第4話:ただいまバズり中

 最後の配信から翌日のこと、俺は陰鬱とした気分で学校に来ていた。

 辿り着いた教室は妙に騒がしく、気分が最悪な俺からするとちょっと嫌だった。ざわついてるしうるさいし……何があったんだろうか? 

 そんな気分でまだ人の集まってない教室に辿り着いた俺は自分の机でうつ伏せになり授業が始まるのを待っていた。


「おーいどうした親友、そんな顔して」


「いやな悪友……スマホ、壊れてさ」


 話しかけてきたのは幼い頃からの親友である神那由衣かんなゆい

 八重歯の生えた活発そうな印象を抱かさせる金髪の彼女は、スマホが壊れたと言った俺の顔を心配そうに覗いてきた。


「……何があったんだ?」


「えっとさ、なんかずっと通知が止まないんだよ――ウイルスかもしれないし、まじで怖くてさ」


 そのせいで夜中に起こされたし、あまりにも速すぎる通知に何か分からなくて怯えることしか出来なかった。びっくりしすぎたせいで空に慰められるという割と恥ずかしいことさえ起こったし、今の今まで通知が止まらないし……。


「由衣はそういうの詳しいだろ? だから聞こうと思ったんだが」

 

 俺の配信機材をそろえるのも手伝ってくれたの彼女だし、モデレーターでもある由衣。いつもサポートしてくれてる彼女ならと思ってここまで来たし、何か分かると良いな。もう配信はしないとはいえ、このままじゃ他のことにも使えないし……。


「……はぁ大丈夫だから安心して開け、だけど絶対叫ぶなよ?」


 そうやって相談すれば、呆れたような彼女は顔を近づけて耳打ちしてくる。


「……え、もしかしてホラーか? 俺、絶対無理だぞそれ」


「ホラーなのは配信してたお前だから気にすんな」


「……え?」


「とにかく、いいからこっそりだぞ」


 催促されたし、分かるならばとスマホを開けば……そこには二つのアプリの通知件数がカンストしていた。


「ふぁ!? ッ――!?!?」


「だから驚くなって、これが原因だ」


 あまりの事態に奇声を上げかけたが、由衣に口を手で塞がれて黙らされる。

 そして何度見ても配信アプリとSNSアプリの通知がカンストしており+9999という文字が表示されてる。


「それに……ほら、トレンド一位」


 まじで何事だよ。


「……なんでだよ」


「お前ぐらいだぞ、このバズ知らないの。記事もまとめられてるから見てみろ――ダンジョン配信者で有名な奴が記事まとめてた」


 それで見せられた記事というものはこういうものだった。

 美少女配信者白雲早苗一行が中層と下層の境でモンスターパレードに遭遇、通りかかったお面の男が彼女を圧倒的な力で救出。

 彼女を置いて逃げ出した面々は炎上中。


「……わ、わぁ」


「あ、語彙が死んだ。とにかくそういうことだ。顔出ししてないお前だから正体はばれてないが……この学校に白雲がいるし、しばらくは色々あるだろうな」


「えぇ……というか登録者が五十万超えてるんだが? 後トレンドがおかしい……なんだ? ホラゲーの新キャラって」


「お前しかいないだろ」


「げせないんだが」


 一位は俺のチャンネル名でもある鬼面チャンネル。

 その他にも色々トレンドがあるのだが……割とツッコミどころしかない。

 

「白雲の奴はまだ登校してねぇし、来たら質問攻めに遭いそうだよな」


「……俺のせいだよなぁ」


「それは違うだろ、お前はあいつを助けたんだから」


「でも昨日あんな目に遭ったのに、質問攻めにされるのは違うだろ」


「変わらないな燐。まぁなんだお前は助けたんだから気楽にいろって――というか念願のバズだぞ? 喜べよ」


「――桁が多すぎて怖い、DMで配信辞めるなってきてる、怖い」


「ははっほんと燐だわ――でだ、次の配信どうするんだ?」


「え、しなきゃ駄目だか?」


 今も消音モードにしたが増え続ける通知、もうそれは受け入れたけどこの人数のチャンネルで配信などメンタルが持たない……でも、確かに配信した方が良いよなぁ。


 そうして俺は腕を組む。

 現状を確認する意味合いで配信した方が良いとは思う……けど、雑談配信などでつまらなすぎて炎上したら嫌だし。


「何考えてるか知らんが、お前は素がエンタメしてるからいつも通りやれば良いと思うぞ――だけど、空は使うな」


「え、なんでだ?」


「いや、まじで使うなよ? これ冗談じゃなくてガチで」


「わか……った?」


「よしならそれでいいぞ、今日は近いのなら黒塚のダンジョンが空いてるだろうしそこに行けばいいんじゃないか? とにかく自然体でお前のままやれよ」


 未だ現実味がいないし、根が暗い俺の素を晒して荒れるかもしれないという可能性が頭を過るが……由衣を信じないという方がもっと嫌だったので俺は彼女の言葉を信じて学校が終わったら配信をすることにした。

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