第11話

『何をやってる⁉』


 俺は血眼になってユリにメッセージを返す。


『お二人のデートを監視していました』


 ユリはさらに続ける。


『恋仲でないのが不思議なくらいでしたね』


「こ、こいつっ……!」


 ずっと見ていた⁉ どうやって⁉ まさか、Wi-Fiを使ってスマホにアクセスしたのか? どれだけ嫉妬深いんだよ……!


「修司?」


「えっ」


「どうかした?」


「え、いや、何でも」


「何でもって、明らかに何かあった顔してるけど?」


 俺の演技力では姫に敵わない。ならいっそ、腹を括ってしまった方が良い。


「実は、地元の友達の妹と連絡取ってるんだけど」


「うんうん」


「その子がどうやら、俺のことが好きみたいで……」


「……」


 頬杖をついている姫の冷たい視線が突き刺さる。


「あんた大丈夫?」


「いやいや本当なんだよ。で、今もメッセージとか結構送られてきてて」


「嫌って言えば良いじゃん」


「え? うーん」


 嫌、と言ってしまうとユリは確実に傷つくだろう。とは言っても今じっくり言葉を選んでいる時間も無い。


 どうしたものかと悩んでいたそのとき、


「っ!」


 あろうことか、ユリから電話がかかってきた……!


「電話? その子から?」


「えっ、あ、うん」


「私が話すから、ちょっと貸して」


「え、でも」


「良いから」


「あっ」


 半ば取り上げるようにして、姫は俺のスマホを耳に当てる。


 ユリは一体どうやって俺のスマホに電話を? いやそれより、ちゃんと練習した通りに話してくれよ……!


「もしもし?」


「……もしもし、その声は泥棒猫さんですか?」


 おぉぉい! 何言ってくれとんじゃワレ!


「あらあら、悪い虫さんは礼儀がなってないのね?」


 ちょ、姫も言い返さなくて良いから! 眉間にめっちゃ皺寄ってるから!


「あなたより私の方がマス……修司さんとの付き合いは長いです。私たちの関係に横槍を入れたのはあなたの方です」


「へえ、そこまで言うなら聞くけど、修司とは何年くらいの付き合い?」


「七年です」


「……中々やるわね」


 何がだよ。気まずいから早く終わらせてほしいんだが。


「あなた、名前は?」


「ユリと言います。田舎出身です」


 地元同じ設定なんだからわざわざ言わなくて良いんだよっ。


「私は姫。で、ユリちゃん、ごめんだけど今修司と二人でいるから、少し連絡控えてくれない?」


 今修司と二人でいるから、の部分、やけに語気が強く感じたのは気のせいだろうか。ああ、早く終わってくれないかなぁ。


「……わかりました。ただし、修司さんには手を出さないと約束してください」


 そんなこと姫がするわけないだろ。


 姫は俺のことをチラッと見て、やれやれとため息をついた後口を開いた。


「わかった。約束する。それじゃあ、き」


「では行きますよ。指切りげんまん」


「「⁉」」


 電話越しに指切りげんまんだと⁉


「嘘ついたら針千本のーます。指切ったっ」


「「……」」


「では、失礼します」


 戸惑い、静寂、少し経って姫は俯いたまま俺にスマホを差し出すが、その手は小刻みに震えている。


 ああ、これからユリについて徹底的に詰められるんだろうなぁ。


 俺は次に頼む飲み物をことを考えながら覚悟を決めた。

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