20年前の目撃者

天川裕司

20年前の目撃者

タイトル:(仮)20年前の目撃者


▼登場人物

●朱雀洋子(すざく ようこ):女性。30歳。シナリオライター。

●本多恵一(ほんだ けいいち):男性。50歳。ジャズバーのマスター。

●本橋美羽(もとはし みう):女性。22歳。ジャズバーの店員。

●沼田浩二(ぬまた こうじ):男性。50歳。20年前の事件の模倣犯。

●警察:一般的なイメージでOKです。


▼場所設定

●ジャズバー:お洒落な感じのカクテルバー。人里離れた所にある。

●街中:殺人現場の森林や店の周辺など一般的なイメージで。


NAは朱雀洋子でよろしくお願いいたします。

(イントロ+メインシナリオ+解説:ト書き・記号含む=3664字)



イントロ〜


皆さんこんにちは。

今回はサスペンスが幾つか絡んだ少し複雑なお話です。


主人公はYouTubeドラマの脚本家。

彼女はひょんな事から或る事件に遭遇します。


その展開からラストまで、意味怖の形でお届けしましょう。



メインシナリオ〜


私の名前は朱雀洋子。

今、YouTubeドラマのシナリオライターをしてる。


私はいま神奈川県の郊外に在住。

この地区は辺境の土地で、周りに店はほとんど無い。


実はここ界隈で20年前、未解決事件が起きていた。

被害者は1人の女性。

首なし死体で発見された。

しかし遺体の損傷・腐敗が激しく、

その女性の身元は未だに判らない。


私が書いてるシナリオはいわゆるサスペンスもの。

いつかその事件もパロディとして書いてみようと思っていた。


私の家の近くにジャズバーがある。

息抜きに私はそこへよく通うようになった。


ト書き〈ジャズバー〉


本多「いらっしゃいませ」


結構、小洒落た雰囲気。

ややクラシックなムードも漂う。


お店のマスターは本多さん。

とてもダンディーな人。

先月からお店に入った店員・美羽ちゃんと2人で、

こじんまりとお店を経営している。


洋子「マティーニ、お願いします」


美羽「かしこまりました」


美羽ちゃんは今、新人ながらカクテルを必死に覚えている。

自分が調合したカクテルの味を、

マスターに何度も確認して貰おうとしていた。


洋子「ここの店、見つけてよかったなぁ。雰囲気もいいし」


マスターも美羽ちゃんも話し好き。

いろんな話をしてくれる。


ト書き〈事件の事〉


そんな或る日。

あの20年前の事件の事が話題になった。


本多「ああ、あの事件ですか。あれは本当に悲惨なものでしたよ。被害者は締め殺されて、首まで刈られてたっていうんですからね…」


私はシナリオライターの血が騒ぎ始めた。

ここで出来る限りいろんな話を聞き、取材して、

シナリオのヒントになるものを見繕おうとした。


美羽「マスター、新しいカクテルを考えてみたんですけど、味を見て頂けませんか?」


本多「ん?ああそうか。でも今は忙しいからまたあとでね」


洋子「でもあの事件ってまだ未解決なんですよね?今でも犯人がどこかに潜んでるって事なんですよね」


本多「そうだね。そう考えると本当に怖いね。早く見つかって、ここ界隈の人も安心して住めるようになってほしいよ」


(別日)


それから数日後。

私はまたバーへ来ていた。


私はやはりあの20年前の事件が気になっていた。

「未解決事件」と言うのに心が惹かれる。


あれからその事件の関連資料を幾つか調べてみたが、

どのような経過でどう被害者が殺害されたのか?

その辺りの事は全く判っていない。


警察も当時、極秘捜査を進めていたようで、

その辺りの情報はほとんど開示していない。


洋子「へぇ、美羽ちゃんって鎌倉出身だったの?」


美羽「ええそうなんです♪良い所ですよ」


私はもともと東京生まれ。

ここへ引っ越してきたのはつい最近だ。


洋子「へぇ〜鎌倉かぁ。まだ私行った事ないなぁ」


この日、マスターは買い出しで店に居なかった。

「昼過ぎまでには帰るから」

と、その間、美羽ちゃんが店を任されていた。


私は美羽ちゃんといつものように談笑。

世間話から趣味の話、いろいろ話す内に、

話題はあの事件の事になっていた。


美羽「被害者の女性も鎌倉の出身だったようで、同じ所に住んでいるから私も怖いです。本当に早く犯人が捕まって、然るべき罰を受けてほしいです」


そんな時、客が1人訪れた。

男の人。

歳は50代くらいだろうか。


美羽「いらっしゃいませ」


美羽ちゃんは愛想よくカウンターへ案内。


沼田「スコッチくれ」


美羽「かしこまりました」


どことなく、とっぽい男の人だ。

なんだか気難しそうな顔をして、

春先なのに厚手のコートを着ている。


洋子「(なんか変な人…)」


それから少しして、本多さんが帰ってきた。


本多「やぁごめんね。ちょっと遅くなっちゃったな」


美羽「お帰りなさい」


本多「店のほうはどう?大丈夫だった?」


美羽「ええ大丈夫です♪あ、私また新しいカクテルを考えたんですが」


本多「ああそうかい。でもちょっと今はアレだから、またあとでね」


本多さんは買い出しの荷物を整理し始めた。

そしていつものバー店服に着替えカウンターに着く。


本多「いつも有難うね♪あなたのような常連客は本当に有難いです」


洋子「いえいえそんな」


その内、横で飲んでいたあの男性客が席を立った。


その時…


「バタン!」(ナイフが落ちる音)


洋子「(えっ?!)」


その男性客の懐からナイフが床に落ちた。

一瞬見ただけだけど、そのナイフは何となく赤かった。


男性客はすぐに床からナイフを拾い…

「早く勘定してくれ」

と言ってお金を払い、そのまま店を出た。


洋子「さっきのってナイフ…?」


私はさっきの驚きを、そのままマスターに話した。


本多「あのお客さんね、ちょっと訳アリみたいだよ。実はあのお客さんも常連で、この店を始めてずっと30年くらい、通い続けてくれてる人なんだよ」


洋子「え?そうだったんですか」


本多「ああ。でも何となく胡散臭い男さ。さっきのナイフ、赤かったろ?あれ多分、血じゃないかと思うんだよね」


洋子「えぇ?」


本多「でもあのお客さんほとんど喋らないし、それが血だと言う確証も無い。それにここはお店だし、もし面倒事に関わってしまったら大変だからね」


急に怖い事を言い始めた。


本多「君もあの人には関わらないほうがいいよ。もし話しかけられて、誘われても絶対行かない方がいい。これは僕の勝手な想像だけど、あの20年前の事件の犯人、もしかしたら彼なんじゃないか…なんて思う事があるんだよ」


洋子「…」


一瞬、沈黙。


マスターはお店の事を考え、

「面倒事には一切関わりたくない」

その思い1つで、

そんな疑惑を全て胸に仕舞い込んでいたようだ。


「警察にすぐ言うべきじゃないか?!」

そんな思いも当然沸いた。


でも、そうは言っても私達はやっぱり素人。

「あの男の人が犯人」

と言う確証も無いまま警察に通報し、

もしそれが間違っていた場合、

ただあの人の名誉を傷付けるだけになる。


名誉棄損。

それを考えると、なかなか通報に踏み切るのにも勇気が要るものだ。

少しマスターの気持ちも分かる。


ト書き〈沼田逮捕〉


それから僅か数日後の事だった。


洋子「ウソ…やっぱりあの人…」


私の隣でスコッチを飲んでいたあの男の人。

彼が逮捕されたのだ。

名前は沼田浩二。


容疑は殺人。

それも被害者の首を刈り、

あの20年前の事件と同じ犯行の手口。


彼が店を訪れたあの日に、

被害者女性の遺体が発見されていた。

あのナイフはやはり犯行に使われたもの。

だから血が付いていたのだ。


しかし警察の公式会見では…

「20年前のあの事件を模倣したものか?」

と言う見方も立てられていた。


ト書き〈後日〉


それからまた数日後、お店に行った。

その時もマスターは何かの用事で外へ出ており、

店には美羽ちゃんが1人居る。


洋子「あの男の人、殺人犯だったんだね…」


美羽「私もニュース観てビックリしました。まさかあんな近くに居たなんて。マスターもテレビ観ながら『やっぱりそうだったか』なんて言ってましたよ」


私達は話しながら身震いしていた。


美羽「でもまだ安心できませんよね。警察はまだ、あの男の人が20年前のあの事件の犯人だって突き止めてないんですから。模倣犯なんて言ってますし」


そう言いながら美羽ちゃんは、

今作ったばかりのカクテルを手に持ち、

うっとりしながら…


美羽「きっと犯人には、このお酒で天罰が下ると思う」


そう言った。



解説〜


はい、ここまでのお話でしたが、意味怖に気づきましたか。

それでは簡単に解説します。


20年前に起きた事件の被害者は、

遺体の損傷・腐敗が激しく、死因も特定されないまま、

犯人も未だ判っていませんでした。


その死因が特定されなかったにも関わらず、

マスターの本多は…

「締め殺されて」

とその殺され方を知っていました。

それはつまり、彼がその女性を殺した犯人だったからです。


そして被害者女性の身元が判らないにも関わらず、

「その女性は鎌倉の出身で」

と美羽が言います。


実は、殺された女性被害者の子供が美羽だったのです。

美羽がジャズバーで働き始めたのは先月の事。

つまり美羽が真犯人を見つけたのはつい最近。


本多もまさか美羽が、自分が殺した女性の子供だとは気づいていません。


美羽は執念で見つけたその犯人を、

自分で殺そうと思っていました。

「法律の裁きなんかに任せたくない」

その思い1つで動いていたのでしょう。


途中でスコッチを飲んでいた男・沼田が逮捕されますが、

彼は警察の見解通り、

20年前の事件を模倣しただけの犯人でした。


真犯人は本多。

そしてその本多を酒で殺そうと、美羽は近づいていました。


でも力ずくでは、逆に返り討ちに遭うかも知れない。

そう考えた美羽は確実に殺す方法として、

「カクテルの味を見て貰う」

という方法を試みたのです。


今回は…

・本多が引き起こしていた20年前の殺人事件

・それを模倣した沼田の殺人事件

・そしてこれから起ころうとしていた美羽の服毒殺人

この3つの事件が並行していたストーリーでした。


身近で起こる事件にも得てしてこのような、

時間を遡ったきっかけと土台がある事も多いようですね。



これまでに書かせて頂いたYouTube動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=EYHh-pUJaMo

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20年前の目撃者 天川裕司 @tenkawayuji

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