5章 星の海

第18話 忍気呑声の痛み

星の海

ここは他の海より宇宙面積は小さいものの、独特の種族が発展を遂げている

そして、この海最大の帝国アトランティス帝国は海底に存在している


宇宙戦艦に乗り、星の海に到着したノーヴァと白練は、アトランティス帝国唯一の陸地から、帝国本土へと繋がる海底トンネルに入る。石畳の階段を全て降りると、透明なガラス張りのトンネルになった。海の碧を彩る珊瑚、小さな魚を始めとした、シャチやクジラなどの大型の魚、それに人魚が楽しそうに泳いでいる。

「ここは海族の支配地メーアですから、水中種族が多く定住しています」

「ほお…それで俺はここで何をするんだ?」

「冒険者ギルドへの登録です」

そう言って歩きながら白練は説明をしてくれた。冒険者ギルドは、魔塔•勇者•教会の3つに分かれている。魔塔は魔法使いが属し、勇者は剣術や武術を専門とする者達のことで神の国”アウグスティヌス”に属している。そして教会は精霊や妖精使い、僧侶や弓使いなど援護職が属している。

「冒険者ギルドは三傑が統括しています、確か…天皇様も所属しているんでしたっけ」

「ああ、ライラ曰くクヴァレを除いて加入が義務付けられているらしいからな…」

話していると帝国の門が目の前に現れる。そこを潜り抜けると、海の下とは思えないような活気に満ち溢れている。中央の大きな道を歩きながら、出店をキョロキョロと見る。

「変わっていませんね、やはり代替わりが行われていないのでしょう」

「ああ~、オーシャンか…あの子は、元祖あっちの天敵に等しいからな、子供も安全に育てられんだろうな」

「そうですね」


「ご登録ありがとうございます、こちらが証明書になりますので紛失なさらないようお気をつけて」

冒険者ギルドに着いたノーヴァは受付で冒険者として登録をした。書類にいろいろと書いているときに周りからの視線がすごかった。気にせずに書いて、書類を出すと受付嬢は一度だけ、ほんの一瞬俺の顔をまじまじと見て「確認いたします」

と言って5分待つこと…

「ご登録ありがとうございます、こちらが証明書になりますので紛失なさらないようお気をつけて」

証明書を持って戻ってきた。証明書を受け取り、足早にギルドを出て誰も来ない路地裏へと向かう。

「すごく視線を感じたんだが…」

「そうでしょうね、貴方’裏’指名手配されてますもの」

そう言って白練が指名手配案内の紙を取り出して見せてきた。

「………」

「ノーヴァ様はこの帝国でもう1つ用があるのでしょう、こちらを」

「いろいろとすまんな」

申し訳なさそうに頭をかくノーヴァに白練は優しい笑みを向ける。

「大丈夫です、この程度…あなた様が一日中カジノで遊んでいたことに比べれば」

にっこりと微笑みながらも圧を感じる白練を見なかったことにして瞬間移動の能力が施された貴重な水晶に触れる。すると、ノーヴァの姿が消え、代わりに水晶が粉々に割れた。

(一度きりしか使えませんが今の状況では好都合ですね、天皇様から頂いたことを話さなくてよかったです…どこにいても邪魔が入る…)

「元祖というのはどこまでも…変態が多いのですね」

「そんなこと言われたら悲しいなっ!」

空から落ちてくる一人の元祖と白練の手が触れた直後、路地裏からけたたましい光とともに爆発した。



「紅魔族と明帝族との子孫、紅帝族…仲睦まじいが結局のところ、明帝族は弱いまま…何故紅魔族と明帝族に分かれてしまうか、解るかい?」

星の海最南端にある最小の帝国プトレマイオス、ここは他の帝国とは異質であり、1000年間鎖国状態にあった。それを可能にしていたのは、明帝族の力。攻められても返り討ちに、帝国内で100%の自給自足が出来る、最高峰の隠匿結界が張られていて見つけ出すことが困難、まさに完全無欠の帝国―

(はずだった!近年クヴァレが明帝族の殺戮を始めたということは問題視していたが…まさかこれ程だったのか…)

アストラはウォーハンマーを握りしめて現状の整理をする。1万人程度の少数精鋭の国、その国民全員が無惨にも倒れこんでいる、なのに街には目立つ外傷がない。

「お喋り好きだな…悪いが付き合ってられん」

アストラはそう言うとハンマーを思いきり振る。すると、離れていたレヴィアタンに攻撃が入った。レヴィアタンは掌で攻撃を受け流す。

「続きだ、遺伝子には’現れるもの’と’現れないもの’がある…そして、現れる遺伝子が紅魔族、現れない遺伝子が明帝族」

「明帝族は遺伝子ですら負けている、と…だが、その分私たちですら敵わないような優れた技術を持って生まれてきている」

「ふーん、君はそう解釈しているのか…間違っていないけど、正直言って明帝族は劣等だ、人類の最もなことは繁殖…’質’だけ取った奴らより、’量’と’質’どちらも取った我々が負けるはずがない」

レヴィアタンが一瞬目を閉じた瞬間にアストラは近づいてハンマーを振る。先程とは比べ物にならないような音と振動が帝国に響く。それなのに、レヴィアタンはかすり傷程度だ。レヴィアタンの影から刃が出てきてアストラを襲う。ハンマーで受け止めて、後退する。

「素晴らしい!」

手で口を押さえて喜ぶレヴィアタンにアストラは無言で警戒する。

「初めてだ、ここまで良い結果が見れるなんて!」

(結果?)

レヴィアタンの言っていることがわからないアストラはじりじりと後ろに下がる。それを見たレヴィアタンはごめんごめん、と謝り、アストラに向き直る。

「昔話をしよう、君の母ステラについて…」



漆黒というには明るい。宇宙に存在する数多の惑星が小さな光となって、’ここ’にいても恐怖を感じない。

「いつまで眠っているつもりだ」

壁というものが存在しない空間でノーヴァが尋ねると、空間が歪み、穴が空いた。そして現れた膝まである銀髪のモノトーンコーデの漢。

無言で、光のない紅緑の瞳がノーヴァを捉える。

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