約束されしバッドエンドに終止符を

東雲 和哉

第1話






 ――――"名もなき者"は『何かが』おかしいと気付いた。



 しかしその『何かが』わからない。

 哲学だ。

 哲学とは、口を折ることを学ぶと書いて哲学だ。

 "名もなき者"は思う。

 哲学とはなんだと。


 『何かが』おかしい。

 そう、疑問を持つことがおかしい。

 産まれて十七年。

 疑問を持ったことなどこれが初めてだ。


 キッカケはいつものように父が、


『ここは"ダイニーノがい"だよ!』


 と言ったことだ。

 父は産まれた時から『ここはダイニーノ街だよ』としか発言しない。

 母の方は、


『ダイニーノ街の領主は最近変わったの』


 だ。


 産まれ時から何一つ疑問を持たなかった。

 これが普通だ。純然たる自分の常識。


 しかし、"名もなき者"は『何かが』おかしいと思ったのだ。思ってしまった。常識に疑問を芽生えさせてしまった。


 

 キッカケによって、疑問は次に次にと増えた。

 街の名前を一睡もせずに言い続ける父。

 街の領主が最近変わったことをこれまた一睡もせずに言い続ける母。

 寝る間も惜しんで走り続ける子供。

 頭がおかしい、どうしてそんなことしてるんだ。

 そもそも子供とか大人ってなんだ。

 子供と大人の境界線はなんだ。

 あ? 境界線ってなんだよ。どっから出てきたんだ



 まさに混乱の極み。

 さっき"父に話し掛けられ"、知らない知識が増えて、知識によって疑問が増えてくる。


 "名もなき者"は頭がおかしくなりそうだった。


 産まれてはじめて熱が出て、ベッドに横になる。

 そういえば家に置いてあるベッドで寝転がるのは初めてだ、そんなことを考えながら"名もなき者"は目を瞑る。

 あぁ、寝るのも初めてだと不意に可笑しくなって笑い始める。


 笑い、笑って。


 ――――そうか、これが"楽しい"ってことなんだと自覚する。


 何処からかやってきた知識が身体に適応していく。

 そうだ、自分は人間だ。

 名前はない。付けられてないから。

 けれど生きてるんだ。

 子供ってのは大人になる前の人間だ。

 大人というのは大きくなった人だ。

 大きくなるには精神的なものが関係する。

 精神が大きくなった人のことを大人っていうんだ。

 そうか、そうなのか。


 芽生えた知識に聞いて答えを得る自問自答に笑みが零れ、推測する。



 きっと自分は、この世界で産まれて良かった人間じゃないんだと。


 推測を確信にするため、産まれて初めて声を出す。



「――――RPGの世界かよ、クソッタレが」



 

 確信する。

 自分は、この世界の異物だと。

 





 ♢




 "名もなき者"は目を覚ます。

 おそらく、そこまで寝ていない。

 その証拠に日の光が瞼を擽る。

 ベッドから足を木床に降ろし、すぐに身体を立ち上がらせる。

 産まれてこの方、一切眠ったことがなかった。


 "名もなき者"は声を発する。



「……睡眠最高じゃん。なんこれ、めっちゃいい。頭冴えまくって偉いことなってるわ」

 

 偉いことになってるらしい。

 誰に言う訳でも無く彼は独り言を続ける。


「とりあえずめっちゃ喋るか。てか待って、オレめっちゃ滑舌良くない? だってずっと喋ってなかったのにこんだけ喋れるってマジやべーだろ。かぁー、オレやべぇ〜」


 すっかり頭の熱は消え絶好調だ。

 寝る前よりも知識が身体に馴染み、おちゃらけた雰囲気さえも身に付いている。


「つかどうしよっかな。いや、此処がRPGの世界ってのは理解したんだよな。そう、理解しちまったんだ。間違いなくオレがいていい世界じゃねぇ」


 ぶつぶつと言いながらも足を動かす。

 部屋の開けっぱ扉さんをスルーし、見慣れた家をカツカツと音をたてながら歩いていく。


「オレがこの世界に居る理由はおいおい知るとして、これからどうするかって話だが。やっぱり強くなんのは必須だよな。なんで? うん、知らん。強くなっとけばなんか良いことあんだろ。あと勇者とか賢者とかこの世界には居るみたいだからちょいと一目見てみっか。どんなやつなんだろうな、てかいんのか? そもそもオレはなんで此処がRPGの世界ってわかったんだろうか……、あぁそうか。父親らしいやつが決められたことばっか言いやがるからか。ダメだ、考えが纏まらねぇ」


 彼にとって、この世界に居る理由はどうでもいい。

 これから何をなせば良いのか、それが重要らしい。

 開けっ放しの扉を掻い潜り、家から出る。


 住み慣れた街を視界に入れ、一言。


「……無駄に広い場所だな。とりま探索っすか」




 ♢




 日が暮れるまで探索し、彼はこの街のことを少し少し知っていった。


 彼が住むダイニーノ街には凄腕の剣士が住んでいた。凄腕の剣士"アルス"は魔物によって嫁さんが殺され、魔物に強い憎悪を抱いている。

 魔物とは魔王が生み出した存在というのは本の知識。

 スライムとゴブリンが居るというのは街の住民の発言。


 彼はアルスのことが気になって、アルスの所在を聞き回った。


『アルスはすげぇやつだったんだけど、あんなことがあって……』


『おう、アルスはどこいんだよ』


『アルスはすげぇやつだったんだけど、あんなことがあって……』


『はぁ、つっかえね』



『アルスはこの突き当りを真っ直ぐ進んだところにある家に住んでるよ。けど今は行かない方がいい。すごく気が立ってるからね』


『あーね、了解。行ってみるわ』


『アルスはこの突き当りを真っ直ぐ進んだところにある家に住んでるよ。けど今は行かない方がいい。すごく気が立ってるからね』

 

『……ホラーやん』



 などという会話?があり、彼はアルスの家の中に居る。

 家の中は殺風景だ。

 真ん中に肝心のアルスが座っている椅子しか家具がない。

 アルスは頭を両手で抱え、無言で居る。

 彼はアルスに話し掛ける。


「よっ、探したぜ」


 アルスの返答は、


「……」


 なし。

 彼は微かに口角を下げ、右手で頭を搔く。

 

「……まっ、んなことだろうと思った。たぶん、アレだな」


 一人納得し、彼は悲しげに視線を逸らす。

 芽生えた知識が彼を納得させた。

 導き出された推測は悲しいモノ。


 "重要人物"が話し掛けなければ"物語"は進まない。

 

 ただの推測。

 けれどこれが解答だろうと彼は納得した。



 



 同時に、決心する。


 もしもこの推測が正しければ、必ず破ってみる・・・・・・・と。







 ♢




 太陽が四十五回沈んだ。

 その間、彼はダイニーノ街のことを理解した。




 それどころか"ハジマーリ村"、"ダイニーノ村"、"ダイチーノ街"のことも知った。

 

 二つの村と一つの街の先にあるのがダイニーノ街だ。


 ダイニーノ街の物語は、凄腕の剣士アルスが仲間になるものだ。

 ダイニーノ街の領主"アクイ"によって勇者御一行がダイニーノ街の住民に襲われ、ダイニーノ街の物語が始まる。

 勇者御一行は街の住民を撃退し、自分達が指名手配されていることを知る。


 そして勇者御一行の仲間である遊び人が提案する。

 仲間を増やそうと。今の自分達じゃ前衛が少ない。

 なんと、この街には凄腕の剣士が居るらしいです。

 話はトントン拍子に進んでいき、勇者御一行はアルスと出会う。



 勇者は話さず、遊び人がアルスに話し掛ける。


『やぁ、あなたが剣士アルスですね』


 頭を抱えていたアルスが顔を上げる。

 赤い髪の下の黒く淀んだ目を勇者に向ける。

 勇者は微動だにせず、遊び人も微動だにしない。


『……』


『実はぼく達はこまってまして、あなたの力をかりたいのです』


 黙るアルスに遊び人はそう言いやる。

 表情も身体も動かさずに。


 アルスは立ち上がり、何処から出したかわからない剣を構える。


『うるさい。もう、俺には何もないんだよ』


 遊び人は『なるほど、どうやら勇者さんの出番のようです。ささ、どうぞ存分に力を見せましょう。あ、ぼくは適当に戦います』と言って、勇者の後ろに隠れる。


 

 戦いが始まった。

 勇者が剣を振るい、アルスの身体に剣を当てる。

 傷はつかず、アルスは微動だにせず立ち止まっている。

 遊び人がどこに持っていたかわからない石を投げる。

 避ける素振りをせずにアルスは石に当たる。

 アルスがようやく動く。

 勇者に剣を振るう。勇者微動だにせず。


 まるで一ターン終わってまた一ターンの戦い。

 古きRPGのシステム。

 彼は、何だこの茶番劇はと思ったものだ。



 決着がつく。


 5ターンで戦いは終わった。

 特筆する戦いはない。


 アルスが剣を何処かに消し、話し出す。


『……ちっ、俺の負けだ』


 遊び人は勇者の後ろで話し出す。


『いやはや、危うい戦いでしたね勇者さん』


 勇者は何も言わない。

 それから三人は黙りあう。

 無言の時が流れ、唐突に会話は進む。


 アルスが喋りだした。


『……なるほどな。お前らも苦労してるんだな』


 遊び人が話す。


『えぇそうなんですよ。なのでどうかぼくたちに力をかしてもらえませんか』


 アルスが喋る。


『……領主アクイか、もしかしたら…………』


『 どうかしましたか剣士アルスさん』


『……なんでもない。わかった、少しのあいだ力をかそう』


『ありがとうございます剣士アルスさん』


 



 こうして、勇者御一行に剣士アルスが加入した。

 そこからも話はトントン拍子に進む。

 領主に話を聞き出すために勇者御一行が、領主の屋敷に潜り込み、屋敷の中で見張りとエンカウント。

 見張りをバタバタと消し・・、遂に領主アクイと対面。


 遊び人が声を出す。



『あなたが住民達にぼく達を襲うよう仕向けたアクイさんですね』


 アクイは答える。


『いかにも。私がこの街の領主で、君たちを襲うように仕向けた張本人である』 


『どうしてこんなことをしたんだ』


『仕方がないことだ。君たちを襲わなければこの街を消し炭にすると魔王に言われたのだから』


『な、なんだって』



 感情の見えぬ、表情の変わらない会話が続く。

 アルスが話す。


『……待て。貴様は魔王と繋がっているのか』


『剣士アルス。君の予想通りだよ。私が君のあいする人を殺した魔物を、世に放った』


『やはり貴様が』


『さて、見せてもらおうか。いずれ魔王を打ち倒すもの達の力を』


 領主アクイの周りに、何処から現れたかわからない魔物、ゴブリンが五体出現する。

 戦いが始まる。


 剣士アルスが3ターン目に必殺技みたいなのを放つ。


全雷斬ぜんらいぎり


 横に剣を振るう。

 数歩先に居るゴブリン五体が同時に消える。


 戦いが終わったと見せかけて、アクイが話しだす。


『くっ、流石は勇者達。だが。この程度』


 アクイが変身。

 ハゲ頭のジジイから、角と翼が生えた黒い肌の悪魔となる。


『断言しよう。この魔王から与えられた身体であれば、お前達は手も足も出ないと』


『なに、変身だと』


『これは強そうですよ勇者さんと剣士さん』



 12ターンで戦いは終わった。


 悪魔の身体が黒光りし出す。

 アルスが悪魔に近づいていく。


『領主アクイよ。どうして、俺の愛する者を殺したんだ』


『……それが、必要だったのです。世界のためにも……、あなたのためにも』


『どういう、ことだ』


『……世界におとずれようとしています。魔王を超える、悪意が。そのためには力が必要なのです。絶対的な、守る力が』


 アクイは、その言葉を残して消える。


 その場には勇者御一行三人と、彼が残った





 ♢




 

 故に彼は、ダイニーノ街のことを理解した。

 アクイというボス。剣士アルスという新たな仲間。

 魔王を超えるラスボス、或いは隠しボスの伏線。

 その為だけに存在する儚い故郷。

 

 それがダイニーノ街。


 ハジマーリ村は勇者が産まれ、魔王を倒す為に旅立つ舞台。ダイニーノ村は、悪さをする遊び人と出会う村。ダイチーノ街は勇者の力、別名"大地の力"が覚醒する場所。


 ここまで知るのに、彼は四十五日も歩き回った。

 途中、"ナンカン迷宮"という場所に寄り道したが。

 結果、魔物が襲って来ないという情報を得られたのみ。

 宝箱は見つけたが、何をやっても開けれない。


 その後、ダイチーノ街に着き、ダイニーノ村にむかい、ハジマーリ村に辿り着く。


 そこまで三十日。

 ハジマーリ村に辿り着いて、明らかに勇者っぽい姿をしている人物を発見。

 彼が話しかけようとして"偶然"物語は動いた。

 そこから十五日でここまで来た。

 


 現在、勇者御一行が同じベッドで寝ている横で彼は叫ぶ。




「――――めんどくせぇなこの世界はよォ!! 設定端的だし、いまいちキャラに感情移入できねぇし12点だ! マジで甘々な評価で12点で草も生えねぇ! もっとキャラ動けよ! 戦闘ガンガンしろ!! ハラハラドキドキな戦い見てぇよくそがァ!!」



「「「……」」」


 彼の嘆きに反応するものは居ない。

 勇者御一行は天井を眺めたまま身体を横にしている。

 勇者御一行も、街の奴らも目をつぶらない。

 全員、目を開けたままだ。

 そう、彼以外。


「あー、おもんね。まぁ、このまま世界クリアしたらなんか動きあんだろ。ハァ……。ったく、気長に着いていきますかっと」


 世界の異物である彼は、物語に身を任せることにする。



 ♢



 次に勇者御一行が向かうは"ツナガール洞窟。

 最奥に魔王の配下である"ゴライアン"が居た。

 ゴライアンは岩のような巨体を動かし、勇者御一行の前に立ちはだかる。


「我輩こそは魔王様の忠実なるしもべ、ゴライアン。憎き勇者を倒す者である」


「あらら、勇者さんモテモテですね」


「無駄口を叩くな遊び人」


「はいはい、すみませんねぇアルスさん。ぼくの性分なもので」


「そんなことより、魔王の配下なら倒すぞ」


「えぇ、そうですね。勇者さん、行きましょう」


 勇者は返答せず、剣を構える。




 18ターンで終わる。

 7ターン目で勇者が黄色く光ったこと以外は戦闘に変わりない。


 ゴライアンは黒光りしながら喋る。


「魔王様、もうしわけありません。あなたの夢を……」


 消える。



「……なんだったんでしょうか」


「さてな」


 剣士と遊び人の会話が記憶に残った。





 ♢



 "大王国"に着いた。

 無駄に広い場所で、無駄に人が多い。

 彼は人の多さに目眩を覚えながらも物語に目を向ける。


 大王国には国王が居る。

 国王はダイチーノ街の領主と兄弟であり、勇者御一行を裏表なく快く城に迎い入れた。

 城は大きい、それ以上の感想は出てこない。

 国王が喋る。


「ようこそおいでくださいました、勇者殿に遊び人様。それに剣士様」


「おやおや光栄ですね。国王様に覚えられるなんて」


「はしゃぐな遊び人」


「緊張してるんですか、アルスさん」


「当然だろ。ここは城で、あの方は国王様だぞ」


「ほっほっ、なに。緊張しなくてもいいですぞ。どうか、肩の力を抜いてください」



 そうして、国王はツラツラと話し出す。


 要約、大王国に魔物が攻めてきている。力を貸してほしいとのこと。

 勇者御一行は断らず、力を貸すことにする。

 今日は一旦寝て、また明日の朝に謁見の広間に来て欲しいと国王が言う。



 

 次の日、城で寝ていた(目を開けていた)勇者御一行は突如立ち上がり、謁見の広間へ。

 そして国王の前に、青色の体躯を持った人型の魔物が居た。



「あんた達が、魔王様に歯向かう憎き勇者達ね」


 人型の魔物はそう言って、勇者達の前に立つ。


「……どうして此処に魔物が」


 遊び人の言葉に、変わらずの国王が声を発する。


「びっくりです。今しがた突如現れたのです」


 びっくりしているわりには表情を変えてない。

 ここはそういう世界だと彼は割り切る。


「な、なんだって。それは大変だ」


「勇者、早いところ始末するぞ」


 剣士の言葉に、勇者は剣を抜く。

 青き体躯の魔物が吠える。


「――――この世から消えろ! 最低最悪のクズ共!」


 戦いが始まった。






 8ターンで終わった。

 敵が弱いのではなく、勇者御一行が強くなったのだと思う。なんか勇者のやつが1ターン目からずっと黄色く光ってた。たぶん大地の力とやらだ、と彼は考える。



「…………ごめんなさい、魔王様。あなたの未来に――――」


 人型の青き魔物が消える。


「……」


「……」


 剣士と遊び人の沈黙から、彼は目を逸らす。





 ♢




 大王国を旅立った勇者御一行が向かう先は、まさかの魔王城。展開が早い。

 ろくなシナリオじゃねぇなと彼は乾いた笑みを貼り付ける。道中で三日寝て、彼に知識が芽生えて丁度五十日目。




 何事もなく魔王城の門で門番とエンカウント。

 2ターンで撃破。

 続いて、魔王城の中でも数々の敵とエンカウント。

 2ターンか3ターンで全員撃破。



 あっという間に、魔王と対面。


 ようやく終わるのかと、勇者御一行の後ろで彼はしみじみと頷く

 

 魔王は頭に二本の角が生え、黒い衣装の綺麗な顔立ちの男。肌が少し青白い。


 魔王は、悲しそうな顔をしていた。



「――――ご苦労なことだ、勇者達よ」



 重い、重い声色だ。

 まるで感情があるようで、彼は思わず声を掛ける。


「……あ、もしかして魔王さんってば――――」



「――――そして、貴様らの旅路もここまでだ」



「……だよね。声届かないよね。知ってた」


 あまりにも魔王の仕草が人間らしかった。

 故に希望を抱いたのだが、淡い期待は裏切られる。

 口を閉ざす彼の前で、会話は繰り広げられる。



「うわ、すごい怒ってるよ勇者さん」


「……お前はこんな時でも変わらんな」


「そりゃそうでしょ。これはぼくの性分なんだから」



 彼は首を傾げる。

 少し、違和感を覚えたのだ。



「好きだな、その言葉」


「あぁ、これですか。ぼくはぼくの性分が大好きなので、口酸っぱくして言うようにしてるんですよ。良いでしょ、剣士さんも使ってみたらいいですよ」


「……あぁ、気が向いたらな。まぁ、今はそれよりもだ――――」



 ――――間違いないと、彼はキョトンとする。





 生きていた。


 今まで死んだように会話していたキャラクター達が、生きている。


 すごく、人間味があった。


 呆然と彼は成り行きを眺める。



 剣士が自然な動きで前に出る。

 赤き髪が風で揺れ、淀んだ目が然りと魔王に向けられる。



「――――おい、クソ魔王。テメェに言いてぇことがある!!」


 魔王がゆっくりと豪勢な椅子から立ち上がり、哀しげな目で見下ろす。


「……戯言に付き合う寛大さは持ち合わせている」


 剣士の表情から怒気が現る。


「――――どうして"ユレイア"を殺しやがった! 俺が心の底から愛した女を、なぜ奪った!!」


 それこそは剣士アルスの始まり。

 愛する女を魔物によって奪われた男の悲劇。

 問い掛ける剣士に、魔王の目が揺らぐ。



「……そんな名前、聞いたこともない」



 解答はなし。

 剣士の身体から怒気が溢れ出す。


「よぉーくわかったぜ。テメェを、此処で殺さなきゃいけねぇってことがよぉぉぉ!!!」




 剣士が斬りかかり、戦闘が始まる。


 そう、戦闘が始まった。


 弧月を描く剣の軌跡が繰り広げられる。

 幾重にも剣戟が鳴り響く。

 魔王の黒き剣が、剣士の剣を弾く。

 

「おらぁあああああ!!」


「ぐっ……!!」


 豪の剣が、柔の剣を襲い続けている。

 剣士の剣が一方的に攻めていた。魔王の剣は明らかに押されている。このまま斬り合いを続けたら確実に剣士が勝てる。


 そう彼が考えた瞬間、魔王の剣が形を変える。

 瞬く間に、剣から杖となった。



「舐めるなぁぁ! 下等種げとうしゅがァ!!」


 杖から黒き雷が放出され、剣士はすぐに身を下がらせる。

 タッ、身を翻したその瞬間には数瞬前まで居た場所が焦土と化す。

 

 剣士は軽口を叩く。


「ちっ、危ねぇな」


 だがその額には汗がある・・・・

 



 彼は現実に意識を覚醒させる。

 

「お、お……おおおおおおおおぉぉぉぉぉお!!?」

 

 何だこの戦闘は、何だこれは。

 どうしてキャラ達が生きてるんだ。

 色々と言いたいことがあるが、彼は無意識のうちに手を挙げていた。


「うぉぉおおおお!! 頑張れアルスゥウウウ!!!!」


 共に旅した者を応援する。

 一度も話し合いなんかしたことない。

 けれど、胸の奥から喝采が聞こえる。

 成し遂げろ! やれ! やれ!と、熱いものが込み上げてくるのだ。


 彼の止まらぬ想いに答えたかはわからない、剣士アルスはその身に雷を纏う。



「ラァッ! これで、効かねぇ!」


 剣士アルスはその身に雷を纏いて飛び掛る。

 魔王は杖から黒き雷を放出し、アルスに当てる。


「ぐぅっおおおおおお!!!」


 耐える。耐える。耐えた。

 アルスの白き雷が黒き雷を打ち消し、豪の剣が魔王の身体を肉薄する。


「チィッッ゛!!」


 舌打ちのような金切り音を鳴らし、魔王は飛び下がりながら杖から黒き焔をばら撒く。

 雷の次は炎かと、剣士アルスは軽く舌打ちをする。


「ちっ、魔王なだけあって芸が多いな」


「はぁ、はぁ、な、めるな、下等種が……はぁ、はぁ」


「……まっ、流石に魔法の行使に身体が追いついてねぇか」


「だま、れぇ!」


 杖から吸い込むような黒き水が放出される。

 その水を見た瞬間にアルスは顔色を変え、後退する。


「っと、やべぇなそれ」


 直感で何かを悟ったアルスがそう口ずさみ、戦闘の参加者が増える。


「――――えぇ、あの黒い水の魔法は避けて正解でしたよアルスさん」


 剣士の背後に遊び人が現れた。

 いつもの寝巻きのような格好。

 青いキャップから覗く茶髪が揺れ、何処か精悍さを感じる顔つきで黒き水の解説をする。


「おそらくは魔王が扱う魔法は、遥か昔に失われた闇魔法です。彼の放つ魔法は、既存の魔法の一段階上だと思ってください。水の魔法の本質は飲み込むことにあり、闇魔法で進化、または退化した水魔法は当たれば最後。魔力を全て飲み込まれるでしょう」



 彼は離れた場所で目を瞬かせる。

 いや、あんた誰だよとツッコミそうになるのを必死に堪える。遊び人の変わりようについていけず、置いていかれる。

 


 剣士は顔を歪める。

 そして、不敵に笑みを浮かべながら足を動かした。




「……やりにくいな、合わせろよ――――勇者」



 唸る剣を突進することで進ませるアルスの後ろから、第三者の介入――――即ち、機をじゅくして勇者の登場。


 身体を黄色く光らせた勇者は、剣を振るい、土を出現させる。

 黒き水を瞬く間に食い止める土。

 その事象に気付いた魔王が腹正しそうにする。


 流れゆく光景を見やる遊び人はほくそ笑む。


「ですが、失われた魔法を扱うのはあなた魔王だけじゃない。かれ勇者さんも一緒です。……さて、大勝負です。闇の力と、大地の力。どちらが上か――――今一度・・・、決着を付けましょう」



 


 激突する土と黒き水は拮抗し合い、同時に消える。


 寸前、見計らっていた剣士アルスが豪の剣を魔王の心臓目掛け突きを放つ。


 杖から大楯に形を変えた魔王の武具の前で豪の剣が激しく止まる。


 剣士は笑う。



「――――行けや、勇者ぁ!!!」



 剣士の背中を、魔王の大楯を飛び越えた勇者の身体が宙を舞う。


 魔王の哀しげで、


 願うものに手が届かない子供のような表情を視界に入れたまま――――。







 ――――勇者は黄色く光る剣を振るい抜けた。







 ♢






 ――――彼は動けないでいた。



 目まぐるしく変わる光景についていけなかったのもある。

 急に勇者達が感情を見せ、生きてるかのように動き始めた。

 旅をしていた時とは、人が変わったかのようだった。

 けれど、確かに彼らなんだ。

 彼ららしく話し出して、彼ららしく戦っていた。

 あぁ、彼らのこんな姿を見たかったんだと心の底から思えて、応援もした。






 けれど、








 なんだこれは。



 彼はそう思えたんだ。


 勇者が魔王を倒した。

 あぁ、素晴らしい。

 正に王道さ。

 仲間との連携もあった。

 剣士が牽制し、遊び人が情報を渡し、勇者がとどめを刺した。


 あぁ、正に王道だ。





 だが、違うだろ。





 ――――最後はこうじゃない・・・・・・だろと、彼は苛立つ。







 勇者が笑みをなくし、剣士が崩れ落ちる。


 



 魔王が血を吐き、黒く光りながら言葉を吐く。



「――――あぁ、どうして、気づけなか、った……。だか、ら、われは、ボクは……だめ、なん、だ……ごめ、ん……みんな。ごめ……ゆれい、あねぇ、さん……」



 魔王が消える。


 剣士の左胸が空洞になっていた。

 勇者は顔が半分消えていて。



 遊び人は首を傾げ、両の眼から涙を流す。




「みんな、ごめんね」



 その一言に全てが詰まっていた。

 彼はその一言を聞いてもなお、動けない。

 動揺しているからか、違う。

 動揺はしている。

 だが、動揺していて動けないなんてことは無い。


 奇跡だったのだと考えた。


 ただのNノンプPレイヤーCキャラクターである自分が、ここまで動き続けていたことが。



 しかし、違う。

 そんな複雑なことじゃなかった。



 もっと、単純な事だったんだ。






 遊び人の頭上に、表示されている。








  【𝐆𝐚𝐦𝐞 𝐨𝐯𝐞𝐫】の文字が。







 物語が終点に辿り着き、世界ゲームが終わったのだ。

 終わった世界では何も出来ない。

 故に、彼は動けないのだ。

 


 遊び人の顔から涙が零れ落ちた数秒後、視界が黒く染まる。











 かくして、




「――――は?」








 "名もなき者"は世界ゲーム初期化リセットを体感する。


 


 ♢




 住み慣れた街の真ん中で立ち尽くす。



「――――ここはダイニーノ街だよ!」


 父親らしき人物が声を発し、彼の時間が動き始めた。


「…………は?」


「ここはダイニーノ街だよ!」


 現実を直視できず、彼は数秒のあいだ目を瞬かせる。

 

 世界が終わった。理解した。

 世界が終わった先にあるのは? ……復元、初期化だ。

 だからなんだ? 考えたくない。

 これから何をなせばいい?




「……うるせぇ」


 自問自答に吐き気が込み上げ、声を出す。

 どこまでも頼りなく、情けない声を。


「ここはダイニーノ街だよ!」


 無機質な声の返答に、彼は苛立ちを覚える。

 目をカッと開き、産まれて初めて拳を握る。


「っせぇんだよ!!」


 言いようの知れぬ感情が内で暴れている。

 一歩、荒々しく踏み込んで右手を振り上げ。


「ここは――――」


 それでも喋り続けるNPCに、彼は衝動のままに拳を放った。

 



「――――もう、喋んじゃねぇ!!!」





 始まりを告げる拳撃によって、彼の世界はまた始まる。




 





 【5】



 父の頭上に、数字が表示されていた。


「――――ダイニーノ街だよ」

 

 父はその場に佇み、語る。

 今までと同じように、ではなく。

 『何かが』変わったかのように語り終えた。


 

 "名もなき者"は『何かが』変わったことに、目を点にする。



「……ダメージ、なのか……?」



 数秒、或いは数分に感じられた時間の中を静止していた。

 『何かが』変わった。変わったのだ。

 

 ならば、変えれるのかもしれない。

 破れる・・・のかもしれない。

 世界の法則を、くだらない運命ってやつを。


「は……、ははっ」


 笑う、自分の馬鹿さ加減に。

 何を停滞していたんだオレは。

 違うだろ、決めただろうが。




「……よし、ぜってぇにやる」


 頬を思い切り叩き、初めての痛みが芽生える。

 八つ当たり気味に父を睨み、決意を続けた。



「オレが、オレだけで――――」






 "名もなき者"は初めて剣士に出会った時、言いようの知れぬ焦燥感を覚えた。頭を抱え、黒く淀んだ目を地面に向ける剣士を"手助けしたい"と心の底から思えた。だが、思いが届かない焦燥感に初めての苛立ちを覚えた。故に、






「――――悲劇を、必ず破ってみせる・・・・・・・・



 そう、決意したのだ。


 これより始まるのは、悲劇を打ち破る少年の世界改変。

 物語に悲劇はいらない。

 物語は、幸せな結末だけでいいと。




 "名もなき者"はそんな幸せな未来を夢見た。













 ♢





 五十日で世界は初期化される。

 数度目の初期化を経験し、"名もなき者"はそのことを知る。


 がむしゃらに動いた。

 あるはずだと・・・・・・、探していた。


 魔物にダメージは与えれる。

 思いを乗せた一撃であれば、魔物の頭上に数字……ダメージが表示される。


 だがそんなことに意味が無いと、"名もなき者"は気付いた。


 これではない・・・・・・


 もっと別の方法を探せと何度も自分に言い聞かせ、数回の初期化を経験して物語を知ることにした。


 


 魔王の配下の最後と、魔王の最後。


 魔王は不器用ながらも"人"と手を取り合おうとしていた。

 自分の姉を奪った"人"を許せないが、何処までも優しい姉は"人"を愛した。

 故に姉の願いを叶えるべく、魔王は"人"を支配することにした。何処までも優しい世界が続くようにと……"名もなき者"は推測している。 




 アクイの予言めいた最後。

 悪意を知らしめる為に用意されたキャラクター、アクイ。

 彼がした行いはとても庇護できるものじゃない。


 だがどうだ。

 調べれば調べるほど、住民の話を聞けば聞くほど。

 アクイというキャラクターは、愛されていた。

 一人の子供が『この前、領主様が転けそうになってたところを助けてくれたの』と言い続け、一人の老人が『あの方が領主になって、この街は住みやすくなったんじゃ』と呟きつづけ。


 アクイというキャラクターはどうしようもないほど愛されていたことを知った。

 街の安寧を守る為に勇者を襲い、剣士が役立ずにならないように剣士の嫁を殺した。


 全ては安寧を求めた結果で、世界の悪意・・・・・を知った責任。




 "名もなき者"が真実を知った経緯は。

 勇者達が行かなかったナンカン迷宮の先、"カクレー村"に在る。


 住民の数はたったの二人。

 二人の住民は世界の秘密を知っていた。


 青い髪の少年が話した。


『ここは忘れられた村、カクレー村。安易な名前ですが、これは"作者"が決めたことです。けっしてバカにしないように』




 黒い髪の少女が話す。


『アクイ、という名前をご存知でしょうか。今はダイニーノ街の領主をしている者です……、あなた達がこの場所にやってきたということは、彼は亡くなったのでしょう。彼は彼なりに信念を貫いてました……、今はもうことなきことですね』


 黒い髪の少女に話し掛けた。


『どんな信念?』


 期待通りの返答は来なかったが、予想外の返答をもらう。


『世界は未知に満ちています。あなた達が真実を求めた時、世界は変容するでしょう。その時にあなた達がどのような選択肢を選ぶのか、わたしは興味がつきません』


 話が変化した。

 青い髪の少年の方はいくら話しかけても同じ返事だったが、黒い髪の少女は四通りの話をした。

 アクイが信念を貫いていた話と、世界が変容する話と、


『魔王を恨まないでください。魔王は魔王なりに道を見出して、今の魔王があるのですから。少し昔話をしましょうか。魔王は七年前、一人の少年でした。少年にはとてもお世話になった血の繋がらない姉がいて、楽しく暮らしていました。けれど、へいおんは長く続きません。少年の力を利用したアクイが、少年の姉を八つ裂きにするのです。少年は怒りに燃え、魔物を統べる存在"魔王"となるのです。……あまりいい気分ではないですね。人様の過去を語るのは。まったく、"作者"に操作されるままというのは腹ただしい限りです』


 魔王の過去。

 そして最後の話は、



『悪意は人々の心に宿る不可視のモノ。何者にも見えず、ソコに有るのです。あなた達にも宿っているモノは、いつかあなた達の身を滅ぼすでしょう。されど、救済の道は存在します。悪意の大元、"世界の悪意"を倒すのです。……彼はそれを知って、信念を抱いてしまったのよね……。まったく、ままならない世の中です』



 "世界の悪意"という存在と、アクイの信念に関係する話だった。

 


 しばらく"名もなき者"は立ち止まった。

 こんな話を聞かされ、どうすればいいのかと。

 だってそうだ、これじゃあんまりだ。



 この世界ゲームはどう足掻いても、幸せな結末を辿れない。


 勇者は魔王を倒す旅に出て、最終的に魔王を倒してしまう。倒して、しまうのだ。

 阻止しなければいけない。


 姉を愛して世界を優しくしようとする少年魔王は、生きなければいけない。それは"名もなき者"にとって絶対。


 けれど幾ら阻止しても五十日で魔王は殺される。

 初期化して、また最初からだ。


 停滞した世界なんて、どう見ても幸せなじゃない。

 動かしたところで、最後は遊び人によってゲームオーバーだ。



『詰みだ。何一つ手がない。遊び人を倒せばいい? そうだな。戦闘でも大して役に立たないし、きっと勇者は遊び人が居なくても魔王を倒せる。でも遊び人が居ないと剣士は仲間にできないし……いや、剣士を仲間にした後に倒せばいいんだろ。わかってる。けどダメなんだ。遊び人だって、幸せにならなくちゃいけないんだから』



 遊び人と勇者の出会いはダイニーノ村。

 両親が魔物に殺され、孤独になった遊び人は悪さを働く。

 畑の作物を盗んだり、店の物をとったり。

 確かにろくでもない人柄だ。

 なんでこんなヤツを助けなければいけないんだと、"名もなき者"は思う。



『けど、けど、遊び人は、死んでいいやつじゃない。勇者と出会って改心するんだ。アイツは勇者の強さに憧れて旅に着いていく。自分なりの強さを見つける為に、ダイチーノ街では書物を漁って知恵を身につけるすげぇやつだ。かっけーよ、遊び人のやつは。そんなやつ、なんで殺さなくちゃいけねぇんだ。馬鹿かよ、オレは』



 自分の顔を殴りつけ、"名もなき者"は前を見る。



『あぁ、もうどうしようもねぇ。こうなったら"試行錯誤"の時間だ。付き合ってくれよ』





 そこには、勇者が立っていた。





 ♢




 初めて勇者に出会った時、"名もなき者"は笑った。

 あまりにも"勇者然"としているのだ。

 

『あぁ、お前が勇者か』

 

 と呟いたほどであった。

 

 勇者の姿形は『何かが』違った。

 他のキャラクターより、凝っていた。



「勇者」


 金髪に綺麗な顔立ち。青い眼が爛々と輝いていて、常に口元は微かに上がっている。服装は他の住民と違い、白銀の全身鎧。


 剣はない。

 戦闘の時に何処からか現れるのだ、この世界の剣は。

 しかし戦闘時に勇者が持つ剣は、妙に装飾が飾り付けられている。全体的に青い剣で、キラキラと輝いている。

 黄色く光らせることで芸術的にもなる。



 "名もなき者"は勇者に話し掛ける。



「なぁ、お前が持つ大地の力って特別なんだってよ。失われた魔法で、魔王の闇魔法に唯一対抗できた最強の魔法だってさ。知っていたか?」


 勇者は喋らない。

 微動だにせず、口元に笑みを浮かばせている。


「あ、嬉しいか? まっ、そうだよな。自分が特別だって思うのは嬉しいのかもな。誰も持ってない特別な力なんて、笑いが止まらねぇよ。……あぁ、オレもそうだったんだろうな」


 "名もなき者"は自分が他とは違うことを"楽しんでいた"。

 嬉しかったんだろう。自分は特別なんだって。


 けれど、今は違う。

 彼はこの世界のありように嘆き、苦しんでいる。

 何一つとして、嬉しいことなどない。

 どうせなら知識が芽生えない方が幸せだったと考えた夜は、数知れない。


 

「オレはさ。どうせなら楽しみたかったんだよ。でもよぉ、この世界はちょいとどころかクソほど楽しめる要素がねぇ。毎日お前らの幸せを考えて、楽しめねぇ。マジでクソッタレなんだよ、救いようがねぇ世界でどうしようもねぇ。なぁ勇者……、お前もそう思うだろ? 」













「だからさ」





 "名もなき者"は勇者を睨む。







「――――その身体、くれよ」



 思いの丈を込める拳を、勇者は微動だにせず受け止める。



 それが、"名もなき者"の選んだ答えだった。

 この世界の異物である"名もなき者"は、自分が主人公になろうと決めたのだ。


 今から、初めて人を殺す。

 それもこの世界の勇者だ。

 

 主人公が死んだ場合、普通のゲームならゲームオーバーだ。だが、この世界ゲームはどうなのか。

 それを試してみたかった。

 欲を言うならば、主人公になりたかった。

 主人公になって、全部を救いたかった。


 行き詰まりの末に選んだ道。




 どうなるのか――――。






 ♢






 ――――そんなこと、当たり前だった。



 世界は初期化した。


 "名もなき者"は自分の胸を、勇者の剣で貫かせた。

 最後の戦いで発生するイベント、魔王殺しの剣で。

 何度も、何度も自分を殺させた。

 

 最後に放たれる勇者の剣技は全てを貫く。

 システムが働いてるのか。

 或いはそんな技なのか。

 それこそ勇者にでもなってみないとわからない。


 "名もなき者"は百度目の償いで、次に目を向ける。



 シナリオはどう足掻いても変わらないことを知れた。

 何度やっても勇者は魔王を殺して、遊び人が"悪意"に目覚めて勇者と剣士アルスを亡きものにする。そうしてゲームオーバー。


 道中でも何も変わらない。

 戦闘も同じで、アクイは絶対死ぬ。

 魔王の配下も死に、勇者達はナンカン迷宮にも行かずカクレー村にも行かない。


 最後の戦いでやたら人間味溢れる戦いをするので、横槍を入れたことがあった。けど何も変わらない。

 どんな時でも"名もなき者"の行動は、無となる。


 全部決められたことだ。

 決められたことをなぞる繰り返し。


 


「――――ここダイニーノ街だよ!」


 "名もなき者"にとっての始まり。

 父の変わらない言葉。

 そもそもどうして父だとわかるのか。

 "名もなき者"の推測では『そういう設定』だから。

 おそらく設定が記憶に組み込まれているのだと推測。


 設定、"作者"が考えた忌々しいモノ。

 何度も"作者"を殺そうと考えた。

 同時に、それはダメだと何度も考える。

 "作者"を否定するということは、この世界ゲームも否定することになる。


 幾度の初期化によって磨り減った僅かに残る感情が、この世界ゲームを否定しない。



 なぜ、幸せな結末を望むのか。


 "名もなき者"は、このどうしようもなく救いようがない世界ゲームが、好きなのだ。


 好きだからこそ救いたい。

 何が好きなのか。


 原点に回帰。


 無駄に広い街は、作り込まれていた。

 一人一人の住民がしっかりと決められたことを話す。

 ありふれた物語かもしれないが、"名もなき者"はこの物語が好きだ。


 設定が散りばめられている。


 恥ずかしくて、たぶん一度しか言わないことを"名もなき者"は呟く。



「――――なんつうか、愛があんだよな」









「――――ここはダイニーノ街だよ!」


「……ふ」


 疲れ果てた心が、回帰する。

 馬鹿にされてるように思える言葉に、笑みがこぼれる。


「初心、忘れるなってことかよパパ」


「ここはダイニーノ街だよ!」


「……うっせぇよ」


 少しの苛立ちを込めて、愛しの父を殴る"名もなき者"であった。





 ♢




 巡りゆく世界で"名もなき者"は、幸せな結末を探す。


 落ちている剣を拾った。

 何度も振るう。

 無心でいるのなんて到底無理で、一つのことに打ち込もうと考えた。



 『何かが』変わる訳がないと、寄り道をする。

 意外にも、『何かが』変わった。


 剣を振るっている間は心が静かになるのだ。

 

「……結構いいなこれ。たまには身体を動かすのも悪くねぇ。そうだ、今度からアルスの剣技もしっかりみておくか。なんか凄腕の剣士っていう設定だもんな。ちっとは強くなんだろ」





 ある時は本棚に置いてある本を眺め、魔法について学ぶ。


「なるほどなぁ。身体の奥にある魔力を操作して、魔法を行使すんだなぁ。ふむふむ……、いや魔力ってなんだよ。オレにはねぇぞクソが」


 またある時は、魔王の配下であるゴライアンに話し掛ける。


「お前なんで魔王のこと好きなんだよ」


「……」


「へぇ、魔王に命救って貰ったんだな。知らんけど。で、色々と魔法とか体術を教わったんだなぁ、知らんけど。あ、そのでけぇ身体って魔王を助ける為に鍛えてんだな、知らんけど」




 巡る巡る時の中で"名もなき者"は心身を強くしてゆく。




「ふんっ! ……、お? え、今のやばくね? なんかめっちゃ無心でふってたらできたな。すげぇオレ、今ならアルスに勝てんじゃね?」




「…………おぃぉぉおお!? ちょ待って待って!? これ魔力なん!? まじかよ! こんなんぜってぇ気づかねぇわ。いやすげー、気付いたオレまじすげぇ。よしよし、よっしゃ! やっぞオラァ!!」




「んでな、オレはそこで剣を振り下ろして超極悪邪龍の首をすっ飛ばした訳よ。すごくね? いやまぁ全部ホラだけど」


「……」


「わははは! お前も冗談言うようになりやがったな! お前もできるって!? わははは! まじ最高だなお前! いやまぁ、なんも言ってねぇけど」





 寄り道のつもりが――――"名もなき者"は見つけた・・・・



 自分の成すべきことを。



「よし、ちょっと試してみるか」






 ♢





 剣士の表情から怒気が現る。


「――――どうして"ユレイア"を殺しやがった! 俺が心の底から愛した女を、なぜ奪った!!」


 それこそは剣士アルスの始まり。


「あぁ、そうだよなアルス。ムカつくよな。けど斬り掛かるのはやめろよ」


 愛する女を魔物によって奪われた男の悲劇。

 問い掛ける剣士に、魔王の目が揺らぐ。



「……そんな名前、聞いたこともない」


「嘘吐くなよ魔王君。ゴライアンも嘘を吐くやつがご主人なんて思いたくねぇって言ってたぞ、知らんけど」




 解答はなし。

 剣士の身体から怒気が溢れ出す。


「よぉーくわかったぜ。テメェを、此処で殺さなきゃいけねぇってことがよぉぉぉ!!!」




 剣士が斬りかかり、戦闘が始まる。


 


 ――――そして、"名もなき者"が魔王の前に立つ。


 以前までは反応できなかっただろう剣戟に、"名もなき者"は拾ったボロい剣で剣士の豪の剣に合わせる。


 がきり、音が鳴る。

 剣が、交差している。

 本来なら魔王と剣士が交差する場面。


 今は"名もなき者"と剣士が交差している。

 剣が噛み合う。

 触れた、剣が噛み合った。

 "名もなき者"は笑う。



「――――できやがったクソが! まじかよおい! やっぱそういうことか! オレが強くなんのが正解だったんだなおい! 応えろよアルス!!」


 剣士の剣を、"名もなき者"の魔力が籠った・・・・・・剣が弾き飛ばす。

 

 そして、剣士は吠えた。



「――――おらぁあああああ!!」


 攻撃を当たっていない魔王が唸る。


「ぐっ……!!」





 その声を聞いた"名もなき者"は途端に冷めた。


「……ダメなんかい。あー、勝手に進むパターンね。あー、終わってる。まじこの世界終わってるわ、萎えた。まぁアレだな。前までは触れなかったから前進したわな。たぶん魔力が鍵だな。よしよし切り替えよ! わたし切り替えるわ!」


 へこたれない"名もなき者"は数百も見た終わりを眺め、世界の初期化を経験する。





 ♢




 "名もなき者"はゴライアンの前に立ち、魔法を行使する。


「どうよこれ、凄くね?」


 "名もなき者"が扱う魔法は雷だ。

 雷がボロい剣にまとわりついている。


「……」


「あぁ、わかってる。で?って話だよな。オレもで?って感じだよ。だけどよ、ゴライアンならなんか活用法思いつかね?って思った訳よ。なぁ、なんか言ってくんね?」


「……」


 変わらず無言のゴライアン。

 "名もなき者"はわらう。



「わははははは! さすがはゴライアンだぜ! その発想はなかった! ひゅぅ! やるう!」


 "名もなき者"は思いつく。




 ――――全てをゼロ・・にする選択肢を。


 実は前々からそんなこと出来ればいいなと考えていた。

 けれど不可能なことを目を向けていても、状況は停滞するだけ。

 だからその考えは、頭の奥底で眠らせていた。



 しかし、不可能を可能にするならば話は違う。



「よっしゃあああああ!! 気合い入れっぞオレェ!!」




 "名もなき者"がはじめた行動は、愚直なモノだった。


 雷を剣に纏い、ただひたすら振るう。

 ただ、それだけだった。


 ただそれだけの行動で――――数千の初期化を超えた。








 ■■■










 剣で目前の空間を突く。


 目にも止まらぬ速さ。

 視覚に定まらぬ光速剣技。

 "名もなき者"はひたすらその動作を繰り返す。

 剣を突くたびに周りの大気が揺れる。

 続く轟音に"名もなき者"は何も感じない。


 無。

 無の境地に至った。

 

 だが終わりは訪れ、


「――――ここはダイニーノ街だよ!」


 父の挨拶で意識を覚醒させる。


「……あ、まじか。もう「ここはダイニーノ街だよ!」経ったのか。あー、1回寝よっかな。でもあとちょっと・・・・・・な気がするんだよ「ここはダイニーノ街だよ!」……おk」


 "名もなき者"は走り、目的地へ向かう。

 足に雷を纏い、雷の速度で向かうはダイチーノ街の裏路地。

 そこに転がるボロい剣を拾い、その場で突きを始める。

 大気が揺れる。

 止める。


「……んー、なんか違う。もっとこう」


 ゆっくり突きを放つ。

 姿勢は直立、真っ直ぐな姿勢で右手に持った剣を前後させている。

 何度か突きを放ち、"名もなき者"はピタリと動きを止める。



「…………あ?」


 ゆっくり突きを放つ。

 戻す。


「………………いやいやまじかよ。こんな簡単なことに気づけなかったのかよオレ」


 



 そうぼやく"名もなき者"の前で、





 ――――景色が歪んでいた。



 成った。

 今ここに"名もなき者"の理想が成った。



「……くひひひっ、そうかそうか。あひゃひゃ、魔力を必要としない正確無比の突きでよかったんか。おーけーおーけー、行くか」


 奇妙な笑い声をあげ、"名もなき者"は歪みに迷わず全身を入れる。






 ――――いつの日か、黒い髪の少女が言っていた。




『魔王を恨まないでください。魔王は魔王なりに道を見出して、今の魔王があるのですから。少し、昔話をしましょうか。魔王は七年前、一人の少年でした。少年にはとてもお世話になった血の繋がらない姉がいて、楽しく暮らしていました。けれど、へいおんは長く続きません。少年の力を利用したアクイが、少年の姉を八つ裂きにするのです。少年は怒りに燃え、魔物を統べる存在"魔王"となるのです。……あまりいい気分ではないですね。人様の過去を語るのは。まったく、"作者"に操作されるままというのは腹ただしい限りです』



 魔王の過去・・

 アクイの過去・・でもある。



 "名もなき者"がその話を聞いて、まず初めに考えたのが『その過去・・がなければいいんだよなぁ』というもの。


 だからこそずっと――――過去を変えたかった・・・・・・・・・


 だが無理だと決めつけていた。

 不可能だ、そんなことは。

 どうやって過去に行くんだよという話。


 そう、それだけの考え。

 一度は諦めた思いつきであった。




 ――――しかし、ここに成った。



 "名もなき者"の理想が、実現されたのだ。

 

 歪みの正体は、時空の歪みだ。

 根拠などない。

 "名もなき者"は時空の歪みだと信じた。





 故に、世界ゲーム設定システムを破れたのだ。











 ■■■





 "名もなき者"の前には白き世界が広がっていた。


 見た事のあるキャラクター達が直立不動で立っている。

 真っ直ぐ、何人もが整列していた。



「…………」


 予想していた光景と違う、そう心中でこぼし口を閉ざす。

 "名もなき者"が見たかったのは、過去の風景。


 ボロい剣を投げ捨て、右手で頭を抑える。


「……あぁっ、クソ。なんでいつもこうなんだよ。これじゃ、ダメだろうが。変わらねぇじゃねぇか」


 悟ったのだ、"名もなき者"は。


 此処は過去なのではなく。




 世界ゲーム設定システムを試行する場所だと。





「……そういえばゲームにはありやがったな、デバックルームってのが」


 "名もなき者"の知識によればデバックルームとは、ゲームの開発者が作るフィールドの一種。


「こんなとこに来たって何も変えられねぇよクソが」


 "名もなき者"が望むのは、一貫して幸せな結末。

 

「……あぁ、また振り出しか。なんなんだよ"作者"のやつは………………、あん?」


 ふと、視界の隅に見慣れた人物を見かけた。

 魔王の配下ゴライアンだ。


「お、久々に見たな」


 小走りで駆け寄り、"名もなき者"は右手を挙げる。


「よ、ゴライアンひっさー。ざっと千回ぶりぐらいか?」


 挨拶をし、ゴライアンの前に立つ。

 相も変わらずの巨体。

 岩のようにゴツゴツとした体躯。


「まっ、話しかけても反応しねぇのはわかってんだけどなっ」


 そう言って"名もなき者"はゴライアンの足を叩く。




 次の瞬間――――予期せぬ事態が起こる。










「――――このキャラクターを削除しますか」



 



 ゴライアンが、喋ったのだ。


「………はえ?」


 声色は無機質だった。

 いつもの低くて、感情のこもっていない声。


 数秒待つ、ゴライアンに動きは無い。


「………………」


 試しに"名もなき者"はゴライアンに触ってみる。

 すると、


「――――このキャラクターを削除しますか」


 またも声を出す。


 状況を飲み込めた"名もなき者"はゆっくりと答える。


「……つまんねぇ、冗談……言うなよ。誰が、お前を消すかよ」


 苛立ちを覚え。



 深呼吸一つ落とし、周りを見やる。

 何処までも続くかに思える白さの先には、確かな終わりがあった。

 最奥に、魔王が居た。

 魔王の手前には剣を構える勇者。

 勇者の後ろで遊び人が石を掲げ、剣士アルスが剣を掲げている。


 歩いていき、直立不動のキャラクター達を通り抜けていく。

 アクイの横を通り抜け、国王の横を歩き、黒髪の少女の横を通る。


 

 一度は絶対に見た事あるキャラクター達で、少しだけ懐かしさが込み上げてくる。

 こんなにもまじまじと見たことは無いなと、軽く笑みを浮かべながら勇者の元にたどり着く。


 すかさず触れる。

 勇者は口を開かずに、声を発した。



「レベルをリセットしますか」


 なるほどと"名もなき者"は頷く。


「そうか。主要キャラ達にはレベルがあったのか。確かになきゃおかしいよな。なんで、考えもしなかったんだろ、オレは」

 

 そうぼやき、続いて魔王に触れる。


「――――移動しますか」


「…………あ?」


 もう一度触れる。


「移動しますか」


 返事は変わらなかった。

 口を動かさず発された言葉を吟味し、"名もなき者"は答える。


「……あぁ、移動してくれ」



 景色が変わった。




 ■■■




 白い風景から、赤い風景になっていた。

 

 "名もなき者"は瞬きをし、怪訝に眉を下げる。

 見たこともない奴らが近くに立っていた。

 世界を見回ったはずの"名もなき者"が心当たりない者達は、先程の空間と同じように直立不動で立っていて、真っ直ぐと整列している。


 振り返ると魔王が立っている。

 また触れたら戻れるのだろう。


 視線を戻す。

 明らかに先程の場所より人が少ない。

 八人だ、たったの八人。


 一人一人見ていく。


 白髪の子供、緑髪の女性、黒髪の男性、青髪の子供、黒髪のカツラを被ったような男性、緑色のゴブリン、赤色のオーク、そして黒髪の少女。



 

「…………あ、そうか。そうなのか、これは」


 なにかに気付いかのように"名もなき者"は慌てて歩み寄る。

 近くに寄って、確信する。


 白髪の子供をじっくり見て、呆然としたように――――振り返る。







 そこには魔王が居る。


 否、成長した白髪の子供・・・・・・・・・が居る。


 白髪の子供は、魔王だ。

 魔王の幼少期なのだ。



「うそだろ。んじゃ待て、まてよ。じゃあ、じゃあ」


 熱に浮かされたみたく足がふらつきながらも、"名もなき者"は然と緑髪の女性の前に立つ。


 綺麗な顔立ちをした女性だ。

 あの精悍な剣士が、隣に並ぶ姿を幻視する。


 

「な、なぁ! あんたなのか! あんただよな!」


 そうだ、絶対そうだと確信する。

 この女性こそは探しても見つからなかった、アルスの原点であり、魔王の姉。



「あんたが、ユレイアだろ!!!」


 


 過去には戻れはしなかったが。

 "名もなき者"は理想とは違う形で、悲劇の女性と出会うのだった。




「なぁ頼む! あんたが居てくれればこの世界で悲劇は生まれない! だからお願いだ! あいつらに顔を見せてあげてくれ! 頼む!」



 何度も頭を下げる。

 しかし思いは届かない。

 動かぬユレイアは、感情の見えぬ目で"名もなき者"を見るだけだ。



「……は、ははっ。だよ、な…………わかってんのに、オレはなんで……」


 膝から崩れ落ちる。

 身体に力が入らなくなった。

 ようやく出会えた悲劇の女性は、一切動けないと気づいていたのだ。だがそれでも、"名もなき者"は叫ばずにいられなかった。どんな形であろうと、想いを伝えたかった。



 しばらく赤い床を見続け、"名もなき者"はゆっくりと立ち上がる。

 視界に入れる。

 ユレイアの隣には白髪の子供、幼少期の魔王が居る。


 過去のキャラクターなんだと推測する。

 製作者にとって赤色の風景は、きっと過去を連想させるものなんだと考える。


 どうしてこんな場所に、この人たちを置くんだと思う。


 ゆっくりと、名残り惜しむようにユレイアから視線を外し、隣の黒髪の男性を見る。

 記憶にない人物。

 きっと、過去の物語で出てくる人なんだろうと考える。


 続いて青髪の子供を見る。

 

「……カクレー村の住民だな。この人も過去編に出るのかな」


 次に黒髪のカツラを被ったような男性の前に立つ。


「……あんたは、アクイ、か。それカツラか?」


 カツラらしき髪を触ってみる。

 しっかりと頭皮と繋がっていた。


「……ごめん、疑った。七年前はちゃんとあったんだな。いや、考えてみれば当然か。あんたは背負い過ぎて、ストレスで髪が禿げ…………まぁいいか。ごめん」


 申し訳なくなって謝る。

 人にはそれぞれ理由がある。


 七年前のアクイの横を通り、ゴブリンの前に立つ。


「……ちゃんと見たことなかったが、格好良いな」


 そうぼやき、オークの前に立つ。


「うん、強そう。でもなんで太ってんの? 動き鈍くならない?」


 そんな感想を言い、最後の少女を見やる。

 カクレー村の少女だ。

 どうしてこの子が最後なのか。



 "名もなき者"は歩み寄り、直感のままに腹の位置にある少女の頭へ右手を置く。





 黒髪の少女から、声が発せられる。





「――――ここまでプレイして頂き、ありがとうございます。どうでしたか、"悪意"を巡る戦いは。このゲーム【悪意の彼方へ】は」



 嫌な予感が瞬時に駆け巡る。



「人の悪意と向き合うのがテーマです。悪意とは際限なきものです。"作者"である"コタロー"は無い頭を絞って、このゲームを作り切りました。最初はマルチエンディング式のRPGを作ろうとしたそうですが」


 カッと、頭に血が上る。



「"作者"は頭が弱いので一つのエンディングしかない未完成のRPGとなりました。ですが精一杯作らせて――――」




 そこまで聞いて、"名もなき者"は衝動に動かされるまま叫んだ。















「――――ざけんじゃねぇぞ!!! 最後まで作れよ!! なに未完成の作品作ってんだ!! 終わらせろよ!! 誰もが納得するエンディングにしろよ! テメェのエゴで勝手に終わらせんな!! ユレイアさん幸せにしろよ! 死んだままにすんなよ!! 勇者に喋らせろよ!! 遊び人に悪意を持たせんな!! アルスにハッピーエンド渡しやがれ!! アクイに頭下げろ! ゴライアン死なすな!! テメェが死ね!! なにが悪意の彼方へ、だっ!! クソ厨二病みてぇなタイトルつけやがって!! クソが! 死ね! 厨二病なら厨二病らしく格好つけた物語作りやがれ!! クソ中途半端な物語のまま終わらせんなカス!! ―――っ!―――――――――あぁ!!―――――――― 」

 




 "名もなき者"は叫び続けた。

 声が枯れるまで叫んでやろうと決めて、ずっと叫んでいた。



 時間は、虚しくすぎてゆく。





 ■■■




「――――低脳野郎が!! 全部が全部中途半端野郎が!」


「――――――――」


「ぜってぇ殺す!! てめぇに会った瞬間にぶち殺す!!」


「――――――だよ!」


「生きてることを後悔させて殺してやる!!」


「――――ニーノ街だよ!」

 

「ケ○の穴に手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ揺らしてやる!」



「――――ここはダイニーノ街だよ!」




「…………あ」



 "名もなき者"はようやく気付く。

 目の前が真っ赤になっていた。

 怒りのままに叫び続けていた。

 それこそ、世界の初期化に気づかないぐらい叫び倒していた。


 世界が初期化してすぐにデバックルームに入っていたので、約五十日も叫んでいた。


 それでも"名もなき者"の怒りは収まらなかった。

 到底、抑えれるモノでもなかった。

 なにせ、本当に、どうしようもない世界だったのだ。

 救える手立ても希望も、もう無いのだ。

 確実に手詰まりで、一つとして考えれない。



「…………」


 途端に精神的な疲れがやってきた。

 やる気が何一つ起きず、動く気力も湧かない。

 数千回前の世界で無の境地に辿り着いていた"名もなき者"は、無の境地を展開する。











 気づけば、



「――――ここはダイニーノ街だよ!」


 

 父が初期化の始まりを告げていた。



「…………っ」


 無気力で、声にもならない声を出した。

 






 ■■■





「……なぁ、ゴライアン。もう、オレは何もしたくねぇよ」


「……」


 この世界から逃げ出したかった。

 けれど逃げる場所など、ここしか思いつかなかった。


「……」


「……」


「…………なぁ、ゴライアン」


「……」


 返事をしない親友に、寝転がりながら乾いた笑みを落とす。



「…………もう、嫌だよオレは。全部、無駄だったんだぜ」


「……」


「過去にはいけない。だってこの世界には過去は存在しないんだから。クソ"作者"が作ってねぇんだもん。もう絶対に、一人も幸せにならねぇクソッタレな世界だってよ。ほんと――――」


「……」


 "名もなき者"は忌々しく呟く。



「――――笑えねぇ世界だ」



 











 ふらりと、見慣れた剣を拾う。

 即座に正確無比な突きを放ち、剣を捨てる。

 発生した歪みに身体を潜り込ませる。


 白い世界に降り立つ。

 何もすることがないので此処に来た。

 やることなどない。

 やったとしても、結局は無駄に終わるのだ。

 ならばやらない方がいい。


 とぼとぼと力なく歩き、"名もなき者"はキャラクター達の横を通り過ぎていく。


 父の姿があった。

 母の姿があった。

 アルスの家を教えてくれた人の姿があった。

 走り回る子供の姿があった。

 国王の姿があった。

 青い体躯の、魔王の配下の姿があった。

 ゴライアンの姿があった。


「……あ」


 癖で思考を回し続けていた"名もなき者"は、ふとした疑問が芽生える。

 しかし、すぐに頭を振り払う。


 どうせ疑問を解決しようと動いたところで、無駄になるのだ。そう、何もしないでおこうと考える。






 ――――けれど、"名もなき者"の身体は、目は、意思と反して探す・・


 駄目なのだ。

 今さら、諦められない。

 結局のところ、幾ら諦めたフリを取り繕うと。

 人は、希望を見たくなるのだ。


 歩き回る身体。

 目まぐるしく回る視界。

 居るはずなんだと・・・・・・・・、希望を探す。



 そうして、結局見つけれない。


「…………はっ」


 自分の馬鹿さ加減を鼻で笑う。

 なんで何度も希望を見ようとするんだよオレはと。

 いい加減、全部諦めて無に生きればいいんだと。

 こんな世界なんて、目を逸らしちまえいいんだと。


 想い、想い、想い切れない・・・・・・



「――――クソがっ!!」


 諦めが悪いにも程がある。

 なんで自分はこんなにも馬鹿なんだと探す。




 ――――そう、馬鹿な自分"名もなき者"を探す。



「なんで居ねぇんだよ!! 居るはずだろうが!! ここには、全部のキャラクターがいんじゃねぇのか!!」


 これが、最後の希望にすると"名もなき者"は決める。

 『何かが』変わって、『何かが希望』増えるかもしれない。

 そんときは、そんときで、また頑張れる。


「出てこいくそがァ!! あほ面下げてるはずだろうが!!」




 そう叫んで、"名もなき者"は身体から力を抜き、足を止めた。



 唖然と自分の顔を両手で抑える。



「…………あ、マジで。え、オレってなんでこんなに馬鹿なんだ? …………嘘だろ、おい」



 気づいたのだ。

 

 ――――今まで、自分の顔を見たことがない事実に。


 この世界には鏡がない。

 この世界には反射という概念が存在しない。

 当然、水で自分の姿を見るのなんて無理だ。

 だから自分の姿を知らないことは、この世界ではふつうなのだ。



「…………あ、あぁ。あぁぁあああ!!!」



 顔を見た事がないキャラ。

 この白い世界に居る人物は、みんな知っている・・・・・


 何処かに居なかったか。

 顔の知らない人物が。


「あいつか!!」


 足に雷を纏い、瞬く間に魔王の前に立つ。

 優しく、肩に右手を置く。

 魔王は無機質な声を発する。


「――――移動し「する!」か」


 被せるように、食い気味に言う。



 景色が変わる。




 



 ■■■





 赤い世界。


 白髪の子供をまじまじと見て、よく見れば小さな角が生えてることを発見する。

 ユレイアの顔に泣きぼくろが有る。

 アクイの目が希望に満ち溢れている。

 青髪の子供は笑っている。

 ゴブリンは悲しげだ。

 オークは辛そうだ。

 黒髪の少女は楽しそうだ。






 そして、黒髪の男性は。



「――――よう、あほ面」


 "名もなき者"は話し掛ける。

 

「全然気付かなかったぜ、てめぇがオレなんだろ?」


 黒髪の男性へ、握った右の手を向かわせる。

 向かう先は、腹。


「おら、なんか言えよ――――オレ!」


 ごっ、鈍い音が響く。


 黒髪の頭上に【4】の数字が現れた瞬間、声が発せられる。

















「――――どうも作者です。誰だよこのキャラクターって思いましたか?」



 質問から始まった。



「この子は――――"アルラ・ローエン"です。十七歳。男性。ダイニーノ街出身。父はダイニーノ街の案内人。母はダイニーノ街の情報屋。十七歳でこの世を去った、英雄の器です。本来ユレイアの婚約者でありましたが、この設定は没。代わりにアルスという剣士を婚約者にしました」





「……?」




「何故ならば、このキャラクターはゲームのバランス崩壊を招くから。あまりにも強く設定し過ぎて、作者の僕でさえ笑った。この子一人居れば勇者なんかいらない。全部のマルチエンディングをハッピーエンドにできる。同時にバッドエンドにも出来る力を持つ。必殺技で"星斬り"という技を作っていたが、完全に深夜テンションだった。なんだろ、技の説明『世界が終わる』って。しかもちゃんと設定されてたし。技発動した瞬間【HappyEND】と表示された時は爆笑した」




 無機質な声でふざけたことを言い続ける"自分"に、声を出せないでいた。



「もう一つの必殺技の"空振り"も笑った。本当に面白い。深夜テンションの僕は、何を考えて説明欄に『世界が別の意味で終わる』と書いたのか。当然、こちらもちゃんと機能しました。【BADEND】と表示されます、草」



「……はっ」


 鼻で笑い、"自分"の声を聞く。



「ともあれ、このキャラクターをどうして残しているか。僕も疑問です。たしかにここまで設定を盛ってるキャラクターなので消すのは勿体ないですが、ストーリーに関わらないキャラクターなので普通は消しますよね、かっこわらいかっこ閉じる」



「……なにわろてんねん」




「閑話休題、真面目な話。僕はこの世界でアルラ・ローエンが一番好きです。絶対に消しません。このキャラクターは僕が一番最初に考えたキャラクターで。はい、絶対に消しません。どうか皆様も覚えていてください。このキャラクターは次回作でも登場させます。次回作はSFですが、絶対に登場させます。必殺技の星斬りも覚えていてください。たぶん使わせます」



「……何言ってんだお前」



 しばし空白が有った。

 話は終わりなのかと思った。

 違った、まだ話はあったのだ。




「――――追記。アルラ・ローエンを世界の悪意として登場させようと考えていたこともあります。ですが、そんなことをしてしまえばアルラ・ローエンはアルラ・ローエンじゃありません。たぶんアルラ・ローエンなら、世界の悪意に取り憑かれたとしても自力で抜け出せる精神があります。本当にこの子を登場させてみたかった。ごめんね、アルラ・ローエン。……と謝ってみたものの、この子の設定なら自力で物語に介入するかもしれません」




「……」



 "自分"は、最後に語った。





「……なにせこの子は世界で一番"悲劇"が嫌いで、誰よりも諦めが悪い子なんです。そして、繰り返されるこのRPGの悲劇を黙って見過ごすなんて、絶対にできない性格なんです。もしかしたら、この子が自力で動いて、悲劇を幸せな結末に持っていくなんてことを夢想している僕が居ます。だからこそ、こんな結末にしてしまったのかもしれません。不快な思いをさせて申し訳ないです。……では、またいつの日かお会いしましょう」











 ■■■




 終わった語りに、"名もなき者"は瞠目する。


 ストンと胸に落ちた。

 設定だ。"作者"の設定で"自分"は此処に居るんだと。

 明確に知った。


 




 よって、道は定まった。


 目を開く。

 世界が輝いて見える。





 

「……そうだな。許せねぇよな。あぁ、ひっくり返そうぜ。この腐った悲劇を、最高に幸せな結末へ変えてやろう。見せてやろうぜ――――"アルラ・ロオレーエン"」



 





 悲劇を待つ勇ましき者勇者に、


 悪意に溺れる未来の賢者遊び人に、


 復讐に燃える幸せ者剣士に、


 悪意を伝える為だけの領主アクイに、


 惨劇を迎える親友ゴライアンに、


 願望を抱く不器用な少年魔王に、





 特等席で、最高に幸せな結末を見せてやると宣言する。











 ■■■





 ――――剣士が自然な動きで前に出る。


 赤き髪が風で揺れ、淀んだ目が然りと魔王に向けられる。



「――――おい、クソ魔王。テメェに言いてぇことがある!!」


 魔王がゆっくりと豪勢な椅子から立ち上がり、哀しげな目で見下ろす。


「……戯言に付き合う寛大さは持ち合わせている」


 剣士の表情から怒気が現る。


「どうして"ユレイア"を殺しやがった! 俺が心の底から愛した女を、なぜ奪った!!」


 それこそは剣士アルスの始まり。

 愛する女を魔物によって奪われた男の悲劇。

 問い掛ける剣士に、魔王の目が揺らぐ。



「……そんな名前、聞いたこともない」



 つまらない返答。

 剣士の身体から怒気が溢れ出す。


「よぉーくわかったぜ。テメェを、此処で殺さなきゃいけねぇってことがよぉぉぉ!!!」




 剣士が斬りかかり、戦闘が始まる。


 


 弧月を描く剣の軌跡が繰り広げられる。

 幾重にも剣戟が鳴り響く。

 魔王の黒き剣が、剣士の剣に弾かれる。

 

「おらぁあああああ!!」


「ぐっ……!!」


 豪の剣が、柔の剣を襲い続けている。

 剣士の剣が一方的に攻めていた。

 魔王の剣が押されている。


 状況は変化した。

 魔王の剣が形を変える。

 瞬く間に、剣から杖に。



「舐めるなぁぁ! 下等種げとうしゅがァ!!」


 杖から黒き雷が放出され、剣士はすぐに身を下がらせる。

 身を翻したその瞬間に、数瞬前まで居た場所が焦土と化す。

 

 剣士は軽口を叩く。


「ちっ、危ねぇな」


 額から汗が落ちる。



 長引けば魔力の差で負けると思考を回し、剣士アルスはその身に雷を纏う。



「ラァッ! これで、効かねぇ!」


 剣士アルスは雷を纏いて飛び掛る。

 魔王は杖から黒き雷を放出し、アルスに当てる。


「ぐぅっおおおおおお!!!」


 耐える。耐える。

 アルスの白き雷が黒き雷を打ち消し、豪の剣が魔王の身体を肉薄する。


「チィッッ゛!!」


 舌打ちを鳴らし、魔王は飛び下がりながら杖から黒き焔をばら撒く。

 雷の次は炎かと、剣士アルスは軽く舌打ちをする。


「ちっ、魔王なだけあって芸が多いな」


「はぁ、はぁ、な、めるな、下等種が……はぁ、はぁ」


「……まっ、流石に魔法の行使に身体が追いついてねぇか」


「だま、れぇ!」


 杖から吸い込むような黒き水が放出される。

 その水を見た瞬間にアルスは顔色を変え、後退する。


「っと、やべぇなそれ」


 直感で何かを悟ったアルスがそう口ずさみ、戦闘の参加者が増える。


「――――えぇ、あの黒い水の魔法は避けて正解でしたよアルスさん」


 剣士の背後に遊び人が現れた。

 青いキャップから覗く茶髪が揺れ、何処か精悍さを感じる顔つきで黒き水の解説をする。


「おそらくは魔王が扱う魔法は、遥か昔に失われた闇魔法です。彼の放つ魔法は、既存の魔法の一段階上だと思ってください。水の魔法の本質は飲み込むことにあり、闇魔法で進化、または退化した水魔法は当たれば最後。魔力を全て飲み込まれるでしょう」

 


 剣士は顔を歪める。

 そして、不敵な笑みを浮かべながら足を動かした。




「……やりにくいな、合わせろよ――――勇者」



 唸る剣を突進することで進ませるアルスの後ろから、第三者の介入――――即ち、機をじゅくして勇者の登場。


 身体を黄色く光らせた勇者は剣を振るい、土を出現させる。


 黒き水を瞬く間に食い止める土。

 その事象に気付いた魔王が腹正しそうにする。


 流れゆく光景を見やる遊び人はほくそ笑む。


「ですが、失われた魔法を扱うのはあなただけじゃない。かれも一緒です。……さて、大勝負です。闇の力と、大地の力。どちらが上か――――今一度、決着を付けましょう」



 遙か昔に衝突した大地と闇がぶつかり合う。


 激突する土と黒き水は拮抗し合い、同時に消える。

 遙か昔より続く大地と闇の戦いは呆気なく終わりを迎え。


 寸前、見計らっていた剣士アルスが豪の剣を魔王の心臓目掛け突きを放つ。


 同時に、杖から大楯に形を変えた魔王の武具の前で、豪の剣が激しく止まる。


 剣士は笑った。

 これで決まりだと。



「――――行けや、勇者ぁ!!!」



 剣士の背中を超え。


 魔王の大楯さえも飛び越えた勇者の身体が宙を舞う。


 魔王の哀しげで、

 願うものに手が届かない子供のような表情を視界に入れたまま――――。







 ――――勇者の剣を、アルラ・ローエンは止めた。





「よぉ、勇者。悪ぃがお前の時代も此処で終わりだ」



 ボロい剣に雷を纏わせた介入者異物は、はっきりとそう言った。

 

「なっ!?」


 背後で魔王がシステムの強制で斬られ、叫び声を上げる。

 だがそれがどうしたと言わんばかりに、アルラ・ローエンは勇者の剣と勇者の身体を弾き飛ばす。


 アルラ・ローエンは即座にボロいつるぎの剣先を、上段に置く。



 そして、放つ。




「――――"ほしり"ぃぃっぃいい!!」



 それこそは悲劇に満ちた世界を終わらせる斬撃。

 振り下ろされる剣が神々しく輝く。

 瞬く間に白き輝きが世界を支配し。


 システムを破る・・・・・・・


 ぶっつけ本番で使った、身体に備わった必殺技をアルラ・ローエンは理解する。



 これこそが、世界ゲーム物語シナリオを書き換える技なのだと。



 手繰り寄せ、引き寄せる。


 自らが望む、最高に幸せな結末を。




「見えた! オレが望む結末が!!」



 アルラ・ローエンは、剣を振り切った――――。










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約束されしバッドエンドに終止符を 東雲 和哉 @ryo0307215ryo

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