1章 第23話

「はい、依頼達成の報告ですね。皆さんが受けた依頼は……解毒草の採取と、北の平原のゴブリン討伐の二つですね。ではまず、解毒草の納品からお願いします」


 今回受付してくれてるのはエレナさんではなかった。まあギルド職員もエレナさんだけじゃないし、当たり前か。


 職員さんはカウンターの下から五十センチ四方ぐらいの大きさの木箱を取り出してカウンターの上に置いた。

 えーっと、これに全部入れろと?


「あの、結構数があるんで、流石にこの木箱じゃあ」


 流石に入りきらないと思ったので、それとなく職員さんに伝えてみたのだが。


「あ、もしかして新人さんですか? 心配しなくても大丈夫ですよ。これは収納魔法が付与された「収納ボックス」という魔導具ですので、多少量が多くても問題ありません」


 え? 収納魔法とかあるの? 確かにそれなら大丈夫なのかもしれない。

 ……まあ気になる事はあるけど、今は納品が先か。


「これに入れればいいんですね?」

「はい、お願いします」


 職員さんに言われるがまま、ストレージから解毒草を取り出そうとしたが、そこでふと思いついた。

 わざわざ取り出さなくても、ストレージから直接収納ボックスに納品出来るんじゃね?


 スキルはイメージ、想像力。頭に思い浮かべるんだ。ストレージから収納ボックスに解毒草を転送するイメージを。目を閉じて、鮮明に。


「……」

「あの? どうされましたか?」

「カイトさん?」

「何をしている? 解毒草の納品だぞ」


 ストレージは好きな場所に展開出来るから、展開場所は収納ボックスの中。そこから解毒草を全部取り出すイメージで、と。


「……よし! これで納品出来た筈。職員さん、収納ボックスの中を確認してみて下さい」

「はい? 一体何を……え?」


 訝し気な表情をしつつも、収納ボックスを確認してくれた職員さんが、今度は困惑の表情を浮かべたまま固まった。


「え、何でもう納品されてるの? 一体何がどうなって」


 混乱する職員さん。満足気な俺。ジト目のマリーとフーリ。

 何というか、傍から見たらシュールな光景だろう。


「カイトさん、一体何をしたんですか?」


 ジト目のまま問い詰める様な声色でマリーに尋ねられる。

 え? そんなに変な事はしてないけど。


「いや、わざわざ取り出さなくても、直接納品出来ないかなって思って。ほら、スキルってイメージで使うって言ったじゃん? だから、俺のアイテムボックスから、収納ボックスに直接解毒草を納品するイメージで使ったんだけど」


 別に変な事してないよな?


「また君は変わった事を。そのぐらいの手間を惜しんで、無駄に器用な事をする」


 無駄とは失礼な! あれ? でも器用って言われたって事は……


「もしかして褒められてる?」

「呆れ半分、といったところだ。君は変わったスキルの使い方をするからな」

「チュウニビョウごっこ、でしたっけ? あんな事する人は見た事ありませんよ」


 いやいや、火魔法使えてイメージ通りに火を操れるなら誰でもやるって絶対!

 電気とか風なんかも使えたらもっとやりたい事もあるし!


「驚かせてすまない。それはここにいるカイト君の仕業だ。査定をお願いしてもいいだろうか?」

「あ、はい、そうですね。では、解毒草五十本で――え、多くない? ……失礼しました。五十本の納品で間違いありませんか?」

「あ、はい、そうですね」

「では先にこちらから査定させて貰いますね。解毒草が一本で銅貨五枚ですので、全部で銀貨二枚と大銅貨五枚、依頼達成の報酬が大銅貨二枚、合わせて銀貨二枚と大銅貨七枚です」


 職員さんが銀貨と大銅貨を巾着袋に入れてカウンターの上に置いたのを確認し、それをストレージに一旦仕舞った。


「それでは次にゴブリンの討伐依頼ですね。さっきと同様、この収納ボックスにゴブリンの魔石を納品して頂いてもいいですか?」

「え? えっと、出来れば魔石は売りたくないんですが」


 折角貰った魔石を売るのはちょっと困る。それを使って色々やりたい事があるし。


「魔石をですか? 別にそれは構いませんけど、一応討伐確認のためにカウンターに魔石を出して貰ってもいいですか?」

「分かりました、それなら問題ありません」


 良かった、売らなくてもいいらしい。

 俺はストレージからゴブリンの魔石を五個取り出し、カウンターに置いた。


「えっと、全部で五個ですね。はい、確認しました。もういいですよ」


 職員さんが数え終わるのを待ち、再び魔石をストレージに仕舞う。


「他に魔物の素材はありますか? あるなら査定して、討伐報酬と一緒にお渡ししますけど」

「あ、それならゴブリンとホーンラビット。後、オーガの死骸を持ってきたんですけど」

「オーガ!? 今オーガって言いました!?」

「うぇ!? は、はい。言いましたけど?」


 突然声を上げて驚く職員さん。

 と、何故かギルド内にいる冒険者達も急に静かになった。

 え、マジでどういう事?


「それについては、後で私から詳しく報告させて貰うから、今は査定の方を」

「わ、分かりました。でも、査定が終わったら、ギルド長の所まで一緒に来て下さいね」

「分かった」


 俺の代わりにフーリが応えてくれて、一先ず話は終わったようだ。

 だが、周囲の喧騒がさっきとは違ったものに変わっていた。


「おい、オーガだってよ」「ゴブリン討伐っていったら、アレだろ? 北の平原の。あんな所にオーガ?」「最近妙な魔物の目撃情報が増えてるみたいだし、やばい事にならなきゃいいけど」


 聞こえてくるのはこんな会話。

 どうやら、魔物が普段とは違う場所に現れている、という話みたいだ。


 昨日この世界に来たばかりの俺にはよく分からない話だが、やばい事にもなりかねない様だ。どうやばいのかは分からないけど。


「それでは、こちらに先ほどと同様に、魔物の死骸を納品して下さい」


 収納ボックスを差し出し、死骸を納品する様に言われたので、また直接収納ボックスに納品した。


「終わりました」

「はい。では確認させて貰いますね」


 さっきと違い、冷静に対応してくれる職員さん。流石に二回目となると驚かないみたいだ。


「申し訳ありません、ゴブリンの死骸は素材になる物が無いので、次からは回収しなくて大丈夫です。今回はこちらで処分しておきますね」

「あ、はい。すみません」


 余計な手間を増やしてしまったな。ゴブリンは次から放置しよう。


「ホーンラビットが十体、オーガが一体。死骸の状態の確認をした後、解体手数料を差し引いた金額をお渡しするので、少々お待ち下さい」


 そう言って、受付の裏に引っ込んでいく職員さん。

 どこか別の場所で死骸を確認するのだろうか?


「すまない、事前に説明しておけば良かったな」


 そして職員さんが裏に引っ込むのと同時にフーリに謝られた。


「それはいいけど、オーガって本来北の平原にいないの?」

「ああ。少なくとも、今まで目撃例はなかった」


 つまり、今回の件は完全にイレギュラーって事か。


「最近多いんですよね。果ての洞窟で大猪が目撃されたり、北の平原でロックリザードが目撃されたり」

「それって、魔物の生態系に変化が生じてるとか?」

「分かりません。でも、もしかしたら賢者の森の最深部にある結界に、何か異変が起きてるのかもしれないって話は聞きますね」

「結界?」


 あの森、結界なんてあるの?


「今から千年前に、賢者ペコライが張ったとされる、魔物を閉じ込める結界です。その結界の先には昔、この辺り一帯を荒らし回った強力な魔物が封じられてる、という昔話があるんです」


 昔話か。それって果たして信憑性あるのかな?


「まあ、所詮は昔話だ。強力な魔物も、どんな魔物かという記録すら残っていない。よくあるおとぎ話の類さ。実際、その結界は千年間、一度も破られた事がないんだ。確認のしようもない。それに、似たような昔話は世界中色んな所にある。まあ、よくある話さ」


 おとぎ話か。でもこういうのって、大体おとぎ話は実話で、って展開が多いよな。


「ただ、これだけ妙な目撃情報が続いて、今回のオーガだ。もしかしたら、近々調査隊が編成されて、賢者の森の大規模な調査が行われるかもしれないな」

「え? 確かに賢者の森には昔話があるんだろうけど、それで賢者の森に原因があるって決めつけて調査するのは早計じゃない? もっと他にも可能性があるんじゃ」


 流石にそれで他の可能性を考えないのは良くない気がする。もっと他にも可能性を考えないと。


「カイトさん。実は、これまで報告に上がってる、普段とは違う場所で目撃されてる魔物の共通の生息地が、賢者の森の最深部。つまり、結界の近くなんです」

「つまり、原因は賢者の森にある。っつう訳だ、ルーキー」


 突然背後から聞こえた声に振り返ると、そこには朝から俺に突っ掛かってきた男、ヴォルフが立っていた。

 面倒なのが現れたな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る