1章 第25話
「ホーンラビットの角が十本で銀貨一枚 毛皮が十枚で銀貨五枚 肉が四十キロで銀貨六枚 オーガの肉が二百八十キロで銀貨百四十枚 ゴブリンの討伐報酬が銀貨一枚 合わせて銀貨百五十三枚 ここから解体手数料を差し引いて、銀貨百四十一枚になります」
この世界の重さの単位って、日本と同じキロ換算なのか。等と、軽く現実逃避してみたり。いや、それはアイテムボックスの容量の時に分かってた事か。やっぱり少し混乱してるみたいだ。
だって、ねえ? なんかとんでもない金額が聞こえた気がするんだけど。
「銀貨百四十一枚は金貨十二枚と銀貨二十一枚でお渡しした方が分配もしやすくなりますので、これでよろしいですか?」
「……ああ、それで構わない」
「分かりました。それではこちらが報酬となります」
俺が思考停止してる間にフーリが報酬の受け渡しを終わらせてしまった。手慣れてるなぁ。
「カイトさん、一度受付から離れますよ」
「――え? あ、ああ。分かった」
マリーに声をかけられて現実に戻ってきた俺は、二人と一緒に受付を離れ、近くのテーブルに着いた。
「さて、これでカイト君もアイテムボックスの有用性を理解できたかな?」
「そうだな。今の金額を聞いて理解できた」
今回の報酬で最も高い素材は、オーガの肉だった。だが、オーガの死骸をアイテムボックス無しで運ぶなど、重量から考えて現実的に不可能。
他にもホーンラビットの肉も、あの数を運ぶとか無理だ。一匹ぐらいなら大きめのリュックの様な物を持っていけば運べるだろうけど、背中に死骸を背負ったまま移動とか正直ごめん被る。
つまり、今回の素材でアイテムボックス無しで無理なく運ぶなら、ホーンラビットの角十本と、死骸を一つか二つが限界だろう。
という事は、アイテムボックス無しの場合の報酬は大雑把に計算して銀貨四枚程度。雲泥の差だ。
もしくはオーガの肉を持てるだけ持てばもう少しマシかもしれないが。
「今回はオーガも討伐しましたし、その分の報酬がかなり大きかったですからね」
確かに。オーガの肉だけで金貨十四枚分の報酬だからな。
そりゃ、どのパーティもアイテムボックス持ちを欲しがる訳だ。
「でもさ、さっき職員さんが持ってきた、収納ボックスみたいな魔導具を持ってれば問題ないんじゃ……」
「高い」
「高いです」
即答だった。それはもう見事なまでに。
「えーっと、ちなみにいくらぐらい?」
「容量百キロでも大金貨五十枚はする」
……大金貨?
「なあ、その大金貨っていうのは?」
「金貨十枚分の価値があります」
「高っ!」
つまり容量百キロで金貨五百枚分もするって事か? 高すぎだろ。
「魔道具を作れる人は少ないですからね。その上収納魔法なんてレアスキルを付与させるとなると、その価値は跳ね上がります」
魔導具職人が少ない所為か、完全に売り手市場ってやつになってるみたいだな。
「ちなみにさっきの収納ボックスは、容量千キロはある筈だから、買うとなると白金貨が何枚必要になるか」
「ちなみに白金貨は大金貨十枚分です」
……ストレージ持ってて本当に良かった。そんな額、払える訳ない。
それならホーンラビットなんかを狩って、チマチマ稼いでた方がまだマシですらある。
元が取れるかも分からない魔導具を買おうなんて普通は思わないか。
「まっ、今はカイト君がパーティに入ってくれた訳だし、これから期待してるぞ」
「ああ、任せてくれ」
俺のストレージがそんなに役に立つなら、これからも頑張らせて貰おう。
「さて、早速報酬の分配だが、私は銀貨だけでいいから、残りは二人で分けてくれ」
はい? フーリは何を言ってるんだ?
「いやいや、それは流石におかしいって。ここは一人金貨四枚と銀貨七枚にするべきだろ」
「そうだよ姉さん。ちゃんと三等分するべきだよ」
多分オーガの魔核を貰ったから、とか考えてるんだろうな。
けど、そんなのは関係ない。こういう事はキッチリしないと。
あ、そういえば。
「忘れるところだった。採取依頼の報酬、銀貨二枚と大銅貨七枚。これも足さないと」
討伐報酬の大きさに驚いてすっかり忘れてたけど、これも三等分しないと。
「合計金貨十二枚と銀貨二十三枚、大銅貨七枚か。だが、私はオーガの魔核を譲って貰ってるから、本当に報酬は少な目でいい。でないと私の気が済まない」
フーリはまだそんな事言うのか。
でも確かに、フーリのいう事も分かる。もし俺が逆の立場だったら、やっぱり気にするだろうし。
仕方ない。ここは妥協案を出すべきか。
「じゃあこうしよう。俺とマリーが金四枚と銀貨十枚ずつ、フーリが残り全部。これならどうだ?」
「いいアイディアですね! 賛成です!」
俺の提案にマリーも賛成してきた。恐らくマリーも俺と同じ考えに至ったのだろう。
本当はきっちり分けたい所だが、ここである程度妥協しないと、フーリは絶対に納得しないだろう。
「しかし……いや、分かった。それでいい」
まだ何か言おうとフーリは口を開きかけたが、俺達の目を見て何か考え、最終的には折れた。
「よし、決まりだな。じゃあ早速分配しようか」
善は急げ。フーリの気が変わらない内にさっさと済ませてしまおう。
「これでいいな。さて……おいヴォルフ。さっさと報告に行くぞ」
俺達のすぐ近くで、自分たちの報酬の分配をしていたヴォルフにフーリが声をかけた。
「ああ、そうだな。っつう訳だロザリー。わりぃけど、先に宿に戻っててくれ」
「何言ってるの? 戻ってくるまで待ってるよ」
「はあ? いや、別に先に戻ってても」
「待ってるから」
「いや、だから」
「待ってるから」
全く引く気が無いロザリーさん。そこには鉄の様な強い意志を感じる。
「――はぁっ、わぁったよ、すぐに戻ってくる」
「うん!」
結局ヴォルフが折れ、満面の笑みで返すロザリーさん。
……やっぱりここで始末した方が。
「カイトさん?」
「何でもありませんです、はい」
マリーからの言外の圧が怖い。冗談ですよ? 本当に始末したりしませんよ?
「という訳で、二人は先に宿に戻っててくれ」
「え? いや、俺達も待ってるけど」
「いや、私は報告が終わったら、ちょっとガンツ殿の所に用事がある。だから先に戻っててくれ」
ガンツさんの所に?
「あ、もしかして早速?」
「ああ、討伐報酬も結構出たし、魔導具の作成を依頼してくる」
ああ、なるほど、そういう事か。ていうか、ガンツさんって魔導具も作れるのか。
「そういう事らしいので、先に戻ってましょうか?」
「そうだな。そういう事なら、お言葉に甘えるとするか」
「すまないな。あまり遅くならないとは思うが、もしあまりにも遅い様なら、夕飯は先に済ませておいてくれ。さあ、行くぞヴォルフ」
「ああ。じゃあちょっと待っててくれ、ロザリー」
「うん、待ってる!」
そう言うと、二人は揃って受付に向かって行った。
さて、俺達はとりあえず宿に戻るか。
「それじゃあロザリーさん、俺達は先に失礼しますね」
「あ、はい。さようならカイトさん」
「じゃあね、ロザリーちゃん」
「うん、またね」
ギルドに残るロザリーさんに挨拶を済ませ、俺達は冒険者ギルドを後にした。
「なあ、マリー」
「はい、何ですか?」
「あの二人って、付き合ってるのか?」
ギルドから出てすぐ、俺は二人の事をマリーに聞いてみた。
「ヴォルフさんとロザリーちゃんですか? いえ、付き合ってはいないと思いますよ?」
「え、そうなの?」
幼馴染なのに? あんなに仲良さそうなのに? 俺だったら絶対付き合ってるよ。間違いない。
「カイトさんって、幼馴染に変なこだわり持ってません?」
「幼馴染最高! 負けヒロインとか言うんじゃねえ!」
昨今の創作物は幼馴染の扱いが酷い作品が非常に多かった。幼馴染を踏み台程度にしか思ってないんじゃないかと思う程に。
でも、一つ言わせて下さい。その程度の関係にしかなれない、ましてやどちらか片方が片方を嫌ってる様な間柄は、幼馴染とは言えません!
「その負けヒロインっていうのが何なのかは知りませんけど、やっぱりカイトさんも、あの二人が付き合ってると思いました?」
「そりゃあね。多分、ロザリーさんの方がヴォルフを好きなんじゃないかな?」
「そうですね。私もそう思います」
やっぱりな。ロザリーさんのあの態度、絶対そうだと思った。でも、ヴォルフはそれに気付いてる様には見えなかったんだよな。
「まあ、二人には二人のペースがありますし、私達が口を出す事ではないですけどね」
あれ? 意外だな。
ロザリーさんと仲良さそうだったし、てっきり「応援しましょう!」とか言うかと思ったのに。
「それに、あの二人のやり取りって、見てて楽しいですから。もちろん、相談されたら全力で協力しますけど」
と、思ったのだが、どうやらただの野次馬根性だったらしい。
マリーの意外な一面を知った瞬間だった。
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