第23話
平和だった食堂は一気に騒然とする。俺たちの周りに座る人は誰もいないし、遠くからカメラを構えている人もいるくらいだ。
「……てめえ、何しやがんだっ!」
次の瞬間、岩島は立ち上がって白崎の胸ぐらを掴む。遠くから悲鳴が上がる。
白崎は、小刻みに震えながら、泣きそうになりながら岩島を睨む。
「もう殴っても無駄だよ」
「チッ」
もう?
まさか、こいつは日常的に……。
「ずっと言いたかったんだけど」
「何だよ」
「……ごめんね」
「あ?」
白崎はそう言って不器用に笑みを浮かべた。
「私が甘えてたんだよね。このままずっと優しいままだって、私だけを見てくれるって思い込んでたから、あなたはそれが気に食わなかったんでしょ?」
「何の話だ」
「私が間違ってた」
白い頬を涙が流れていく。
「ごめんね。期待したのが間違いだった」
「喧嘩売ってんのか?」
「そう受け取ってもらっても良い」
静寂、唾を飲み込むことも憚られるような重い空気が流れる。
「私、今更になって思うんだ」
「……」
「何で、あなたみたいな人を好きだったんだろうって」
「……要、もうしねえから、もう一度やり直そう」
そう言って服から手を離そうとする岩島の腕を、白崎は逃がすまいと力強く掴む。
「もう無理だよ。気付いちゃったから」
「……何に」
「こんな優柔不断な私にずっと優しくしてくれた人がいたことにだよ」
白崎と目が合う。力のこもったその視線に思わず仰け反りそうになるが、反対に白崎はさらに前のめりになって岩島を睨み上げる。
「私はもう間違えない」
「……」
「あなたのことはもう、好きじゃない」
白崎がそう言い切った瞬間、岩島は白崎の手を振り払う。
「ああそうかよ。後悔すんなよ?」
「そっちこそ」
「安心しな。俺は芯の強い女が好きだからよ」
去り際、岩島は姫に視線を送った気がするが、今はそれどころじゃない。
「白崎さん!」
白崎の顔は真っ青で、今にも倒れてしまいそうだ。しかし、支えようにも俺からはテーブルを挟んでいるからすぐには行けない。
「姫さん!」
その瞬間、ユリの切羽詰まった声が響く。
「白崎さんを支えてあげて!」
「でも……私……」
「マスターならそうします!」
「……」
「わかるでしょ⁉」
次の瞬間、姫は立ち上がって白崎の両肩を掴む。
すると姫はハッとして、次に心底困ったような表情を浮かべて、最後に唇を噛み締めながら、表情を見られないように俯いた。
「バカ」
俺は我に返って、テーブルを回り込んで二人に駆け寄る。
「バカだね。ほんと」
心配してくれた人たちが近づいてくる気配を感じながら、姫のそんな声が聞こえてきた。
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