転生剣士は九尾の狐と躍進中 ~大手ギルドを隠れ蓑に『集中力強化』を鍛えていた少年。不要だと匿名部署を解体されたので、表舞台に出ます。集中力が切れた地獄の職場よ。どうなっても知らんからな~
第51話【フュリアムSIDE】 シェルディから見限られる。
第51話【フュリアムSIDE】 シェルディから見限られる。
軍事力を国王に返還する。
言葉にすればとても短いが、その影響力と破壊力は抜群だ。
モンスターを倒せば硬貨が出てくるこの世界において、『戦力をコントロールする力』を手にしているのは、とても大きな意味を持つ。
国王に次ぐ軍事権を持っていたフュリアムだが、アグリを嵌めようとして、逆に嵌められたという情報は、直ぐに広まった。
その嵌められた結果として、『軍事権を失う』という結果になったことも、広まった。
冒険者寄り、かつ第一王子が嫌いなメディアはアグリをほめたたえて、王国寄りのメディアは『冒険者が国の軍事に関わるのはいかがなものか』という論調で批難している。
ただ、間違いないことが一つある。
カードを使っていた兵士たちは、上司がフュリアムから国王に変わるとともに、『宰相』から『カード禁止令』が出た。
これによって、ヘキサゴルド王国において、『大量にカードを配布し、使ってもらう』ということは事実上不可能となった。
「クソ、クソクソクソクソッ! どうしてこうなった。どうしてこうなった!」
城の執務室に戻ってきたフュリアムの荒れようは半端ではない。
まあ、それも当然。
一年間、彼は国内で一切の軍事権を持つことはできない。
これが、権力闘争で最下位に転落することに直結すると、わからないはずもない。
第一王子にして、国王に次ぐ軍事権を持つ次期国王。
そう吹聴していたフュリアムだが、全てが崩れた。
「……荒れてますねぇ」
「し、シェルディ……」
執務室に入ってきたのは、呆れと憐みに満ちた表情のシェルディだ。
「お、俺はどうすればいいんだ。お、教えてくれ。このままだと俺は……」
「まあ、国王にはなれませんね。絶対に」
「なっ……」
自身に圧倒的な性能のカードを配る、絶対的な協力者。
フュリアムからはシェルディがそう見えていたのか、縋ろうとしていたが、もうすでに、彼に利用価値はない。
「我々は、あなたの軍事権に目を付けていました。多くの方にカードを使っていただきたいのでね」
「ぐ、軍事権……」
「しかし、あなたは全ての軍事権を失い、配れるはずだった大量の兵士は国王の直属となり、宰相がその行動を決められるようになりました」
「さ、宰相が……」
「そして、『カードはまだその構造を解明するに至っておらず、使うことはできない』として、カードの使用禁止令が出たんですよ。これで、我々はこの国で活動する意義を失いました」
「この国で活動する意義を失う……え、で、出ていくのか?」
「そうですよ。何度も何度も言っていますが、我々は、多くの人間にカードを使って欲しい。それだけで活動しています。それが叶わない以上、この国に魅力を感じませんから」
「ば、馬鹿な……」
軍事権があれば、フュリアムは、カードの使用を義務付けることができた。
シェルディが狙っていたのはそこだけであり、それ以上の価値を彼に感じない。
シェルディ自身は、人間社会の中で、金も地位も名誉もいらない。
ただ、カードを使って欲しいという一心。それだけだ。
だが、冒険者にも兵士にもカードをまともに配れない現状では、この国ではどうにもできない。
……人間社会において、『無理矢理』が持つデメリットはよく理解している。
だからこそ、しっかりと手順を踏んで、ガイモンやフュリアムに近づいて提供してきた。
だが、アグリの逆鱗に触れてそれはもう無理。
「……これで失礼しますよ。ああ、手切れ金の代わりの『手切れ
テーブルに、一枚のカードを置く。
「これを使えば、70層まで戦えるでしょう。あなたは軍事力を大きくすることで発言力を大きくしてきた。もはやあなたには、磨いてきた剣の才能しか残っていない。そのカードを使って、深いところからアイテムを持ち帰るしか、市場に影響を及ぼすことは不可能です」
軍事権は大きな力だ。
そうであるがゆえに、それを大きくしていくことは権力闘争の中で紛れもなく正解であり、最適解である。
その反面、他を蔑ろにしてきたため、今のフュリアムには、権力闘争で生き残るための基盤がない。
あとは、彼個人が持つ剣の才能を活かして、彼個人がダンジョンからアイテムを持ち帰るしかない。
そう言う主張だが……まあ要するに、フュリアムが持つ最後の才能まで抜き取ろうという判断だ。
剣術の才能は確かなもの。
吸い上げることができれば、それ相応の才能を確保できる。
軍事権はないが、それでも抜き取れるものがあるなら抜く。
シェルディはそう言うタイプである。
「では、私も移動で忙しいので」
「ま、待ってくれ! お、俺を助けてくれ! 宰相には、カードに問題はないと言いつけるから……」
「無駄ですよ。もう、以前のようには戻らない。というわけで、さようなら」
「ふざけるな! お前が、アグリの刀を奪おうとしたから――」
「黙れ」
「っ!」
強者としての威圧。
シェルディからそれが放たれて、フュリアムは黙った。
「では、失礼します」
威圧一つでどうにかなるのなら、もはやどうでもいい。
シェルディはそれ以上は何も言わず、執務室から出ていった。
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