終わりにしよう
今日君は、僕と君がずっと一緒に過ごしてきたこの家から、愛する人の所へ旅立って行くんだってね。
初めて僕が君に会ったのは、もうすぐ夏休みという時だったとパパさんから聞いたんだ。その時君は僕をみてヒマワリのような笑顔を見せてくれたのを、今でも鮮明に思い出せるんだ。
そんなまだ小さかった君は僕と一緒にグングンと大きくなっていった。短かった髪も長く伸ばして、それが陽射しを反射してキラキラ輝く様子は、まるでどこかの国のお姫様みたいだと思ったんだ。
すっかり大人っぽくなった君は、とかいという遠いところにあるだいがくって場所に行くために、一度この家を離れたんだっけ。そのお別れの夜は僕と君はひとつのベッドで最初で最後の添い寝をしたんだよね。あれは本当に嬉しかったなあ。
そうして君がとかいという場所にいってしまってからいくつも、はるなつあきふゆ、が過ぎて、やっと戻ってきてくれた君のとなりには、もう僕じゃなくて知らないお兄さんが立っていた。
寂しかった。僕の君は知らないお兄さんの君になっちゃったんだもの。すごくすごく寂しかった。でも、君と一緒にきたお兄さんはとてもいい人だってすぐにわかったから、我慢できた。なんでわかったかって?そりゃあパパさんと同じ匂いがしたんだもん、お兄さん。だから大丈夫だって思ったんだ。
そうして迎えた今日、君はそのお兄さんの家族になるために、この家を離れるんだね。それきり戻って来ないんだなって、僕でもわかる。だけど、今回は寂しくも心配もしてないよ。
ううん、違うかな。君のその真っ白なドレス姿を命があるうちに見れてよかった、そんな感謝を神さまにしているんだ。
ああ、ほら泣かないで。今日は君のハレの日じゃないか。だから初めて見せてくれた、あのヒマワリみたいな笑顔をまた見せてくれないかな?ね?僕の大好きだった、きみのあのえがおを、もう一度。
「今日まで生きていてくれてありがとう。もう苦しいのも痛いのも終わりにしようね。お疲れさま――」
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