怪談、不定期

どく・にく

狐、掛け声



 僕が小学生のころかな。


 ほら、子供って怖い話好きでしょ。うちの学校でも七不思議とか、UFOとかが流行ったの。

 そのなかでも特に人気だったのが、『こっくりさん』。

 有名だから改めて話す必要もないと思うけど、



十円玉と、色々書いた紙、それからメンバーを二人以上用意する。

紙には鳥居のイラストと、はい・いいえ、0~9の数字、あいうえお……と五十音を順に書いておく。

で、鳥居のうえに十円玉を置いて、そのうえにメンバー全員が人差し指を載せるんだよ。

最後に呪文を唱える。

「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」



 まあ「こっくりさん」じゃなくて「エンジェルさん」と呼ぶ、みたいな、地域差は結構あるらしいんだけど、概ねそんなところでしょ。

 僕たちのとこにも、その『地域差』があって。

 呪文がちょっとだけ違ったのね。


「こっくりさん、こっくりさん、お入りください」


 今思うと凄い不気味だなー、って思うんだけど、当時はなんか怖そうみたいな感想しか抱けなかったな(笑)。


 それで、友達の何人かと肝試しにやることになった。

 僕は正直「誰かが指を動かしてるだけだ」と思っていたし、けどいざ自分でやるとなると怖くて、友達たちもだいたい、そんな感じだったはず。

 放課後の教室、誰も居なくなったタイミングを見計らって、僕たちは一箇所に集まった。

 家からこっそり持ち出したコピー用紙に、五十音順や鳥居を書き入れてくうち、誰だったか忘れたけど、そのうちの一人がこんなことを言い出したんだよ。


「ここの、『はい・いいえ』って場所、片方消してみようぜ」


 そうしたら質問にはマトモに答えられなくなって、こっくりさんが困って倒せるんじゃないか、とか。そんな理由だった気がする。

 困ったから倒せるってなんだよ、みたいな感想は、まあ小学生男子に求めるのは酷だとして(笑)。

 僕らはこのとき「そんなことをすると、こっくりさんを怒らせてしまうのでは?」という気持ちが浮かんでたと思う。


 だって、よく言うじゃない。こっくりさんが帰れなくなったり、怒らせたりしたら、取り憑かれて気が狂って、最悪死んでしまう──とか。


 当時もそんな噂が、こっくりさんの怪談とともに流れていて、頭をよぎったんだろうね。

 でもそこは男子小学生。

 反対意見が出ても「ビビってんのかよ」の一言で片付けられる。


 結局「いいえ」の側を消しゴムで消して、僕たちはこっくりさんをすることになった。

 全員が「こっくりさん、こっくりさん」と唱えはじめる。

 そのとき、おかしなことが起きた。

 まだ最後まで呪文を唱えてないのにも関わらず、十円玉がひとりでに動きはじめたの。


 皆がみんな、辺りの顔を見回したよ。

 このなかに、意図的に硬貨を動かす犯人が居るんじゃないかって。


 もちろんそんなの分かりっこない。

 けど指を途中で離してしまっても、怒らせたときみたく、取り憑かれてしまう──みたいな話は有名だから、皆取り敢えず指だけは離さないようにしてた。


 僕たちは鳥居のうえから始まったその移動の行先を、固唾を呑んで見守った。




「や」



「め」



「て」




 やめて。それだけ残して、十円玉は吸い寄せられるように、鳥居の方に戻ってった。

 正直訳がわからなかった。

 やっと離せた指をぷらぷらさせて、犯人探しがはじまった。


 一番怪しいのは、もちろん「いいえ」を消すのに反対していたヤツら。

 こっくりさんを怒らせるのにビビって、自作自演をしたんじゃないか。そういう意見が出るのも無理ないでしょ。

 そのなかで、一番最後まで指を十円玉に置いていた僕が、犯人ってことになった。


 皆で寄ってたかって、僕のことをチキンだのと煽ってきたの。そりゃあ、腹は立ったよ。

 もちろん否定したけど、皆聞く耳を持たなかった。

 当時は理不尽に感じたけど、たぶん皆、理由が欲しかったんじゃないかなって今は思えるね。


 だって、幽霊とかオバケがそんなことをしたなんて、考えたくないでしょ。僕は今でも、そういうの結構イヤだよ(笑)。

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怪談、不定期 どく・にく @dokuniku

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