転生剣士は九尾の狐と躍進中 ~大手ギルドを隠れ蓑に『集中力強化』を鍛えていた少年。不要だと匿名部署を解体されたので、表舞台に出ます。集中力が切れた地獄の職場よ。どうなっても知らんからな~

レルクス

匿名部署から表舞台へ

第1話 部署解体

 モンスターを倒せばコインが出てきて、それは魔道具の燃料になるという『価値』が保障されている。

 よって、コインは『硬貨』として、お金として扱うことができる。


 そんな世界において、『戦闘力がある』というのは、とても分かりやすいステータスだ。


 森や山など、人里離れた場所にもモンスターの住処はあるが、『燃料』として使うならば安定している方が良い。


 そこで使われるのが、『ダンジョン』だ。

 外部と隔絶された領域で、モンスターの出現数が安定している。


 民間に頼っていると安定しないため、兵士を常時雇って、組織的な運用していることが多い。

 研究が進んだダンジョンならば、ある程度巡回ルートも確立されている。


 ただ、兵士たちがダンジョンに入るのは、あくまでも『公務』であり、内容は決まっている。

 安定している。組織的な行動なため安全性もある。


 しかし、それでは、ダンジョンの最大の醍醐味である『一攫千金』を狙えない。


 組織的な人間としての向上ではない。

 夢と野望に満ちた、自分なりのペースでダンジョンに入り、そこで多くの物を手に入れる。


 それが『冒険者』というものだ。


 より深く、より多く、ダンジョンから物を手に入れる。

 それを集め、集団となり、商人や職人と取引し、多くを得る。


 そのためには、多くの実力者が必要だ。


 しかし。

 過去に何かやらかした、『脛に傷がある冒険者』の中にも、実力者はいる。


 だからこそ。

 大手のギルドになれば、『詮索はしない。その代わりに、ギルドに利益をもたらせ』という思想で作られた、裏や、闇の部分がある。


 そしてそんな組織ほど、ギルドの『上』の心情の変化だったり、何かしらの『潔癖』によって解体されるなど、よくあるものだ。


「お前たち『アノニマス』は、今をもって解体する。冒険者ライセンスを返却して、ここから出て行ってもらおう!」


 清濁併せ持つことができない……いや、黒い部分があると気分が悪いという『意見に流されやすい若者』が権力を持った時。

 そうした組織は、最悪、なくなることもある。


「なっ……解体だと? ふざけるな!」


 しかし、事前通告もなく『出ていけ』と言われて、何も思わない者はいない。

 不満を口に出さない者はいるが、出すものもいる。


 鉄の鎧で全身を覆った大男が、こちらを蔑む青年を睨んでいるようだ。

 もちろん、頭部もヘルムでしっかり隠れているので、表情は変わらない。

 だが、その声色で十分わかる。


「ふざけてなどいない。『ウロボロス』は、ここ数年で、冒険者ギルドの中でも大手に大発展した。脛に傷がある貴様らを抱える必要などない!」


 場所は、『地下』と言える。

 一応『酒場』と言えるのか、バーテンダーが『昨日までいた』し、酒も『昨日まで置かれていた』のが分かる内装となっている。

 そしてそこに集まるのは、大男の様な全身……特に首から上を隠す者が十数人。


「だからって……」

「だからって、だと? だからこそだ! ギルドは大手になればなるほど、『協会本部』からの監査もキツイ。そういう時、貴様らがいるのは困るんだよ」


 言っていることは間違っていない。


 匿名で参加していい。と言っているのはギルドで間違いない。

 しかし、そのギルドを監督する立場である『冒険者協会本部』にとって、匿名雇用が可能な部署があるというのは、『お前、何か裏でやってるだろ』と言われて仕方がない。

 というかそうなるべきだ。


 ギルドにはギルドの都合があるが、協会本部には協会本部のルールがある。


「この俺、ウロボロスの会長の息子である『アティカス』が、エースパーティのリーダーになって二年。その功績が認められて、今では役員! その最初の仕事は、このギルドの黒い部分を排除し、クリーンなギルドを作り上げることだ」

「ぼ、冒険者ギルドでクリーンな組織だと……」


 大男の感覚にとってはあり得ない感覚らしい。


 もっとも……実力がある冒険者が、実力のある指導者の下で動く組織ができているなら、ギルドに黒い部分など何も要らない。


 それは事実だ。

 そこは、事実だ。


「俺が決めたんだ。今すぐに出て行ってもらおう。近い内に監査が来る。それまでに、貴様らの痕跡を消す必要があるからな!」

「ぐっ……」

「言っておくが、監査にチクったからと言って反撃になると思うなよ! 俺にもいろいろ伝手コネがあるからなぁ」


 下衆な笑顔で煽るアティカス。

 大手ギルドのエースとして活躍し、その功績によって幹部に。


 しかも、会長の息子。


 こんな場所など、ただの汚い何かだ。


「さあ、出ていけ!」

「……クソがっ!」


 大男は悔しそうにしているが、他は、誰も何も言わない。


 いずれ、この箱はなくなる。

 圧倒的な実力で、絶大な貢献をしているというのなら『考慮される』だろうが、それに満たないならば、何も言えない。


 このゴミ箱は、そういう場所だ。


「……」


 それを分かっている、冒険者の一人。

 黒いマントを羽織り、フードを深くかぶり……キツネの面で顔を隠している一人も、何も言わなかった。

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