転生剣士は九尾の狐と躍進中 ~大手ギルドを隠れ蓑に『集中力強化』を鍛えていた少年。不要だと匿名部署を解体されたので、表舞台に出ます。集中力が切れた地獄の職場よ。どうなっても知らんからな~
第71話 逃げるランと追いかけるミニスカスーツの二人
第71話 逃げるランと追いかけるミニスカスーツの二人
「ほー、ここがアンサンブル・ストリート。通称アンストっスね。全然にぎわってないっスけど、粒ぞろいの雰囲気を感じるっス」
「粒ぞろいの雰囲気ってなんだろうね」
「俺様も知らねえな」
「ぴい?」
アンサンブル・ストリートにやってきたアグリ、キュウビ、ラン、エレノア。
文字通り『町』を買い上げて一つの本部としているトチ狂ったものだ。
王都は大きな壁に囲まれており、拡張性は低い。
門やダンジョンから遠かったりすると開発が後回しになることもあり、発展していない部分と言うのは確かに存在する。
そういう場所は『比較的安く利用できる』のだが、簡単に買い占められると裏で何をされるかわかったものではない。
800年前の『大召喚時代』において、異世界から『プライバシー』という概念が持ち込まれ、長い時間の中で浸透した結果、『踏み込む』ということが難しくなっている。
絶対王政の国であっても、踏み込むための手続きが存在するのだ。
で、そんな状態で安い値段を土地につけられない上に、拡張性が低く『新しい土地を作り出す』ことが難しいため、間違いなく、土地は高いのだ。
それを遠慮なく買い上げて『冒険者コミュニティの町』を作り上げるなど、正気の沙汰ではない。
とはいえ、最も狂気的といえるのはアグリの資産額の方だが、それは割愛しよう。
「お、姉貴が来たぞ!」
「おおおおおっ!」
「頭にランちゃんが乗ってるぞ!」
「「「かわいい~!」」」
アンストは狐組において『個人主義』や『少数主義』となる。
大人数で集まって何かを成し遂げるのならムーンライトⅨに行く空気になっており、基本的にこの町にいる面々は個人主義強めで他人にそこまで興味がない。
が、アグリに関しては違う。
そもそもこの町に入るのは、アグリへの信仰だからだ。
「姉さんばっかりで私に誰も興味を持たないんスけど、どうなってるんスか? 私って一応、巨乳美少女っスよね」
「間違いなく金髪ポニテのダウナー系ミニスカスーツ美少女だぜ」
「じゃあなんでっスか?」
「俺様の努力の賜物だぜ」
「なるほどっス」
エレノアも、キュウビが化粧品やらなんやら、いろいろ作ってアグリの外見を維持しているのは知っているのだろう。
ただ、それで納得するのはどうなのだろうか。
「あ、隣に美少女!」
「ダウナー系か! だが、かわいい!」
「ミニスカスーツ美少女。ユキメちゃんと同じか」
「いや、茶色ボブカットクール系と金髪ポニテダウナー系は明確に異なる。どっちのファンが多くなるのか、まだわからんぞ」
アグリという顔面偏差値100についてきた……というか誑かされた面々であるという事もあるだろうが、性癖を提示し、それを議論することにおいて遠慮がない。
気色悪いと言うなかれ、男は大体こんなものだ。
まあ、その少女本人を目の前にしてここまで赤裸々に語り合うのはこいつらくらいのものだろうが、というかいてたまるか。
「うーん。やっぱ姉さんの周りって皆、変態っスね」
「それが今では王都で最強の冒険者グループなのさ」
「世も末っスね」
いずれにせよ、ここで議論したところで意味はない。
もうもはや手遅れなので問題はない。そういうことだ。
「……いったい何を盛り上がっているのですか?」
「あ、ユキメちゃん。姉貴が来たんだよ」
「姉様が?」
酒場からユキメが顔を出した。
そして、アグリと、その頭の上にいるランを確認。
ユキメはスーツのポケットから袋を取り出した。
「ぴいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
トラウマが蘇った様子。
「え、い、一体何があったんスか!? あの袋の中にランちゃんを入れて匂いを嗅ぎまくったんスか!?」
「なんでわかんの?」
キュウビのツッコミが遠い。
「ぴいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
近づいてくるユキメから逃れるために、頭から離れて空に飛んだ。
そう、ユキメは人間だ。空は飛べない。
……はずだ。
「ぴいいっ!」
……ランはちょっと自信がなくなったのか、チラッと後ろを見て確認。
すると、思いっきりジャンプした様子のユキメが、空を飛ぶランに肉薄していた。
「ビイイイイイイイイイイイイッ!」
底知れぬ恐怖を感じた様子だが、ユキメは止められない。
「かわいそ過ぎるっス!」
というわけで、エレノアがランを掴んで、ユキメの捕縛から回避させる。
「ぴいいっ! ぴいいっ!」
助かった。と言いたそうな様子のランだが……。
「ぴっ、ぴ、ぴい……」
よくよく考えたらコイツはコイツで鼻血をぶっかけてきたんだよなぁ。という事を思い出した。
「ぴいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
というわけで、エレノアの手からランは逃亡!
「あっ! なんで逃げるんスか!」
「待てええええっ! 姉様の匂い待てえええええっ!」
「ね、姉さんの匂い! た、確かに、ずっと頭に居たら……あ、やば、風呂に入った時のこと思い出してきたっス」
「ぴいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
ランの運命は三択。
逃げ切るか。
袋に入れられて匂いをかがれるか。
抱きしめられて鼻血をぶっかけられるか。
なら逃げるしかない!
…………………………………………………………………………………………………で、数分後。
「すううううううううううはあああああああああああああすうううううううはあああああああああああああっ!」
「ああ、やっぱ気持ちいいっス、ブッ!」
「ビイイイイイイイイイイイイッ!」
袋に突っ込まれて匂いをかがれながら鼻血をぶっかけられました。
この先、ずっと、ミニスカスーツの少女を警戒し続けることになるだろう。
アグリの頭の上は気持ちいいし、アンストだと酒場で出てくる氷菓子がおいしいので、アグリの頭の上に乗ったままここに来ることに抵抗はない。
が、ユキメはだめだ。エレノアもだめだ。
「……ランが強くならないと、多分ずっとこうなるだろうね」
「強さを手に入れる理由が変態から逃れるためって、不憫すぎる時代に生まれたもんだぜ」
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