直筆の後ろ側

天川裕司

直筆の後ろ側

タイトル:直筆の後ろ側



イントロ〜


あなたは日記をつけたりしたことがありますか?

女性には多いでしょうか。

でも今では男性も同じく日記をつける人も増えてきているようです。

今回は過去の経歴と、その日記にまつわる意味怖エピソード。



ト書き(デート)


俺の名前は上川茂樹(かみかわ しげき)。

今年38歳になるサラリーマン。

今俺には付き合ってる彼女がいて名前はユカリ。


ユカリと俺は結婚の約束もしていて、もうすぐ挙式の予定だ。


でもユカリは昔から、少し情緒不安定なところがあった。

本人もそれは気づいており、その悩みを打ち明けられそうになったこともある。

でもそのたび彼女は茶を濁す形で相談を切り上げ、

結局その核心部分には触れていない。


俺と彼女の共通の友達に、美穂子と博之がいる。

2人とも会社の同僚で、特に美穂子とユカリは大学の頃からの友達だ。

だから2人はプライベートでも仲が良く、よくお互いの家を行き来するほどの仲だった。


俺と博之は会社で出会った親友であり、

2人で一緒に飲む時などはお互いの彼女の事を言い合ったりし、

そこで何となく情報交換のようなことをしていた。

まぁ日常でもよくある光景だ。


そこで博之から聞いた話じゃ、美穂子はお婆ちゃん子で育ってきていたらしく、

今でもそのお婆ちゃんの写真を肌身離さず持っており、

「どう?優しそうなお婆ちゃんでしょ?私お婆ちゃんのこと大好きだったの♪」

と博之におどけて喋ったりしていた。


ト書き(相談)


そんなある日のこと。

またユカリが少し落ち込んでいたので、

このときばかりにと、俺はこれまでの

その彼女の悩みの核心部分に触れようと、

ちょっと踏み込んで相談に乗っていた。


茂樹「なぁ、一体何なんだよ、お前を悩ませているその悩みってのは?いつもはぐらかすばかりでさ、そろそろ言ってくれてもいいんじゃないか?」


ユカリ「…うん」


茂樹「俺達もう夫婦になるんだぜ?なのにいつまでもこのまま、なんておかしいだろ。いろんな悩みを共有して、2人で乗り越える力を身につけなくちゃ」


ユカリ「うん、ありがと。あのね…」


どうやら彼女が介護をしていた時の話らしい。

彼女は今の仕事に就く前に、介護福祉士として

働いていたことがあり、その時に起きた何らかの出来事が、

今彼女をこうして悩ませている?

そんなふうに思えた。


でも結局…


ユカリ「でももう大丈夫だから♪」


と結局、途中で調子を挽回し、

どうもまだ正直に話してくれない。

よっぽど悩んでいる事なんだろうか。


ト書き(事件からオチ)


最近になり、俺たち4人はよく一緒に遊ぶようになっていた。

この日も4人で一緒にレジャースポットへ行き、

それなりに楽しんで、それぞれの帰路につく。


「じゃあね〜」


別れてからその日、俺はとりあえず用事があったので

1人家に帰った。

ユカリと美穂子はそれからユカリのマンションに寄ったらしく、

美穂子はその夜おそく帰宅したらしい。


ト書き(翌日)


美穂子「なんかさぁユカリ、すごく悩んでたみたいよ。何かあったの?」


美穂子から電話がかかってきて、昨日のユカリの様子が少し変だったと俺に伝えてきた。


茂樹「そうか…」


俺はいつもそんな様子を見てきていたから

別段それが特別なものには思えず、

「なんで悩んでるか?正直なところ聞いてないか?」

とストレートに聞いてみた。


でも美穂子もこれまでの俺と同じようにして

結局その本当のところがわからなかった。


茂樹「…一体何なんだよあいつ…」


少し前からだが、俺はあいつのそう言うところに疑問を持っていた。


(事件)


それからわずか数日後。


茂樹「ユカリィ!ユカリィ!!」


ユカリは自らこの世を去った。


現場からはユカリ直筆の遺書まで見つかった。


(遺書の内容)


私は人殺しだ。介護士の時、私はあのお婆さんを殺してしまった。

過失でも人殺し。

もう生きることができない。生きていたいと思わない。

父さん、母さん、そして茂樹、ごめんなさい。


短い文章だったが、破られた大学ノートの真ん中に、

7行でそれが書かれていた。


警察の筆跡鑑定の結果、その文章が書かれた時期は

つい最近のもの。

ユカリが書いたのに間違いない、そう結論づけられた。


服毒自殺。

信じられなかった。

2人で結婚の約束までして、どんな悩みがあれ、

あれほど楽しみにしていたのは変わりなかったのに。


美穂子「グス…ユカリ、なんで!どうしてなのよぉ!」


泣き崩れる美穂子の肩を、博之は黙って抱いていた。


博之「…茂樹、大丈夫か?」


茂樹「ユカリ…」


もう言葉にならない悲しみが俺を襲った。

いや3人全員の上にのしかかっていた。


その後、警察の調べで一応他殺の線はないかと、

ひと通りの取り調べがなされた。

皆、一応の事情聴取を受けるには受けたが、どんどん悲しみが増すばかり。


事情聴取を受ける毎に、

「ユカリがもう本当にこの世にいないんだ」

と言う絶望と悲しみがリアルタイムで増してくる。

俺はもう立ち直れなかった。


博之「今はそっとしとこう。何言ったって無理だと思う」


美穂子「…」


博之「…大丈夫。その内また時があいつを癒してくれると思うから」


周りは俺を気遣ってくれたが、このユカリを亡くしたと言う悲しみと傷は一生残るだろう。


(オチ)


それから又わずか数日後の事。

ユカリの直筆で書かれたあの遺書は、

ページが破られていたことから

その破られたノートの出どころを探したところ、

ユカリが毎日つけていた日記帳だという事が判った。


その紙面にはユカリの指紋しか見つからなかったが、

わずかにゴムのようなもので、

その指紋が拭き取られていた痕跡が見つかったと言う。



解説〜


今回の意味怖ヒントは、

ユカリがつけていた日記帳と、

ゴムのようなものでわずかに拭きとられていたユカリの指紋。


結論から言います。


ユカリを殺した犯人は美穂子でした。

美穂子はお婆ちゃん子。

そのお婆ちゃんの写真をいつも肌身離さず持っていた事から、

それがうっすら祖母の形見だった事がわかるでしょうか。


そしてユカリは昔、介護福祉士として働いていました。

そこで遺書の内容から、ユカリはそこに入所していた

あるお婆ちゃんを過失で死なせてしまった…

と言う内容のことを日記に書いていましたね。


ここでピンときて、繫がった人もいるかと思います。

そう、ユカリが死なせてしまったそのお婆ちゃんとは

美穂子のお婆ちゃんの事。


ここで美穂子は極度のお婆ちゃん子、

それが美穂子にしか分からないような形で

心のサイコパスを生んでしまっていた事が浮上します。


「例えどんな経過をもってしても、自分の大切な人を奪った彼女を許さない」

と言う一種の憎悪を生み、犯行に及んでしまったのでしょう。


美穂子とユカリはプライベートでもお互いの家を行き来する仲。

ユカリがトイレなどに行き、部屋にいない時に、

美穂子は偶然ユカリの日記を見つけ、その中に書いてあった

あの遺書のような内容を見つけた。


そしてそれを利用し、ユカリを自殺に見せかけて殺した。

ユカリが飲んだ飲み物の中に毒が仕込まれており、

おそらくそのジュースか何かを美穂子が帰った後に飲んでいた。


経過の流れから、美穂子は自分が捕まっても良いする、

一応の覚悟を持って居たのかもしれませんね。


日記のページが破られていた事から、

遺書に見えたその内容がユカリ直筆だったのは当たり前。

もちろん遺書に見えたその内容は遺書などでなく、

ただユカリの悩みを綴った日記の文章だっただけ。


幾つかの偶然が重なった事件でした。


やっぱり日記の内容は、他人に見せないほうが良いようですね。

それでは又。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=MJ2d3S1DrZ4

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