打ち合わせはカフェ。仕事ならファミレス。読書はバー

白夏緑自

第1話

「打ち合わせはカフェ。仕事ならファミレス。読書はバー」

 友人のフリーランスに普段どこで過ごしているのか尋ねてみたら、こんな答えが返ってきた。なんとも羨ましい、自由の民である。こちとら普段は週5日の毎日9時間オフィスに拘束されている会社の奴隷だ。縛られない生活には一定の憧れがある。


「いや、家で仕事ができないだけ。なんだか決まった場所で特定の行動をするみたいなルーティンを作らないと集中できなくなった」

 それぞれ、何が違うのか。なんとなく、わかりきっている質問だが、一応話の流れとして訊いてみた。


「カフェは食べ物を頼む必要が無くて、コーヒーで粘れる」

 ファミレスも一緒では?

「ファミレスにボックス席はあっても個室はないから。それに、カフェの飲み物は割高でも相手の経費で落ちるからガブガブ飲める」

 そう言って友人は5杯目のコーヒーを取りに席を立った。ここがスタバでよかった。キャッシュオンスタイルのおかげで会計が1回ごとに発生する。割り勘だったら断固抗議するところだ。

 その前にカフェイン中毒でくたばるかもしれないけど。


「結局、雰囲気なんだよ。ファミレスで仕事するのだって、少し騒がしいぐらいが心地いいからだし。テレワークだなんだって流行ってるけど、引きこもって無音の部屋でパソコンに向き合ってたらノイローゼになっちまう。人間、周りに音とか、人の気配がないと仕事にならないようにできているのかも」


 それは自身の経験によるものなのかどうかはあえて尋ねない。こんな真昼間から男をスタバのために誘うなんて、よっぽど話し相手が欲しかったに違いない。

 

 せっかくなので、最後の1つも聞いてみた。

「バーは薄暗いだろ。人間は見えないところを都合よく補完してくれるから。ナンパが上手くいきやすい。シンデレラ理論だな」

 シンデレラは12時で魔法が解ける。朝に解ける魔法はただの酒むくみだ。


「そんなわけでお前も口説くならバー。いい店紹介するから」

 せっかくだが、その厚意は遠慮しておく。私には私で大切な人に会う場所を決めている。


「どこ、それ?」

「アキバのコンカフェ」

 


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打ち合わせはカフェ。仕事ならファミレス。読書はバー 白夏緑自 @kinpatu-osi

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