かき氷 これなら通る 喉の奥

かき氷

これなら通る

喉の奥




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【とある癌患者さんの手記】


「気合いをいれて旦那が料理してくれたんだけれど、美味しくなかったのよね」


 ケアマネジャーさんの物言いに、思わず笑ってしまった。

 彼女は明るい。


 でも、鬱陶しくなる明るさじゃなくて。すっと、陽光が差し込むようなそんな暖かさを感じる。


 哀れむでもなく。悲観するでもなく。突き放すでもなく。そんな当たり前に救われる。


 骨転移って怖い。ちょっと転んでも、あたっても。骨折してしまう。

 医療用麻薬で、便秘になる。

 正直、食事も喉に通らない。


 貴方が用意してくれた食事を残すのが、申し訳ない。

 痛みで当たり散らしてしまう。

 本当は、そんなことを言いたいワケじゃないのに。


 それなら、いっそ施設に入った方が――。


「我が儘って思ったら辛いから。お願いしたら良いのよ。我慢したら辛いから」


 ケアマネさんはそう言う。

 お願いしてみよう、か。

 食べたら吐きそう。


 でも、貴方が作ってくれたかき氷なら――。


(あの子達も好きだったもんね)

 あの子と言うには……そういえば、もう背を越されちゃったね?


(あのね……?)


 喉の奥に飲み込んできた不安、漏らしても良い?

 私、貴方と、もっと行ってみたい場所があったの。

 私、貴方と。貴方ともっと、もっと。

 もっと――。




 もっと――。





※季語は「かき氷」でした。


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