第2話「不自然な反応」
「さて……何か言う事はあるか、汝ら?」
「「コイツが悪い。」」
正座をしながら同時にお互いを指差したので、ニーザとまた睨み合うと、2人揃ってフェンリルにゲンコツをまた落とされたので、取り敢えず大人しくする事にする。
「まったく……、何故お主らは毎回毎回会うたびにケンカするのじゃ。」
再びこいつが悪いとニーザと声を揃えて言いそうになったが、フェンリルが拳を握り込む音がしっかりと聞こえてきたので慌てて口を噤む。
「それと……ニーザとフレスはこの後、どうするつもりじゃ?」
「どうって……ああ。」
フェンリルに視線で促されてそちらの方を見たニーザが納得した様に頷く。
言うまでもなくここは人間の領土で、何なら目の前にはこの国の王、フリードリヒ・フォン・カーラーがいるのだ。
護衛の兵士達も――その必要が無いと分かっていても――フリードを守る様に陣容を整えている。
フレスは何も言わないが、フリードの方を見たままだ。
「勿論、帰るわよ。アンタ達がここにいるっていうのが分かったから無理にでも顔を合わせたかったのが本音だし、それに私達はまた人間が倒せない魔族を狩りに行かないとね。じゃあアルシア、フェンリル。また会いましょう?」
そう言って、ニーザ達が背を向けるとフリードが「お待ち下さい!」と言って2人を止めた。
突然大声で呼び止められた2人が驚いて振り返る。
「な、なに?言っておくけど、アタシ達、人間殺す気なんて無いわよ。」
「存じております。貴女がたのお話はそちらにいる2人に聞いておりますので。」
「………は?」
ニーザとフレスは同時にこちらを見た。どういう事だ?と。
「大規模侵攻の真実を、ここの国民は知っている。と言うか、ついさっき知ったんだよ。だから、お前達が今も人間が対処できない魔族を狩り続けてる者だと知ってるんだ。ここにいるフェンリルお姉様もな?あだっ!?」
「余計な事を言うな。」
俺とフェンリルのやり取りを見てフリードはくすり、と笑ってから姿勢を正した後、配下の兵達に視線で合図を送りニーザ達に胸に手を当てて礼をする。
「お初にお目にかかります。妖姫ニーズヘッグ様、斬将フレスベルグ様。ファルゼア王国16代目国王、フリードリヒ・フォン・カーラーと申します。我々は貴女がた御二人に会えたことを、心より嬉しく思っております。」
「「………………。」」
まったく予想してませんでしたと言わんばかりにニーザ達が呆気に取られた表情をする。
それを見て、俺とフェンリルはただただ、おかしくなって吹き出したのだった。
◆◆◆
その後、フリードとニーザ達は近衛師団と共に会議室へと向かっていった。
フリードの性格を考えれば、間違った歴史によって生まれた魔族への認識に対する謝罪もあるだろうし、ファルゼア王国とグレイブヤードの今後の為に、改めて同盟など色々とやらなければならない為だろう。
その間、俺達は再び来賓室へと戻ってきて今後の予定を決める事にした。
「まずは……あのアークリッチー達の情報を集める事か。俺の方でも城内を探ってみたが、フェンリルはどうだ?」
その問いにフェンリルは首を横に振った。
「少なくとも、城内にも町にもいないようじゃ。こんな事であれば、城に通された時点でさっさと探るべきじゃったな…。」
俺とフェンリルは庭園からこちらに戻ってくる際、フリードに許可を取ってから使い魔や探知魔法等をフルに使ってまだ魔族がいないかを探ってみたが、その心配は杞憂だったらしく、フェンリル達を除いて魔族のまの字も存在しなかった。
それ自体は良い。少なくとも、これで魔族の被害が出る事は無いのだから。
「お前が握り潰したアークリッチーは何か知ってたか?」
「ああ………、奴は知ってる様な態度を取っていただけで、何も知らなかった。ただ単に、ある日いきなり力が強くなって粋がっていただけの小物よ。」
フェンリルは自身の技を介して、相手の情報をある程度探る能力を持っている。
あの場で聞き出せる情報を聞かなかったのは、奴の魔力を回収していたのもあるが、フェンリルが端からその方法で情報を引き出すつもりでいる事を知っていたので敢えて何もしなかったのだ。
「そっちはどうなのじゃ?」
「うーん……。魔力パターンはやっぱりアリスが倒した奴らと、俺が倒したキングトロールと被ってるんだよな……。正直、暴走魔族くらいパターンが目茶苦茶だったなら探知魔法でも容易に探せるが、中途半端に強くなってるせいで、中級から特級の魔族が片っ端から引っ掛かる。」
「割り出した魔力パターンで探知してもか?」
「ああ。……ってか、コレそうなる様に意図的に調整されてるな。」
「意図的、ですか?」
アリスの遠慮がちな質問に「うん。」と頷いて、部屋にいる全員に見えるように借りた地図を空中に投射してから、フェンリルが倒したアークリッチーの魔力パターンも書き込んで再検索をすると、該当するポイントが複数検出される。
それをフェンリルやアリス、ディートリヒ、待機していた兵士達や魔導師達を手招きして一緒に眺めていく。
「………便利な魔法ですな。」
場違いだと分かりながらもディートリヒが呟き、アリス達も同意する様に頷いた。
「後で皆に教えるよ。簡単だし、知っていて損のない魔法だからな。それより………」
「多いな。いや、多すぎる。」
フェンリルが該当ポイントを見て呟くので、同意する様に頷く。
「ああ。俺やフェンリル達なら問題なく倒せるってだけで、こんなのが一斉に動き出したら、この時代じゃなくても、下手すれば人類が滅ぶレベルだぞ。」
「ふむ、それにじゃ。」
「………このポイント、今も変わってないなら反応は魔族じゃない。」
俺は地図上で検出されたある場所を指指して、そう言った。
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