第83話 第三のミニスカスーツ美少女

「レミントンさんは除名処分になったっスね」

「へぇ、降格とかになると思ってたけど、いきなり追い出されたんだ」

「レミントン派の連中、今頃ビビってるだろうぜ」


 狐組本社の執務室。


 アグリとキュウビが書類を作っていると、エレノアが来て報告があった。


 それによると、レミントンは降格はおろかクビになったようである。


「不信任案は役員であることが認められないって主張するだけっスから、確かに本来なら降格だけになると思うんスよ。上級役員が対象なら、上級職員になるとか、そう言うケースもあるみたいっスね」

「ただ、それをすっ飛ばして、いきなり追い出すってことは……あるじはあるじで『見せしめ』って考えてたけど、本部も本部で見せしめを考えてたってところか」

「ありえるっスね」

「で、これからレミントン派ってどうなるんだ?」


 トップであるレミントンがいなくなったことで、次のトップが必要になる。


 派閥のトップという事もあり、その中で酒や肉など、嗜好品の優先的な確保権限を持っていたりと『旨味』はいろいろあった。


 ただ、そのレミントンに『不信任案』が提出され、『歴史上はじめて』査問会で正当であると証明されたことでレミントンは吹っ飛んだ。


 そのため、『優先的に、トップクラスの嗜好品を味わえる権利』を手にする椅子が空いた。ともいえる。


「あの派閥で上級役員だったのはレミントンさんのほかにも数人いるっスよ。多分誰かが任命されるっスね」

「……座りたいか?」

「嫌っスね」

「そのトップの椅子に座った場合、あるじが嬢をやってるキャバクラに行けるなら?」

「座るっスよ。まあその場合、物理的に血で血を洗う戦争が勃発すると思うっスけどね」

「間違いねえな」

「何の話をしてるの?」


 アグリの話が入ってきて、いっきにゴチャゴチャしてしまった様子。


 なので話を戻します。


「まあ、私はちょっとやることがあるから、これで失礼するっスよ」

「ああ。業務頑張ってね」

「ハイっス」


 エレノアは扉を開けて、部屋から出ていった。


「……ぴぃ?」


 で、エレノアが姿を消すと、物陰からランが顔を出した。


 キョロキョロ見渡して、エレノアが居ないことを確認すると、パタパタと飛んで、アグリの頭の上に行った。


「ぴいい♪」

「ランちゃん……やっぱりエレノアたちにまだ慣れねえよなぁ」

「慣れるとかあるのかな」

「さあ、俺様も知らねえけど」


 ユキメと一緒にいたら袋に入れられて匂いをかがれるし、エレノアと一緒にいたら、におわれる上に鼻血が降ってくる。


 一体どうしろと言うのだろうか。


 というわけで、かなり苦手である。


「かいちょー。聞いたぜ。レミントンが追放されたんだってな!」


 とか何とか言っていると、誰かが入ってきた。


 端的に言えば、『紫色の長髪をなびかせる勝ち気な印象の美少女』といったところだろう。


 胸も尻もよく育った蠱惑的なスタイルだが、一応、アグリと同い年の十八歳である。


 そして……その服装だが、ミニスカスーツである。


「ぴっ……ぴいぃ……」


 ランの体が震えはじめた。


「ん? そのドラゴンがランだよな。なんで脅えてんだ?」

「ベラルダちゃんに対してじゃねえよ。主の周りにいる人間で、ミニスカスーツを着た美少女は誰も彼もがヤバいからって話さ」

「……あー、ユキメとエレノアのことか。確かにあの二人はやべえもんなぁ」


 ベラルダは頷いた。


「まあでも、アタシは大丈夫だ。ムーンライトⅨの序列二位として、引っ張っていくメンバーが多いからな。TPOくらいはしっかりしてるぜ」

「そう言う人が多いとよかったんだけどねぇ……」

「ぴ、ぴい……」


 ランはベラルダを見てちょっと脅えている。


 だが……ベラルダの胸は、間違いなく巨乳である。


「ぴいぃ……ぴい!」


 女は度胸。ということなのだろうか。


 ランはパタパタと飛んで、アグリの頭からベラルダの胸に向かっていく。


「お、可愛いな~」


 胸に飛びついてきたランを優しく撫でるベラルダ。


「ぴいい~♪」


 撫でられるのが気持ちいい。


 どうやら、格好で偏見を持っていたようだ。


 ……なんてことを考えていたランだったが。


「つーわけで、捕獲完了♪」

「ぴ……ぴい!?」


 体が動かない。


「アタシは傀儡子。魔力の糸で縛り上げるのは得意なのさ」


 ベラルダが両腕に着けている腕輪。

 そこから細い糸が出ており、ランの体を縛り上げている。


「ぴ、ぴいい! ぴいいいっ!」

「つーわけで、今日はアタシとベッドインだぜランちゃん!」

「ぴいいいいいいいいっ!」


 走り出すベラルダ。


 糸で縛られているランだが、手で掴まれているわけではない。


 そして、ムーンライトⅨの序列二位らしいベラルダの身体能力は高く、走り出した場合、その速度もなかなかだ。


 ……言い換えると、『縛られてよく動けない状態で、超怖い絶叫マシンに乗っている感覚』に近い。


「びいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

「あっはっは! 楽しそうだなランちゃん! アタシも楽しいぜ!」

「ビイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」


 満足そうな表情のベラルダが、ランを連れて部屋から消えていった。


「……ずず、あー、お茶が美味い」

「何してんの?」

「見ての通りお茶を飲んでる……で、あるじ、俺様は聞きかじったことがあるんだが……」

「ん?」

「ムーンライトⅨって、変態度が高いほど序列が高くなる傾向にあるって聞いたことがあるんだが」

「ということは、ムーンライトⅨの中でマサミツが一番の変態なのか」


 すごく納得できる部分であることは間違いない。


「マサミツの性癖はあるじのせいですごいことになってるからなぁ」

「俺だけのせいじゃないと思うけどね。まあそれはそれとして……ランは大丈夫かな」

「ベラルダちゃんは身体能力も高いし、注意力もある。別に事故ったりしねえだろ」

「いや、ランの心の問題の話」

「……そうは言うけど、あるじも止めなかっただろ」

「止めたら後で、隠れて何かを企み始めるからね。とりあえずこれくらいがいいのさ」

「ランちゃんもかわいそうに……」


 ベラルダ。


 ユキメ、エレノアに続く『ミニスカスーツ美少女』であり……端的に言えば、例に漏れない少女である。

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