第2話 永眠の痛み
「なあなあ聞いたか?天使族が襲撃にあって壊滅したらしいぜ」
「知ってる知ってる!」
「クヴァレの元祖でしょ?天皇様はどうするのかしら」
天使族の里から降りてきて道を歩いていると畑をやっている人が話をしていた。
「情報はすぐにまわるのだな…」
ノーヴァの首に巻き付いていた白練がひょっこりと顔を出す。
『そうですね…私元祖について、主君から教えていただいていないのです』
「!そうなのか?」
『ええ、アザトースから産み出された人類はいるでしょう…』
「いるが、そいつらは”才”を発現できていないからアザトースの力はあっても血が流れていない」
元祖というものは最古の歴史”神聖時代”に現れし人智を超越した存在であり、文明の発達に大きく貢献した
『300の兄弟達で構成されているということは聞いております』
「うーん、厳密に言うと腹違いだったり、姪と叔父の関係だったり…子孫を残していくなかでアザトースの血を覚醒させて産まれてくるという弟や妹がいるから…まあ、等しく俺の兄弟だ」
『その図太さには感心します』
これが元祖と言われても誰も納得しないだろう、。それでもノーヴァは未だ多くの人々に認知されている。それだけの功績を残したのか、はたまた問題ごとを起こしたのか…
「おっ!見えてきたな!」
大きな都市が見えてくる。
天地創造の海
ここは人類が初めて降り立った地であり、初めて人類との共存で生まれた文明である
その中でも最も強い権力を有している宇宙国家アウル帝国、天皇を主君にした3つの組織で合併された双翼によって統治がなされている。様々な混合族が繁栄していて、活気に溢れている
双翼の三本柱の一つ、天皇直下の組織八咫烏の本拠地であるヴァルチャー都市
「来てみたはいいものの…天皇にどうやって会うんだ?」
『まさか無計画?』
「いやー…1000年寝てたもんで」
はあ、とまたもや溜め息をついていると、門番がこちらを見てきてノーヴァを捕らえた。そして、天皇の住む城へと複数人で移動させる。
(これ…なんかやばめ?)
ノーヴァは内心危険だとは分かっていたが対話をしなくてはならないので、待つか、という考えに至った。待っていると、襖が大きく開いて小さな子供のような女性が入ってきた。だいたい150cm前後、薄黄と江戸紫の桜柄の色留袖の上に空色の羽織を着用していて、大きな紐で髪を一つにくくり、横髪にも同じ紐でリボンをつくっている。
「朕は毎日占いをして一度たりとも外したことはない…故に…朕の尊敬する長兄がここまで緩みきっている態度に呆れておる」
久し振りに妹を見れたことで顔が緩みきって貫禄のある顔が、にはーと蕩けきっている。
「まったく、のう…天使族の壊滅に、天使の強奪…ようやりおるわ」
持っていた煙管をバキッと素手で破壊する。
「そんなに怒るなって」
「貴様はちと現状の深刻さを知ったほうがいいのう」
呆れながら部下に指示を出して、茶を用意させる。
「知っておる通り、朕ら紅帝族とクヴァレは対立しておる…そして、近年奴らの動きが活発になり始めておっての…天使族もその一つじゃ」
「原因は?」
「そなた、里を降りてきて何か感じ取らんかったのか」
天皇の質問にノーヴァは茶をすすりながら思い出す。
「そう言えば…結界がすごかったな、あんなのを見たら戦う気なんて失せる」
「そうじゃ…この結界は宇宙国家、いや、宇宙にあるすべての星星に張られておるものじゃ」
「聖女?それ以外には到底思いつかんな…此程までの緻密な空間技術と結界、複雑に術式が絡み合っている」
「…いや、たった一人の人間が生涯を捧げて創った叡知の結晶じゃ…貴様がここに来た理由と同じ、セア•アペイロン」
「!」
「じゃがのう…あやつの復活なんぞに時間を掛けておる暇はない…さきも言ったが、クヴァレの相手もある…それに、あやつら関わらず危害を加える化け物の相手…厄介ごとばかりじゃ」
天皇はふぅーと煙を吐き出す。
「聞いておるのか?」
用意されたお茶菓子を食べて、またもや蕩けきっているノーヴァにつっこむ。ノーヴァは茶を少し飲んで、天皇に視線を向ける。
「聞いていたさ…先にお前の困っている化け物とやらを倒せばいいんだな」
「そうじゃ…1週間後、生きておるといいのう」
「さーて」
ヴァルチャー都市を出て天皇の言っていた化け物の討伐があるアルバトロス都市へと赴いた。ここは双翼の三本柱の一つ薔薇騎士団管轄下であり、討伐などの戦いを中心とした武装組織である。
「…おい」
「久しいな、旧友」
目の前にたつ筋骨隆々な長い銀髪ハーフアップの男、薔薇騎士団団長クリスチャン•ローゼンクロイツ
「変わんないな」
「とりあえず机から下りろ」
苛立ちながらししし、と机から退けるように言う。ノーヴァはクスリと笑いながらどける。
「蝶の野郎から話は聞いてる、さっさといくぞ」
クリスはノーヴァの手を優しく掴んで誘導する。クスリとノーヴァの経験上、ノーヴァは勝手にどこかに行くのでこうでもしないといけない。
アルバトロス都市を離れて鬱蒼と生い茂るジャングルのような森に入る。もう、深夜を回っている。木々に隠れてクリスがくいっと目配せをする。
狼のようにけたたましく歩いて、歩く度に地面が抉れたり、木が倒れたりと歩く災害とでも例えれるようなものだ。
「…魔物にしては」
「強すぎる、だろ?始めの頃は変異種、魔物の進化だとおもってたんだが…死傷者が出てな、地方への被害が拡大してやがんだ…俺らはあれをこう呼んでる、天より堕ちた堕神」
「随分…いや、それくらいが丁度いいな」
ノーヴァは立ち上がって堕神の正面に立つ。ノーヴァを視認した堕神は猛突進してきた。ひらりと躱すと巨大な岩がいとも簡単に粉々になった。突進だけではなく、鋭い爪は当たってもいない木を斬り倒した。
(これは苦戦するな、一撃当たれば即死の力技…巨体の割に動きも素早く、次の行動を予想しても攻撃範囲が増えていっている)
ノーヴァは地上戦では無理だと判断して木の上に立つ。すると堕神は氷の刃を使って攻撃をし始めた。ノーヴァは氷の刃を手で受け止める。
(魔法の一種か…それにしては人類の型とは違ったような、確かに強いが…)
「今は俺の舞台”ステージ”だ」
ノーヴァは勢いよく氷の刃を投げつけて堕神の片目を潰す。目を潰されたことで悲鳴を上げて、地面に下りてきたノーヴァに最高速度の突進をしてきた。ノーヴァは余裕の笑みを浮かべて、アクロバットをして、堕神の背後を取る。
「夜海月」
拳を大きく振り上げて堕神の腹を貫通させた。堕神はバラバラと灰のように散っていく。全て散っていく前に、堕神の体を触る。
「まだそんなことやってんのか…」
物陰から見ていたクリスが近づいてくる。ノーヴァはクリスを見ずに話し始める。
「痛みというのは肉体的なものではなく精神的なもの…一度勝利を味わった者は、また勝ちたいと思い、己の人生をその為に費やするように…痛みは人生の中で追い求めたり、指標になるもの、つまり教訓だな」
ノーヴァは体が全て無くなった堕神の痛みを感じる。そして解析が終わると立ち上がって歩き出す。
「で?あれの痛みは?」
クリスが聞いてきて、ノーヴァは少し悲しそうな顔をする。
「聞こえてきたのは’誰か殺してくれ’、とか死を願うような発言が多かった…これは永眠の痛み、とでも名付けておこう」
「天皇から聞いたが、お前…セアを捜してんのか?」
「ああ」
「そりゃおめでてぇ…あいつが生きた道はな、死の溜まり場”デスポピー”って言われてて、最強を求めて旅立った戦士やら冒険者はみんな死んじまった」
「そうか」
「…なんで喜んでんだよ」
怖い話をしているのに、ニコニコと笑うノーヴァにクリスは呆れる。
「いや…俺は才の能力上、そういったことは慣れてるんだ…それにそこを辿っていけば1000年の痛みに出逢えるだろうな」
「あいつが可哀想になってくるぜ…」
「そう言えば…お前セアっていうこと仲がいいようじゃないか!」
「好敵手だ」
「ほおー」
ニヤニヤとした顔をするノーヴァに羽交い締めする。ノーヴァはイテテ、と体を労る。そして、ふと何かを思い出してクリスに向き直る。
「1000年前の約束…お前の人生の痛み、教えてくれや」
「…悪ぃが1000年も経ってりゃ痛みってのは増えてくもんだ…自分で考えな」
「じゃあ、次にあった時答え合わせだ」
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