3章 交易の海

第9話 可能性の痛み

交易の海

七大一族が生み出した工芸品や、宇宙国家の特産品を始めとした食料など、様々な商品が集まる商人の海

そこでは鬼族主催の公式オークションが開催されていて、貴重品が入手できる大切なルートでもある


その中でも多くの商人が店を構えたいと思っている商人憧れの国パピリオ

ドレスやジュエリーの専門店が建ち並ぶ高級花街と、食べ歩きなどの観光メインの観光花街に分かれていて、ノーヴァは観光花街を堪能している。

「いやー…買いすぎたかな」

両手いっぱいに本や魔法道具を持つノーヴァに白練は呆れている。

「おっ!公式のカジノまであるのか、よし!」

『ノーヴァ』

カジノに向かおうとするノーヴァを白練が止めて、路地裏に行くように促す。誰もいないことを確認して、

『本来の目的を忘れていませんか?』

「いや、その…」

『天皇と倭雷光國の謝礼があるとは言え…度が過ぎています』

「すいません」

白練に怒られてしゅんと小さくなるノーヴァ。その時、花街に響き渡る鐘の音。白練はカバンに戻る。そして路地裏を出て高級花街に向かうも、目もくれずに、その先の大きな建物に入る。

「!此方へ」

ノーヴァの提示した許可証を見て、受付のスタッフが丁重に案内する。その場所は二階の個室。防音機能と認識阻害の能力が込められている。一階を見下ろすと、すでに席は埋まっていた。

『ここに繋縛の水晶があるのですか?』

「兼平の情報だと、セアが生前つけていた指輪が出品されるらしいぞ」

『貴族達は物好きなのですね』

「…セアというものに興味があるだけで指輪にはさして興味もないし、それに繋縛の水晶だってことも知らないだろうな」

ガチャン!

ノーヴァと白練が話していると、会場が暗くなり、ステージにスポットライトが当たる。マスクをつけた司会、角が生えているのでおそらく鬼族の者だと思う。

「それでは始めさせて頂きます」

まずは~、とドンドン貴重なものが落札されていくが、めぼしいものがでない。

「今回の目玉は!」

そして、待つこと1時間。やっと、最後の商品の紹介が始まった。

「原初一族が一人のために造り上げた最高の品!神皇様がつけていた最高峰の装飾品です!」

布が取られて頑丈なケースに入っているが、キラキラと光を放っている。おお!、と客は歓声を上げて2万、2万1000、と値段を言い合っていく。

(100tパイレーツが平民1ヶ月の生活費だと言われている…4万、5代豪遊してもお釣りがくる…ということはあれが本物か)

ノーヴァはボタンを押して金額を提示した。


無事落札!

目的を達成できたので、カジノでも行こーとルンルンなノーヴァは現在鬼族の住まう神籬にいる。山岳地帯にあり、中華風の建物が建てられている。

「カジノ…」

「弟よりも?」

暗緑色の短い髪、裏葉柳の鋭くも優しい目付き、前がはだけているせいで黄土色の肌がより強く見える。

48男”魁”の元祖にして鬼族長バイラール•イグニス

ぶっーと少し不貞腐れている。

「お前、よく俺が分かったな」

「天皇の招待状の客は限られてるし新顔はさして珍しくないが、6万tを出す奴なんて貴族でも数が限られている…俺の記憶だとそーんな奴はいねぇからな…」

「そうか」

バイラールの推理を聞いてノーヴァは確信する。今までのことを全て黙認していたのは想定内ということを。

ことっ、と茶を机におく。

「俺が来た意味とお前の願いは一致している」

「ホントに可能なのか?」

バイラールの問いにノーヴァは無言でバイラールを見つめる。揺るぎない瞳を見て、バイラールは椅子にもたれかかる。魂が抜けたように…

「てっきり…怒られると思ってた」

「?」

「兄貴は兄弟仲良し!っていうのが好きだろ?なのに、いまだに争ってるから」

「…まあな…その争いを終えるためにお前の協力が必要だ」

フーッと大きな溜め息をつくバイラール。そして、姿勢を戻して、

「現状、クヴァレが襲撃しても俺らじゃ勝てない、断言する!」

いくら、強いとはいえ、連携も取れていないようでは負けることなど、ノーヴァは知っている。

「今ギスギス状態なんだよ…もう、一族同士の喧嘩がおっぱじまってもおかしくねぇ」

つまり、内部崩壊があるということだ。こんな時は一つのことで利害を合わせるしかない。

「利害なんて、もう意味ねーよ…姐さんを殺したのは三傑なんだ」

「それは…」

守護者”ガルディ”には、利害の一致による派閥がある。三傑、四君子、陰陽という感じ。そして三傑はこちら側の最高戦力の中の上位。

(もう無理じゃない?)

「戦闘民族最強の竜族と宇宙最強一族の原初が手を組まないことには誰も動きやしねぇ…それに四君子も表面上って感じだからな、こんな時に姐さんがいてくれりゃ…嫌々でもやってるはずだ」

バイラールが悲しそうな声で話す。本心だ、心からそう思っている。だが、すぐに表情を戻す。

「俺は負けたくねぇ…兄貴、力を貸してくれ」

ペコリと深々頭を下げられた。ノーヴァは憂いな表情をしながら、バイラールの頭を撫でる。

「弟にこんな顔されたら断れるわけないだろ?絶対にやってみせる」

その言葉を聞いたバイラールは勢いよくノーヴァにハグする。ありがとな!、と天真爛漫な笑顔で言われると、ふと昔のことを思い出す。それは、兄弟のまだ幼き頃。

(成長しても変わらんな)

バイラールはノーヴァから離れて、一族の者に指示を出す。話していた時とは違い、明るい表情で、

「兄貴がいてくれてよかったぜ~…決闘ししようって計画だったんだ!」

ヴァイスから教えられたことが一つある。守護者”ガルディ”同士が闘うと敵味方関係なく、最低でも3つの宇宙国家がなくなる。

ハッハッハと明るく笑って、ただ友達が喧嘩するみたいな感覚でいい放つバイラール。

(…うん、引き受けてよかった)

「んじゃまっ!会いに行こうぜ!」


黄金郷の湖”エル・ドラード”は湖くらいの大きさを誇る巨大な島である。ここには、神が授けたという宝が眠っているという伝承がある。

しかしながら、黄金郷の湖”エルドラード”発見を目指した探検家たちは、死亡、飢え、共食い、発狂、破産などの状況に陥った。

黄金郷の湖”エル・ドラード”は新大陸進出の動機の一つではあったが、誰も発見することのできなかった幻の島。この島を知っている元祖でも、足を踏み入れることの出来る元祖も限られている。

鬼族の用意した船で向かう。

「兄貴、あんま問題起こさないでくれよ?」

「信用ないのか?」

「いや…そりゃ」

ノーヴァに言われて言葉を濁す。それはバイラールの記憶、ノーヴァは大体なんかあったら壊したり、すぐにギャンブルするし、挙げ句の果てに兄弟を海に落として水泳の練習と言うように…かなりやばい。でも、そんなことを言えるはずがないので、

「ここはイニティウムの管轄下だからな…神籬は鬼族の里だから除外されてっけど、そこから出たらイニティウムは干渉できる」

「なるほど…」

「俺は干渉とかどうでもいいから好きにさせてっけど、他はそうもいかねえ…部外者の排除も仕事の内、兄貴はあいつらとぶつかることになりそうだな」

「おいおいだな~」

ふわーん、と和やかに返事するノーヴァを心配していると、辺りの風景が一変した。青の海が紫色に変化している。そして、目の前には巨大な島。

「ついたぜ」

ガコン、と岸に船を停めて降りる。鬱蒼としたジャングルが目の前にある。バイラールはがつがつとジャングルの中を進んでいく。少し歩くと先ほどとは一変して、色とりどりの花が咲き誇っている。最奥地についた所でどこからか歌声が聴こえてきた。湖の近くで琴を弾いている黒髪の少女。

「よお!! ミューズ、元気そうじゃん」

バイラールが近づいていく。

「久しぶり、バイラール。ここまで来たのは2ヶ月ぶり?…どうしたの?」

ミューズは嫌な顔をせず、無垢な笑顔で話す。

「お前にも用があんだけどよ、姉さん等にも話したいから…姉さんたちどこ?」

「家に案内してあげる。お兄ちゃんも着いてきて!」

笑顔でノーヴァに手をふるミューズに、ノーヴァも手を振り返す。ミューズはこっちこっちと更に最奥地へと進む。暫く歩くと大きな宮殿のような館があった。中には沢山の花が飾られていた。ミューズはお茶を用意してくるから待っていてと客室であろう部屋に二人を案内した。

「色んな花があって綺麗だな」

「甘ったりぃ匂いがして俺は嫌いなんだけどなー」

バイラールは鼻がとても利くので、花の匂いにうえーと顔を顰める。

「あたしの”花鳥風月”に文句つけんのはあんただけだよ!」

「うえ!!」


―”華”の元祖、彼の者風媒花を尊びし者也

 彼女が歩めば木は揺れ、座れば木ノ葉が舞い、手を伸ばせば花が乱れ咲く

 当にその姿、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花の如き


透明な水瓶を持つ桜色と桃色の髪、桃色の瞳、薔薇色の唇、淡紅色のネイル。髪には桃色のハイビスカスなどの花がささっている。白いシンプルなドレスに真珠の飾りが妖艶な体を纏う。気の強そうな女傑は高い声をだす。その声の主は96女”華”の元祖華陀。バイラールと取っ組み合いを始めている。

「お茶、よければ月餅もどうぞ」


―”謌”の元祖、彼の者音を司りし者也

 すべての音が彼女の音に共鳴し、彼女の心に共鳴す

 彼女の声は音が集まりて自然の”旋律”を紡ぐ


丈の短い裳裾に胸を締めた袖の大きなデザインのチャイナドレス、全体が薄桜色と紅赤色を基調としていて、薄くだが桜の刺繍をしている。黒髪を二つの団子で結い、髪を下ろし、躑躅色の蓮の髪飾りをしている。花萌葱色の瞳で大人っぽく見えるが少女の見た目をしている。彼女は149女”謌”の元祖ミューズだ。

「ありがとう、ミューズ」

「お兄ちゃんにまた会えて嬉しいです」

キャッキャと話す声は先程の美しい歌声とは違い、鶯舌で可愛い。当に末の妹という感じだ。ノーヴァという言葉に華陀がピクリと動きを止め、こっちを見る。

「本当にノーヴァ?」

「ああ、そうだ」

ニコッとノーヴァが微笑む。バイラールとコソコソと話し合っているが、バイラールがシバかれているので余計なことを言ったのだろう。華陀がノーヴァに近づいて、手を差し出す。

「遠路遥々ようこそ、黄金郷の湖”エル・ドラード”へ」

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