浮浪者が忽然と消えた?!生活苦に追われた男の夢の居場所とは…

天川裕司

浮浪者が忽然と消えた?!生活苦に追われた男の夢の居場所とは…

タイトル:(仮)浮浪者が忽然と消えた?!生活苦に追われた男の夢の居場所とは…


1行要約:

生活苦に追われた男が着いた最期の憩いの場


▼登場人物

●伊来井 求(いこいもとむ):男性。55歳。生活苦に悩んでいる。リストラされた。独身。

●花材(かざい)ユメノ:女性。30代。憩いの場所へいざなう仕事をしている。求の「憩いの場へ行きたい」と言う夢から生まれた生霊。

●大家:男性。60代。求が住むアパートの大家。


▼場所設定

●A商社:求が働いている。赤字寸前。極めて安月給。結局、倒産する。

●求の自宅:古ぼけたアパートのイメージで。

●大阪都島の某社宅周辺:求が子供の頃に住んでいた場所。一般的な社宅のイメージで。


NAは伊来井 求でよろしくお願いいたします。



オープニング~


魔女子ちゃん:ねぇぷちデビルくん、ぷちデビルくんって「憩いの場所へ行きたい」って本気で願った事ある?

ぷちデビルくん:憩いの場所だって?ヘン、俺ぁいつでも憩いを自分の心に持ってんぜ♪わざわざ誰かに恵んで貰わなくてもよ、ぜーんぜん大丈夫さ♪

魔女子ちゃん:まぁアンタに訊くだけ野暮だったわね。

魔女子ちゃん:今回のお話はね、生活苦でとっても悩んでる或る男性のお話なの。その人は日頃から憩いの空間を獲得したいって願ってるんだけど、なかなかそれが叶わなくて。その内に仕事も無くなって、本格的な生活苦に悩むの。

ぷちデビルくん:ほう。

魔女子ちゃん:そんな時にふっと故郷へ帰るんだけど、そこで或る不思議な女性に出逢うのよ。で、その女性に「憩いの場所」へいざなって貰うんだけど、そのとき同時に世間で奇妙な現象が起きててね…

(↑朗読動画の場合は無視して下さい↑)



メインシナリオ~

(メインシナリオのみ=4345字)


ト書き〈A商社〉


求)「はぁ。こんな安月給じゃ生活もままならない。貯金なんて絶対ムリ…」


俺は伊来井 求(55歳)。

周りはみんな結婚して華やかなのに、俺だけ独身&ド貧乏。

この歳でリストラされた俺にはほとんど仕事が無い。

会社の給料なんて在って無いようなもの。

金も無いし将来性も乏しい。

結婚なんてとても無理。


求)「はぁ…。俺の人生って、結局こんなモンだったんだろうな」


この会社も、裏では大赤字らしい。

いつ倒産するか分からない。

先に流行った疫病で、世情は変転した。

それまでの顧客が激減し、利益はほぼ皆無。


求)「ったく!国は何やってんだ!?自分達の私腹肥やすばかりで、俺達みたいな中小企業・零細企業に勤める弱者は死ねってのか!権力や金を持てば人は変わる。政治家(あいつら)だってみんな同じ!期待するだけ無駄なんだ」


ト書き〈翌日、電話〉


求)「え?!と…倒産?!」


速かった。

昨日の今日でもう倒産。

まさかこんなに速く来てしまうとは。

その後の俺の生活は激変した。


ト書き〈就活が全てダメ〉


NA)

俺はすぐ新しい職先を求めた。

でもこの歳での再就職はかなり難しい。

ハローワークに通いつつ、在宅ワークでなんとか凌ぐしか無い。


ト書き〈自宅〉


求)「はぁ、駄目だ…。内職しても生活費が不足する。税金もツライ。このままじゃ家賃も払えない…一体どうすれば…」


実際、在宅ワーク等の内職は、小遣い稼ぎ程度にしか成らない。

稀に成功する人もいるが、それはもともと在宅ワークに向いている人。

会社で決められた仕事をして来た俺にとってはこんな時にツラい。

出来る限り切り詰めて、やっと今の生活が成り立っていた。


ト書き〈テレビでニュース〉


NA)

その日、俺は滅多に点けないテレビを観ていた。

そのとき気になるニュースをやっていた。


求)「浮浪者が次々蒸発…?」


ここ最近、日本各地で浮浪者が次々「謎の蒸発」をしていると言う。

何人かは写真と共に紹介されていた。

本当に或る日忽然とその姿が消えてしまった…そんな感じらしい。

国も警察も動いてるが、その謎は全く解明されず。


求)「…どう言う事なんだろう…」


ト書き〈増税〉


NA)

それから数日後、また増税。


求)「ふざけんなぁ!国は一体誰の味方なんだよォ!」


ト書き〈生活できなくなる〉


NA)

更に数か月後。

俺の元に大家が来た。


大家)「もう家賃が3か月も溜まってます。今すぐ払って貰いましょう。払えないんだったら出てって貰えますか?うちも慈善事業じゃないんでね」


求)「す…すみません…!あと5日!…いや3日、待って下さい!」


再三頼んだがダメだった。

俺はこの日、アパートを追い出された。


ト書き〈途方に暮れる〉


求)「はぁ…。もう疲れ果てた…」


生活保護を貰う気力すら出なかった。

これまで仕事一筋で頑張って来た。

でも結局この有様。

何かに裏切られた気がした。


求)「もう…この世にいたくない…」


そんな気持ちが始終、俺を苛んだ。

でも「死のう」としてもなかなか死に切れない。


求)「…そうだ…この世を離れる前に、もう1度だけ、あの場所へ行こう」


俺は、大阪都島の社宅へ向かった。

幼少の頃に生まれ育った土地。

なけなしの金をはたいて行った。


ト書き〈都島の社宅〉


求)「わぁ…懐かしいなぁ…。でも随分と様変わりしちゃったなぁ…」


俺は社宅の前に立って眺めていた。

80年代前半までいた場所。

その頃は界隈に結構人が賑わっていたが、今は何か閑散としている。

人目が無かったので、俺は社宅前のベンチに座っていた。

その時…


ユメノ)「こんにちは♪」


求)「えっ?」


急に女性の声がした。

振り向くとそこには、30代くらいの奇麗な女性が立っている。

女性に話し掛けられたのは久し振りだった。


求)「え…あ、いや、あなたは…?」


ユメノ)「いきなり声を掛けてしまって済みません。私こう言う者です」


女性は名刺を差し出した。


求)「『憩いの場を提供するライフコーチ』…花材ユメノ…?」


ユメノ)「私はあなたのように、心が疲れ切っている方々の為のお仕事をしています。誰にとっても心休まる憩いの場を提供し、ずっと変わらない理想の空間をご紹介いたします。いかがですか?お話だけでも」


求)「…憩いの場…。で、でもどうして僕がその事で悩んでると…?」


ユメノ)「フフ、長年このお仕事をしていますと、何となく分かります。あなたのお顔にも、しっかり『生活に疲れ切ってる』って書いて在りますもの」


求)「はぁ…」


初め「ボッタくりか?」とも思ったが、もう俺にはボッタくられる金は無い。

その点は安心し、ユメノの言う事を素直に聞けた。

それとは別に、俺はユメノに不思議な感覚を知った。

何か、俺が今日ここへ来るのをユメノは知っていた…知った上でずっとここで待っていた…そんな空想が湧いたのだ。

俺はつい、ユメノに甘えたくなってしまった。


求)「…それで具体的に、どういう事を?」


ユメノ)「私共がご提供させて頂きますのは、ずばり、憩いの空間です。その場所をご提供いたします。あなたの心が本気でそれを求めるなら、今すぐにでもあなたをその空間(ばしょ)へお連れいたします。いかがですか?」


俺を今すぐ「憩いの場」へ連れて行くと言う。

別にこのまま生きていても、他に求めるものが無い。

変な場所へ連れて行かれる…という事への恐怖心も薄い。

そもそも俺にはもう、守るべき物が無いのだ。

俺はほとんど抵抗する事無く、ユメノにすがり付いてしまった。


求)「…お、お願いします。もう僕には帰る場所も無ければ、守る人や物もありません。全て世間に置いて来ました。あと最期に僕が求めるものは、永遠に心休まる憩いの場・こんな自分を救ってくれる空間です」


ユメノ)「わかりました。では最後にお1つだけご確認させて頂きます」


求)「…何ですか?」


ユメノ)「その憩いの空間へ入られると、その後、もう2度とこの現実の空間には戻れません。つまり、あなたがこれまで生活して来たこの世界へは戻って来れなくなるという事です。それでも大丈夫ですか?」


NA)

普通なら有り得ない勧誘の仕方。

でもその有り得なさが不思議とこの時、嘘じゃないという直感をもたらした。

また、最初にユメノを見た時に感じた「不思議な感覚」が急に甦って来た。


求)「…あなたもしかして…僕の為に現れてくれた救い主じゃないですか?」


ユメノ)「え?」


求)「…あ、い…いや、済みません…。忘れて下さい何でもありません…!」


ふと訊き返したユメノに対し、「そんな事ある筈ない」「どうせこう言う勧誘文句がマニュアルにでもあるんだろう」と俺は打ち消した。

でもユメノは…


ユメノ)「…お気づきになりましたか?そうです。私はあなたの理想や欲望、夢と正直な心から生まれた生霊です」


求)「…え?…えぇ?」


ユメノ)「あなたがこれまで真面目に働き、裏切られ、世間の辛酸を舐めて来た事を私は十分知っています。そんなあなたの心の正直は、もう世間に憩いを求めず、夢想の内に求めるようになりました。その憩いはあなたの救い」


ユメノ)「私はあなたの未来を知っています。あなたの生活はどんな仕事に就いても成り立たない。更に生活苦を受け、世間を呪い、人間関係に絶望を知り、あなたの心は現状から見て想像できない程の悲惨を味わいます」


ユメノ)「そう成る前に、あなたに救いの手を差し伸べに来たのです。」


驚いた。

驚いたなんてモンじゃない。

いま俺の目前に立っているのは、俺から生まれた生霊だ。

でも俺はそんな生霊である彼女に、自分にとって必要で最大の幸福を手にする事が出来た…そんな感動を見ていた。


ユメノ)「…では参りましょう」


彼女に言われるまま、俺は手を引かれるように連れられた。


ト書き〈憩いの空間へ〉


NA)

そしてユメノは社宅の203号室のドアを開けた。


求)「ここって昔…俺の家族が住んでいた部屋…。ユ…ユメノさん!今は誰か別の人が住んでますよ?い…イイんですかこんな勝手に…」


ユメノ)「ええ、構いません。付いてらっしゃい」


ドアには初めから鍵が掛かっていなかった。

まるでユメノに開けて貰うのを待っていたかのように。

そして…


ユメノ)「さぁ、こちらです。今日からここがあなたの住まいです。もう誰にも何にも怯える事無く、これからは自由に暮らせますよ」


求)「う…うわぁ、凄い」


NA)

部屋の中である筈が、そこは大草原と快晴の空。

絵にも描けない美しさ。素晴らしい世界が広がっていた。

更に…


求)「あ、あの人ってもしかして…」


割と近くの草原に、見覚えのある顔をした男がいる。

思い出した。

あの「謎の浮浪者蒸発」のニュースで見た、写真の内の1人だ。


ユメノ)「ええ。彼らの所へも私が参りまして、この場所をお勧めしたのです。彼らも喜んでここへ来られましたわ。彼らもあなたと同じ、生活苦に絶望を覚え、明日も生きられない暮らし…そんな状況にあった人達です」


ユメノにそう言われて見ると、本当に彼らは幸せそうだ。

草原に生えた木の実を食べたり、川で釣りをしたり、そよ風の吹く草原に寝そべっていたりして、皆、自由の風と自然の共有を楽しんでいる。

人間の世界で受けた苦しさと傷が、まるで嘘のように見える。

彼らは皆、人間世界で生活にあぶれた浮浪者だった。


求)「あの日のニュースは、こう言う事だったのか…」


ユメノ)「さぁ彼らも今日からあなたの兄弟です。兄弟姉妹と共に、永遠の幸福が広がるこのパラダイスでお幸せに…」


NA)

俺はその世界へ跳び込んだ。

その瞬間、203号室の入り口が消えた。

でももう元の世界へ戻りたいなんて全く思わない。

こういう場所を人は得てして「天国」と呼ぶのだろうか。


ト書き〈社宅を眺めながら〉


ユメノ)「これで求も人間社会のしがらみから去り、この先、永遠の幸福の内に生きる事が出来るわね」


ユメノ)「生霊としては少しだけルールを曲げて自己紹介しちゃったけど、彼にとっては問題無かったようね。私が普通の人間でも生霊でも、彼はきっと私が差し出した救いに跳び付いた…。信じる強さが何より純粋だった彼の心が、私の存在まで正直にしてしまったわ」


ユメノ)「ここは求の幼少時代が眠る場所。こんな純粋無垢な場所に限って、もしかすると本当の憩い・救いに通じる扉が隠れてるのかも知れないわね…」


ト書き〈求のアパート〉


NA)

大家から立ち退きを迫られた直後、俺は部屋の中で死んでいた。

服薬自殺。

きっとあの社宅へは、俺の純粋な心だけが旅していたのだ。

この部屋へ、ユメノが入って来た。


ユメノ)「さぁ、事後処理も済ませてしまいましょう。求の心は憩いの空間へ、求が生前使ったこの体は俗世間の土の中へ。人の救いは肉と霊によって分けられる。でも急に求がいなくなれば、きっと大家さんは慌てるかもね…」



エンディング~


魔女子ちゃん:まぁ今回はハッピーエンドだったのかな。生前は生活苦に悩んでいたけど、結局、永遠の幸福が待ってる世界へ行けたんだもんね。

ぷちデビルくん:まぁな。でもこう言う憩いとか救いを求める男女って、人間社会にゃ溢れてるんだろうぜ。

魔女子ちゃん:そうねぇ。誰だってずっと変わらない平安が欲しいって、心底から願うものだもんね。そう考えれば、生きる事って誰にとっても、初めから苦しいものなのかも。

ぷちデビルくん:生きる為にゃ稼がなきゃいけねぇし、その仕事にしても在るヤツと無いヤツに別れるって言うし。仕事にあぶれりゃ忽ち暮らしが危うくなる。まるで人間にとっちゃ綱渡りだ。

魔女子ちゃん:人間も大変ね。でも面白い事言ってたわね。「幼年時代の記憶が眠る純粋無垢な場所には、本当の憩いに通じる扉があるかも」なんて。本当にそうならイイのにね!

ぷちデビルくん:うーん、でも俺の幼年時代っつったら、それすなわち、Hell(地獄)…だしなぁ…

(↑朗読動画の場合は無視して下さい↑)



動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=F05HDUfOCf8

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浮浪者が忽然と消えた?!生活苦に追われた男の夢の居場所とは… 天川裕司 @tenkawayuji

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