1章 第18話

「さて、後はポーションと食料を買ったら、いよいよゴブリン討伐に向かうわけだが」


 と、そこでフーリが俺の方を見て。


「今朝マリーから聞いたんだが、カイト君は既にポーションを持っているのか?」

「そうだな。一応まだ二十本ほど在庫が残ってる」


 我ながら流石に作りすぎかとも思ったが、ポーションは沢山持っておくに越した事はないだろう。


「済まないが、そのポーションを少し分けてくれないか? もちろん、代金は支払わせて貰う」

「ああ、それは別に構わない。ていうか、俺は今日色々教えて貰う立場なんだ。ポーションぐらい気にせず使ってくれ」


 どうせまた作れるし。


「そうか、すまない。代わりといってはなんだが、今日は私に教えられる範囲でしっかり教えさせて貰おう」


 と、フーリが頭を下げてきたが、俺は一つ気になる事が出来た。


「ポーションって高いのか?」


 さっきのフーリの言動は、ポーションの消費を出来るだけ抑えたいという風にも感じられた。


「カイトさん。実は最近、ポーションの原料になる薬草の納品量が減っているんですよ。なので、ポーションの数が全体的に減ってるんです。だから、今あるポーションをあまり使い過ぎると、ランクが低い冒険者まで回らなくなっちゃう可能性もあって。流石にそこまで在庫が不足している訳ではないんですけど、可能なら節約した方がいいんで」


 俺の疑問にマリーが答えてくれた。なるほど。つまり、ポーションの絶対数が減ってるから、出来るだけ節約しようって事か。


「でも何で薬草の納品量が減ってるんだ? 誰も採取依頼を受けないのか?」

「それが、薬草の納品依頼は報酬が少なくて、前は駆け出しの冒険者が定期的に納品していたんですけど、最近は何故かすぐに討伐依頼に走る冒険者が増えてるんです。それで魔物に殺されたりする冒険者も増えてて。結果的に、採取依頼を受ける冒険者の数そのものが減っちゃってて」


 なるほど。要は悪循環に陥っていると。

 こういう経緯もあるから、エレナさんは採取依頼をこなせって言ってたのか?


「私達も出来るだけ薬草の納品をする様にしてるんだが、如何せん一度に運べる数にも限りがあってな。だが、本格的に薬草採取を始めようにも、私達にも生活がある。あまり報酬が少ない依頼ばかり受けている訳にもいかないんだ」


 まあ確かにフーリ達にも自分の生活があるだろうし、報酬が低い薬草採取ばかりしている訳にはいかないよな。

 それでも、少しでもと、他の依頼を受けるついでに薬草を納品しているのか。


「分かった。そういう事なら俺にも協力させてくれ」

「すまないな、助かる」


 まあこういうのは根本的に一人一人の意識の持ちようだからな。

 一部の者だけが頑張っても、その誰かだけじゃどうにもならないもんだ。


「じゃあ、後は食料だけど。姉さん、何を持って行こうか?」

「そうだな、折角カイト君がパーティにいる事だし、偶には干し肉以外の物を持って行こうか」

「え? 普段は干し肉ばっかり食べてるのか?」


 俺が尋ねると、二人は遠い目をして。


「今まで、アイテムボックス持ちがパーティにいませんでしたからね」

「ああ。必然的に、腐りにくくて持ち運びやすく、かさばらない物になるんだが、そうなると真っ先に上がるのが干し肉でな。依頼を受けた時は、干し肉か現地でとれた食料を食べていた」


 うわぁ。なんというか、悲しくなってくるな。毎回干し肉か現地調達。しかも手の込んだ調理は出来ない。

 冒険者の悲しい現実というものを垣間見た瞬間だった。


「俺のアイテムボックスは容量無限だし、各自好きな物を持って行こう。うん」


 俺の言葉に、二人は笑顔で頷いていた。


 それから三十分後。

 俺達は酒場で各自好きな料理を頼み、それを俺のストレージに収納してから街を出た。

 アミィには「アイテムボックス持ちだったんですね!」と驚かれたが。


「さて、討伐対象のゴブリンだが、依頼書によると、ペコライの北の平原によく出没するみたいだ。だから、私達は北の平原を目指しながら、道中解毒草の採取も並行して行っていく。分かったか?」

「大丈夫」

「分かった、足を引っ張らないように頑張るよ」


 冒険者になって初めての依頼だ。少し緊張するが、頑張らないとな。


「そう緊張するな。難易度自体はかなり低い依頼だ。油断さえしなければすぐに終わるさ」

「そうですよカイトさん。リラックスしていきましょう」


 二人に励まされ、俺は少しだけ緊張が和らいでいくのを感じる。

 事前準備はきちんとしたし、依頼も適正難易度だ。何も心配する事はない。油断せず、リラックスしていこう。


「さて、そろそろ出発しようか」


 フーリの言葉を合図に、俺達は北の平原に向けて出発した。




 北の平原には、徒歩一時間程で到着した。平原はとても広く、見渡す限りの牧草地帯、という言葉がぴったりの景色だった。


 その平原で、俺達はゴブリンを探しながら解毒草の採取を進めていた。二人は自分の中にある知識を頼りに。そして俺は鑑定スキルを頼りに探している。


 かれこれ三時間ぐらい、解毒草を集めながら歩いてるだろうか。既に俺が集めた解毒草の数は三十を超えていた。


「カイト君、君は鑑定スキルも持っていたのか。流石だ」

「いや、現実逃避はやめよう姉さん。いくら鑑定を持ってても、カイトさんが集めるペースは異常だよ」


 二人が集めた解毒草は、まだストレージに収納していないから正確な数は分からないが、見た感じ二人合わせて二十ちょいといった所だろうか。


「いや、たまたまだって。たまたま俺が探した場所に沢山の解毒草が生えてただけで」

「そんな偶然あります?」


 いや、そんな事を俺に聞かれても。強いて言えば鑑定で一発で見分けられる分、少しだけ時間のロスが少ない分、探すのに時間が割けるぐらいか。


 でも、他には別に特別な事はしてないんだって。本当に偶然採れたとしか言いようがない。


「まあ、沢山集まるのは別に悪い事じゃないからいいさ。解毒草も、薬草よりはマシだが、やっぱり品薄気味でね。多ければ多いほど助かる」


 解毒草もか。いっそ全冒険者に週に一回は薬草と解毒草の納品を義務化とかしたらどうだろうか?


 報酬はやりがいとお客様の笑顔、みたいな。

 ……うん、やめよう。この言葉は俺に効く。すごく効く。


「それにしても、ゴブリンの群れが全然見つからないな」


 これだけ探しても見つからないなんて、少し変じゃないか? 


「そうだな。もしかしたら私達が来る前に、別の冒険者がゴブリンの討伐を済ませたのかもしれない」

「ここは見晴らしが良い分、ゴブリンなんかがいたらすぐに見つかりますからね。これだけ探して見つからないって事は、そういう事かもしれません」


 そんな事があるのか。まあ確かにゲームじゃあるまいし、依頼の討伐対象がいつまでも討伐されないなんて、普通はないのかもしれないけど。


 でも、こんなに準備してきたんだけどな。

 俺が肩を落とし、ガックリしていると。


「まあそう落ち込まないで下さい。こういう事もありますよ。一応もう少し先の方まで行けばゴブリンもいるとは思うんですけど」

「え? そうなの?」


 だったらもっと先に進んだ方がいいんじゃ?


「はい。ただ、カイトさんは初めての依頼ですし、今日はあまり無理をしない方がいいでしょうから」


 まあ、確かにそれはそうなんだけど、でもゴブリンの討伐はやりたいし。

 そんな思いが表情に出ていたのだろうか。


「カイト君、初日からあまり無理をするのは良くないぞ。時には諦めも肝心だ」

「……確かにそうだな。うん、分かった」


 依頼を達成できないのは残念だけど、それで無理をしていては本末転倒だ。


「分かってくれたようで何よりだ。それに、何も獲物はゴブリンだけじゃないさ」

「え? それってどういう……」


 俺がフーリに聞こうとした時、近くの茂みからガサガサっという音が聞こえてきた。


「来たか。カイト君、武器を構えるんだ」

「え? あ、ああ」


 既に剣を抜いて構えているフーリに言われ、俺はストレージから棍棒を取り出して構える。

 マリーの方を見ると、既に杖を両手で持ち、いつでも攻撃できる態勢を整えていた。


(すごいな、二人とも。咄嗟に戦闘態勢をとれるなんて)


 俺もいつかこうなりたいもんだ。

 俺は棍棒を構えたまま、音がした方に意識を集中させ、そして気付いた。


(前よりも棍棒が軽い?)


 特殊個体と戦った時に感じた重みよりも、今回感じる重みはだいぶ軽く感じる。これが身体強化の影響か。

 これならすぐに体力切れにはならないだろう。


「キィーッ」

「出たな。ホーンラビットだ」


 茂みから現れたのは、中型犬ぐらいの大きさで、一本角の生えた兎だった。

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