第17話 第2の変態、現る!

ダンジョン18日目 ダンジョン執務室 配下 ノーラ婆さん、バンパイアバット(ミスティ)、吸血コウモリ、血まみれコウモリ×2、角モグラ×2、擬態スライム、水の変態


「マスター。起きてください」


 クリュティエの声で俺は目を開ける。

 ん? 近くねえ? 

 ブルーの瞳と薄桃色の唇が近い!


「近すぎる! とにかく離れろ!」


 すっと顔が離れていき、遠くで舌打ちが聞こえた気がする。

 こいつは、いつも通りだな。

 俺は執務室の簡易ベッドから身体を起こす。


「おはよう、クリュティエ。ミスティの様子はどうだ?」


 側にいって見ると、ミスティは羽根を広げたままクウクウと眠っている。

 起こさないようにクリュティエから話を聞くと、昨日、水癒を何回か試したとのことで、よく見ると傷口が少し塞がっているのが分かる。


「ありがとう、クリュティエ」


「えっ? マスターが私にお礼を……。ついに私の魅力に気付いたのね」


 最早、突っ込みすらせずに俺は黙って入口の方へと歩き出す。 

 無視!

 クリュティエも、身体をくねらせながら俺の後を追ってくる。


 入口からは、いつもと変わらぬ丘や川の流れが見えるが、やはりここから出ることができない。

 太陽は大分高く上がっており、もうすぐ昼になりそうなことが分かる。


(やっぱり外へ出たい! 何度でもチャレンジだ。でも、戦力がなあ)


 飽きずに風景を眺めていると、向こうから見慣れた体型の男が荷車を引きながら、こちらに向かっているのが分かる。

 入口で俺を見つけたゼニスが凄い勢いで突進してきた。


「ダイスケは~ん、本当にごめんなさい。あんなダンジョンを勧めてしまって」


 メチャクチャ頭を下げてるが別に気にしていない。

 今日、ここに来てくれたのは誠実な証拠だよ。


「ゼニス、いいんだよ。そんなに被害も無かったしな」


 がっちり握手をして一緒に執務室まで歩く。


「次のダンジョンアタックは戦力が揃ってからにしたい。それとダンジョンマスターの情報も集めてほしい」


「分かりました。あと、クリュティエさんのコンサートは?」


「いつも通りやるよ」


 ゼニスの顔がぱあっと明るくなる。

 ブレないな、ゼニス。

 必要なものを購入しゼニスを見送った後、婆さんが煙と共に登場する。

 

「ノーラ婆さん、待ってたよ」


 婆さんとモンスターの出現を待ちながら、この前の失敗について意見を聞いてみる。


「失敗なんてないさ。次に成功するためのステップと思えばええ」


 さすがだ、婆さん。

 『輝く明日のための24ステップ』的な本が書けるぜ。

 その日、発生したのは吸血コウモリだった。


「じゃあ、合成いきますぞ」


 見慣れた魔方陣にミスティを置き、呪文を唱え始める。

 ん? 今日はなんか煙の色が違う? 

 何というかピンクで煙の範囲が大きい。


 ドンという音と共に、一人の女性が現れる。誰だこれ? 


「うぇーい、バンパイアギャルで~す。よろー」


 ピースサイン? 

 というかミスティー、どこいった?

 その瞬間、その女の人がドカンと俺の胸に飛び込んでくる。


「ぐはっ!!」

 

 ふにゅ?

 ねえ、この女の人、まっぱ(真っ裸)ですよ?

 

「お、お前、誰だよ!!!!」


「わたし、ミスティーで~す」


 両手を広げて、めっちゃ笑顔だ。

 見えちゃイケナイものまで見えそうですよ。

 マジッスか?


「マジッス。マスター!」

 

 俺の胸のところに頭を擦りつけている。

 うん、確かにこの癖は……。

 こんなに接近されると、胸なんかを見ちゃうよな。

 

 「え? マスター。私に見とれてる説ある?」


 ねえよ。

 今まで健気に頑張ってきた子が、いきなり斜め上に方向転換したような違和感が凄い。

 俺は掛けているバスタオルを2枚取り、すぐに身体を隠すよう命じる。

 

「ミスティー。お前、何ができるんだ?」


「マスターと子どもをつくることができま~す」


 いやいや、そんなんじゃなくて……。

 バスタオルで身体をまとって正座しているけど、逆にエロいな。


「あと、寝苦しい夜は身体が冷たいので抱き枕になれます。うぇ~い」


 俺は無言でミスティーに近づく。

 がしっと上腕で頭を掴み、強めのヘッドロックをかける。


「真面目に答えよう、な」


 正直、バンパイアは怖いんだが、それよりもウザさが半端ないからな。


「真面目に答えてる……」


 しゅんとしているミスティーを見て、少しだけ後悔の気持ちがわいてくる。

 こいつも、レベルアップしたばかりで戸惑いもあるよな。


 でも、コウモリからいきなり人間、しかも女の子ってラノベみたいだよな。

 銀色の髪が肩まで伸びで、目はルビーみたいに赤い。

 でも、それが逆に綺麗なんだな。


 口は牙が八重歯みたいな感じだし、正直、可愛いよ、うん。

 肌は白くて、スタイルもいい。

 主張しているところは主張しているし。


「マスター。そんなに見つめられると……」


 どうしてアンデットの頬が赤くなるんだ?

 死んでるんだよね?

 

「ほら、前にマスターの血をもらったことがあるじゃないですか。そのとき、私の身体の中でマスターのモノが……」


「おい! 言い方!!」


 危険ですよ。こいつ、平気で15禁を超えようとしてきやがる。


「マスターの血とコウモリの血が混じって、すっごく人間寄りのバンパイアギャルってとこです」


 とこですって……。

 とすると、不死とか怪力はどうなるんだ?


「不死はよくわかりません。怪力は、このくらいです」


 近くにある机の足を片手で握って持ち上げる。

 本とかも積んでるし、100kgはあるだろ!!

 マジか。

 

「とりあえず仲間に挨拶しろよ」


「おけ。バンパイアギャルのミスティーです。みんな、よろ~。マスターと子どもをつくって幸せに暮らすのが夢で~す!」


 こいつ、さらっと、とんでもないことを言いやがる。

 ほら、案の定、出てきてしまったじゃねえか。

 チーム1の変態が。


「ミスティ! それは聞き捨てならない。マスターは幼い身体に欲情するド変態! 大人の女なんかに興味ないんだよ!!」


 どす黒い怒りが込み上げ、イノキのテーマがボリュームMAXで頭に響く。

 近寄ってきたクリュティエの脚とあごを掴んで、アルゼンチンバックブリーカーを決める。


「マスター。私をこんなに仰け反らせて……。こんなプレーがお好きですか?」


 と、ニヤッと笑ってきやがった。

 俺は無言のまま、前方へ投げ落とすと同時に左腕を相手の首元に巻きつけ、体重を掛けて床に叩きつける。

 変型のゴー・フラッシャーだ。

 スペースが空いてて良かったぜ。


 クリュティエは目を回して、立ち上がれない。


「俺はお姉さんが好き! 分かったか?」


 そこにいた全員が青い顔で頷くのだった。

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