に渡す物となると、一つしかあるまい?」

「………そういう事か。そんなもんまで渡したら気絶するかもしれないぞ…。」

「それが嫌なら、地道に素材集めから始めてドワーフに頼む事になるぞ。」


たしかに、それをやるくらいなら、そっちの方が遥かに早い。

暫く歩くと、フレスはここだと言わんばかりに立ち止まってから、目の前の岩壁を切り崩すと、そこには小さな祭壇のような物があった。

フレスはそこに置かれているものを俺に手渡す。

手元のそれを見て俺は固まった。

………嘘だろ?


「………おいおい。想像の倍以上のモンが出てきたぞ。」

「文句はあるまい?」

「まあな。それと……」


俺はそう言って収納魔法からバフォロスを抜き放つ。

フレスも抜いたままの剣を構えた。


「フレス。来るぞ!」


ギンッ、と金属のぶつかり合う鈍い音が俺とフレスが頭上で構えた武器から響く。

俺とフレスは上空から襲いかかってきたそいつを、そいつの剣ごと同時に弾き飛ばした。


吹き飛ばされたそいつは難なく空中で受け身を取ってから、ふわりと雪の上に着地し、それに合わせるように雪の中からスノーゴーレムが無数に現れ出した。


「………誰だお前は?」


俺の言葉に、両手にそれぞれロングソードとショートソードをだらりと下げたそいつは、ゆらりとこちらを見た。

黒いマントとフード、仮面で顔も全身も覆い尽くしているそいつは、一見魔族の様ではあるが、どこか不思議な気配を発していた。

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