第81話 冒険者協会本部役員不信任決議案
モンスターを倒せば硬貨が出てくる。
硬貨は、生活を豊かにしたり、高度な文明を扱える『魔道具の燃料』として使うことができる。
しかも、一ミリの狂いもなく、全て同じ形と色、同じ魔力量となっており、ここまで『綺麗な円形』に加工し、それを大量生産する技術はいまだに確立されていない。
偽造不可能なものとして、世界的に認められている。
そのため、大量の硬貨を集められる『実力者』は、同時に資産家である。
そんな絶大な実力を持ちながら、国家に属するよりも手に入る自由が多くなる『冒険者』と言う身分を欲するというパターンは多い。
あくまでも冒険者と言う形を維持するために、ライセンスの更新料を払ったりもするが、払う理由は、冒険者協会と言う存在が、冒険者にとって都合がいいからだ。
権力は相対的。
暴力は絶対的。
ある意味、絶対的な暴力を持っている『トップ層の冒険者』には、権力を振りかざす本部の上級役員に対し、頭から
「『冒険者協会本部役員不信任決議案』……略して『役員不信任案』と呼ばれるっスけど、実物を見るのは初めてっスねぇ」
「俺も初めて見た。で……これ一枚を用意するのに、どれくらいの金貨が必要なんだ?」
「金貨が百万枚っスね」
「……」
「ちなみに、これが出た時点で、通ると思った方が良いっス。冒険者協会にとって、『本当に強い冒険者』は権威を維持するために必要っスから」
「……そうか」
べレグ課の事務室に置かれた一枚の紙。
一番上には『冒険者協会本部役員不信任決議案』と書かれており、その下には『レミントン・ギスカバ』と書かれている。
ちなみに、既に『魔法陣によるチェック』が入っている項目がいくつかあり、アグリはすでに『かなりの追加料金』を払ったようだ。
なお、金貨100万枚と言ったが、その価値は莫大だ。
アグリたちの価値観で、100円相当のパンは銅貨1枚で買える。
金貨は銅貨の千倍の価値なので、金貨は1枚で10万円相当。
金貨百万枚は、1000億円相当である。
「たった一人の人事のために、金貨を100万枚……これが世界レベルのゲームという事か」
「まあそう言う言い方もできるっスね。いやー、強い人相手に調子に乗るもんじゃないっスね」
「……」
黙ったべレグだが、そもそも狐組の面々は、アグリに対して調子に乗る部分も多いとは思うのだが、そこのところどうなのだろう。
なんせ、『女神像を作らせてほしい!』などと言う要求が通ったくらいだ。そしてそれを実際に作るにあたって、何人もの彫刻家が鼻血を出しながらアグリの体を測定したはず。
それは『調子に乗る』にはならないのだろうか。
……ならないか。大抵、原因はキュウビだし。
「……にしても凄いっすよねぇ。この世界、一般人なら、月給は銀貨二十枚くらい……言い換えれば金貨二枚って聞いたことがあるっスけど」
「まあ、50万か月分だからな。ただ、王都ならそれよりも多いが……『世界平均』はそんなものか」
「50万か月……割る十二で……」
「ざっと四万年くらいか?」
「あっはっはっはっは!」
エレノアは大笑いである。
「なんだかレミントンさんが可哀そうになってきたっスよ」
「だろうな……ただ、姉貴としても、『見せしめ』には丁度いいだろう」
「そうっスね。姉さんも、『レミントン派』の実態が、『いつか捨てる予定のゴミ箱』であることは分かってるはずっス。言い換えれば、レミントンみたいなのばかりが上級役員ではないってことは理解してると思うっスよ」
「だからこそ、『レミントンを生贄にする』ことで、見せしめになる。こんなに軽く、金貨100万枚が出てくるとは想像だにしなかったはずだ」
「そうっスよねぇ……というか、姉さんの財力って凄いっスねぇ。金貨百万枚って……ダンジョンの深層って、そんなにすごいんスかね?」
「それは聞いてみないと分からんが、昔、『ドロップアイテム』の確率に影響を与える指輪を手に入れたやつがいた。それなら、手に入る金貨の量に影響を与えるアイテムも、深層……もっと言えばラスボスまで倒せる姉貴なら持ってるかもな」
「なるほど。事実かどうかは置いといて、反論の余地はないっスね」
エレノアはため息をついた。
「まあとりあえず、私たちの仕事はこの書類を仕上げることっスね。破いたら百万円が飛ぶっスよ」
「嫌な言い方だな……」
べレグ課は気楽なものである。
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