第86話 話題力の差

 突然だが、今ここに、二つの新聞社があるとする。


 片方は、見出しに大きく『ウロボロスの躍進!』と書かれている。


 もう片方は、見出しに『アグリがミニスカスーツに!』と書かれている。


 どちらを取りますか? という話だ。


 ここ最近、たくさんの思惑によってウロボロスは大変な目にあっており、才能を抜かれたことでガタガタになっていた。


 しかし、そんな中で聞こえてきたのは、『ウロボロスのエースパーティーが、70層に到達した』という情報である。


 アグリが長年『集中力強化』の実験場にしてきたこともあって、彼らのこれまでの稼ぎはとんでもないものになっており、事実として、『ファンは多い』のだ。


 そんなファンにとって、ウロボロスの躍進は、安心感を得られるものだろう。


 それに対するアグリだが、何度でもいうと、彼は男である。


 しかし、艶のある白い長髪と、神秘的で美しい顔立ちと、真っ白できれいな肌は、とんでもないレベルの容姿だ。


 そして、自分の外見の勝ちを理解しており、それを率先して利用しようとは考えないが、キュウビから提案され、それが『必要』だと判断すれば、躊躇はない。


 彼自身、『集中力強化』を使うことで、『女性らしい動き』を意識することができる上に、その魔法の強度を高めていけば、雑念が一切入らない。


 可愛らしくちっちゃいドラゴンが頭の上に居たり胸に抱かれていたりしているが、これもまた、一部の人間にとってたまらないことだ。


 そんなアグリの、ミニスカスーツ。


 特に改造しているわけでもなく着崩しているわけでもない。しっかりと着こなしており、とても綺麗な足がガッツリ見えている。


 雑念が入らないため、途中で写真を撮られたとしても動揺することがない。


 ランを連れて、必要なら王都を歩き回る。


 それが、アグリだ。


 さて皆さん、それぞれの新聞社が見出しに大きく、ウロボロスやアグリを出している場合、どちらを買いますか!


「あるじが見出しの新聞、爆買いされてるぜ!」

「ウロボロスの方は店舗で積みあがってるねぇ」


 王都にある喫茶店でお茶を楽しんでいるアグリとキュウビ。


 オープンテラスで飲んでいるので客からもバッチリ見えている状態だが、『集中力強化』を使って『それっぽさ』に入っているアグリに影響はない。


「いやぁ、ウロボロスの皆さんマジで可哀そうなことになったな。せっかく『躍進』って書かれてて、それが事実なのに、話題を全部あるじのミニスカスーツに持ってかれるなんて」

「ぴい、ぴいい」


 ランはアグリの太ももの上で気持ちよさそうにしている。


 アグリは体つきがキュッ! としているので太腿も細いのだが、それでもスベスベである。


 むっちり感はほとんどないが、ランから見て、『これはこれでオーケー』と言ったところか。


「ただ、俺としては、あの宝を使って行ける階層が70層と知れたのが大きいかな」

「ウロボロス側も嘘をつく理由はねえからな。『宝』は与える『身体強化技術』に差を作ることはねえし、全員に同じものが配られる。70層に挑める程度のアイテムってことだが……『宝』って90層のアイテムだよな。なんだかそう聞くとショボい気もするが」

「まあ、『図鑑』に書かれていたことが全てという訳でもないだろうし、これからも分かるだろうね……それにしても、ウロボロスが70層に到達する時代か」

「それだけ『宝』がすげぇって話だよなぁ」

「オーバスが一体何をしてそうなったのか。それも気になるけどね」

「確かに……ただ、『宝』を呼べるのは、本部に大金を出した『支部長』だけだってべレグが言ってたし、オーバスは支部長と仲が良いって話じゃね?」

「……まあ、そんなところかな」

「ただ、ここからだな。何かが起こるとすれば」

「そうだね」


 いずれにせよ、冒険者にとって、どこまで潜れるのかというのは、れっきとした実力だ。


 外付けであろうがなかろうが、それは関係ない。


 関係ないからこそ、何があろうと、言い訳させるつもりもない。


 ……どうでもいいと思っているのも、事実ではあるが。

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