第8話「暴食のモヤ」
「何なの、アレ……」
「グォオオオオオオオッッ!!!!!」
それに応えるように無数の蒼い狼の頭の形をしたモヤが咆哮を上げ、周囲の魔族に見境なく喰らいついた。
いや、応えて欲しいわけではないが。
しかし分かった事もある。
感じる気配はコレだけではないという事。
確認できるだけでもあと2つ。
一つの場所から感じていた為に気付くのが遅れたが、どうにも気配は複数あるらしい。
その内の一つはやはり高位魔族なのは間違いない。
しかし、何故こんな混ざり合ったような気配の放ち方をしている?
魔力感知は自身の身を守る術でもある為、自慢ではないが、誰よりも鍛えている。
だから、先程の焦っていた時ならともかく、いくら同じ場所に密集しているからと一つの気配と間違える事など無い。
それに、残ったもう一つの気配。これは……
しかし、その正体を詳しく探ろうとする前に背後から殺気を感じて、その場から飛び退くと先程まで自分がいた場所に自身の背丈以上の棍棒が振り下ろされた。
マトモに食らっていればミンチにでもなっていただろう。
その犯人は中級魔族、トロールだ。
「……いい度胸ね。」
魔族の数もそうだが、周囲の魔族を食い散らす正体不明のモヤなど、対処しきれない事態に追われてる中でこんな物が降ってきたのだ。
さすがに恐怖よりも苛立ちの方が強くなった。
収納魔法から設置型の魔道具を取り出して、点火してからトロール目掛けて投げつける。
トロールはそれをゴミでも払うかの様にそれを棍棒で殴り、破裂した。
「グオォオオッ?!」
持っていた棍棒どころか腕まで吹き飛んで激痛に悶えるにトロール一気に駆け寄ると、動揺したのか私を無事な方の手で捕まえようとしてくる。が、身体強化をかけて、それを蹴り飛ばしてトロールの胸元に跳躍して、手を置く。
「フォトン。」
0距離で複数発発動してトロールの心臓を胸板ごと吹き飛ばし、倒れた死体をクッション代わりにして着地する。
自分でやっといて言うのもアレだが、酷い殺され方をしたトロールと、それを行った私を見た魔族達は逃げようとするので、私もチャンスとばかりにそれを追って撤退しようとする。
だが……
「ガァアアァァァァッ!!!」
逃げようとする魔族達を逃さないとばかりに、モヤがその大きな口を開けて噛み砕いていく。
軽く舌打ちをして後退する。これでは逃げる事など出来そうにない。
そればかりか、どうにも次の食事候補は私らしい。
集まっていた魔族は逃げるか、こいつに食われるかして、もう何処にもいない。
無数のモヤが自分だけを見ていた。
覚悟を決めて一番強い杖を取り出して、術式を組んでいく。残りの魔力量もそう残っていないので、これで最後の一撃になる。
カタカタ震える右手を抑えるように左手で包んで技の名を口にする。
「―――――ホーリーランス。」
瞬間、持っていた杖が粉々に砕け散り、代わりに光の槍が出来上がる。
上級光魔法、ホーリーランス。
私が今打てる手では、これが最強の技だ。
槍を構えると、その動きに付いていくようにゆらりと陽炎の様な複数の同じ形の槍が現れる。
手に持っている槍をぶつければ、それに追従するように複数の槍が直撃する。
欠点としてはちゃんとした杖で術式を組まないと発動出来ないし、出来たとしても、その杖は確実にその一回で砕ける。
「倒せないかもしれないけれど、これなら………っ!」
隙が生まれるかもしれない。
光の槍を構えて、先程よりも濃くなった青いモヤに突っ込んでいく。
その時だった。
「――――止めぬか、小娘。殺されるぞ?」
「あうっ。」
背後から静かな、大人びた女性の声が聞こえると同時にいきなり襟首を掴まれて情けない声を上げてしまう。
驚いて声の方を見ると、獣人の女性が私の隣にいたのだった。
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