第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト短歌の部

芋子

おしまいづくり

父親がどこにも居ないアルバムに知らぬ男と笑う母親


「母親」と思いたくない女から逃げきるために南へ向かう


血脈はこの世で一番深い溝 故郷は異国より遠い場所  


右足に鎖のタトゥー掘り込んで自由になったふりするあたし


田舎など噛んで砕いてさようなら『たけのこの里』つまむ東京


焼酎の香を混ぜながら射精する君はしらふじゃ抱いてくれない


「愛してはいないけれども離れたくない」そう想われて妻になる


「当たり前の事もできないのね」って、あたしを責める君の母親


お義母さん元気になってくださいね1オクターブ上げて嘘つく


大理石よりも冷たい人だった義母の最期は柔らかな顔


姑の告別式で花柄の下着を履いて復讐をする


掃除機を強にしながら君からの別れ話をかわす束の間


記念日に赤字だらけの家計簿と離婚届を読むあたしたち


最終話以外は名作だった漫画のようにおしまいづくり


もう何も入っていない冷蔵庫 凍り続けている赤い糸


捨てていくあなたが泣いて 捨てられるあたしが笑うクライマックス


老いながら気取り忘れてゆく君が重ねる皺に見とれたかった


髪色を変えて昨日を捨てていく空とあたしはおんなじ卑怯


潰し甲斐なきもの挙げよ ししとうとマゾヒストと昨日の失点


家系図をあたしの位置で終わらせて天涯孤独を全うするの

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第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト短歌の部 芋子 @kawayusuke

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