1章 第5話 スキル抽出

「スキル抽出? 名前からしてスキルを抽出するって事なんだろうけど」


 今ストレージに収納したのは魔石と魔核の二つだけ。って事は、この二つのどちらか、或いは両方からスキルを抽出するって事なんだろう。だが、表現が曖昧すぎてイマイチよく分からない。


「とりあえずスキル抽出を選択して……対象は魔石の方か」


 魔核の方にはコマンドは特に反応しなかった。つまり魔核で出来る事は現状何もないって事か。

 まあ今はそれよりも魔石の方だ。


「さて、それじゃあスキル抽出っと」


 スキル抽出を選び、魔石からスキルを抽出してみると、スキルを抽出した魔石は「ゴブリン(特殊個体)の魔石」からただの魔石に変化していた。

 これはスキルが抽出されて無くなったからだろう。


 次に抽出したスキルだが、今度はストレージ内に新たに別の画面が増えていた。そこには「所持スキル一覧」と表示されており、身体強化と気配探知の二つが表示されていた。


「なるほど。抽出したスキルは通常とは別枠で保存される訳か。で、このスキルは一体何に使えるのか……はい?」


 何の気なしに身体強化のスキルを選択してみた。が、そこに現れた選択肢は俺の予想を超える物だった。


 身体強化を選んだら、「スキルを習得」と出てきたのだ。

 これってつまりアレか? ここでスキル習得を選ぶと、身体強化を習得できるって事か?


 試しに選択してみると、今度は「対象を選んで下さい」と出てきた。表示されてる対象者は二人。一人はもちろん俺だが、もう一人は「???」と表示されていた。


 状況的に考えてこの「???」は間違いなくこの女の子だろう。ていうかこの娘、あんなに大きな音がした筈なのに、全然目を覚まさないな。大丈夫か?

 まあ今はそれが逆にありがたいが。さて、これはまあ俺でいいだろう。当たり前だ。


 対象者を自分にして「習得」を押す。

 すると、画面から身体強化の項目が消えた。

 ……え?


「これで終わり?」


 本当にそんな簡単にスキルを習得出来るのかと思い、自分のステータスプレートを開いてみた。すると、そこには新たに「身体強化」のスキルが増えていた。


 何かの間違いかと思い、今度は気配探知のスキルを選択し、同様に自分で習得してみると、今度はステータスプレートに気配探知のスキルが増えていた。


「マジか。いや、ストレージって本当にヤバくないか?」


 つまりだ。今みたいに魔石を手に入れて、そこからスキルを抽出すれば、任意でスキルを習得できるって事だ。しかも、その対象は自分だけではないときた。


 これは使いこなせば確実に俺の強みになる。間違いない。

 だが、さっきの魔石はゴブリンを倒したら出現していた。という事は、スキル抽出をするためには、魔物を倒して魔石を手に入れる必要があるって事か。


 ……戦闘の訓練をしないと。それも、出来れば戦闘経験が豊富な人に教えて貰う方が効率もいいだろう。


 その為には、まず人里を見つける必要がある訳で。

 チラッと、未だに目を覚まさない女の子を見る。この娘が目を覚ましてくれれば、その辺の事も踏まえて色々話を聞ける筈なのだが、なかなか目を覚ましてくれない。


「はあ、仕方ない。とりあえず食料を探しながら待つとしますか」


 俺はその場から立ち上がり、近場の散策を開始した。




 二時間後。


「いやあ、探せば結構あるもんだな!」


 辺りに食べ物が無いか散策をしていると、食べられるものが意外と多くて少し驚いた。主に果物やキノコ類ばかりだが。一応鑑定スキルを使って食べられるか確認してから採取したし、食あたりを起こす事はないだろう。飲み水は浄化した水がある。


 それに身体強化を習得したおかげか、歩きにくい獣道なんかを歩いても全然疲れなかった。これは嬉しい誤算だ。


「さて、一旦戻るか」


 実を言うと俺は今、あの娘がいる場所から少し離れた場所にいる。というのも、最初はあの娘が見える範囲内で散策をしていたんだが、あまりにも範囲が狭いのと、食べ物が全然見つからなかったのだ。


 どうしたものかと考えていた時に、試しにと気配探知のスキルを発動してみると、あの娘の気配がはっきりと分かるようになった。


 今の所スキルを使った反動らしきものは感じられないし、特にリスクは無いのかもしれない。


「果物はそのまま食べられるとして、問題はキノコか。いくら食べられるといっても、流石に生で食べようとは思わないしな」


 となると、やはり火が必要か。一応火起こしの仕方は知ってるけど、実際にした事ないしなあ。


 身体強化のスキルもあるし、木材から火起こし道具を作れば、後はゴリ押しでいける気がするけど。


「……ええい、考えてても仕方ない! とにかく木材で木の棒と木の板、後は枯草を作って木の枝と木の葉で焚火にする! ダメだったらその時はその時だ!」


 もし出来なかったとしても果物があるし、とりあえず飢え死はしないだろう。

 そう思い、ストレージ画面を開く。するとそこには予想通り、木の棒と木の板、そして枯草の項目が増えていた。ここまでくるともう確定でいいだろう。


 ストレージは、俺が作りたいと思った物が収納物で作れる場合、それを表示してくれる仕組みなのだろう。


 新しいコマンドが増える時とか、たまにストレージの方から予想してない物が作れる事を教えてくれる事もあるが、そっちについてはまだよく分かっていない。だが、現状それで困った事は起きてないから別にいいか。


「まったく、本当に便利なスキルだな。まだまだ謎は多いけど」


 とにかく色々と試してみないとな。




「さて、それじゃあ早速火起こしをしますか」


 ストレージ画面を開き、木の棒と木の板、そして枯草を合成して取り出す。


 まずは木の板の淵の方に窪みを作り、そこに木の棒をセット。その下に木の葉を敷けば、きりもみ式発火の準備が完了だ。本当はナイフで板に切れ目を入れた方が良いのだが、ナイフなんて持ってない。だが、今の俺には身体強化のブーストがある。


 試しにこのままやってみて、ダメならまた考えよう。

 木の棒を両手の平で挟み、前後に回して摩擦を加える。この時、なるべく体重をかけるなどして圧力をかけると、より摩擦が加わって良い……らしい。


 三十秒ぐらい経っただろうか。棒が下まで貫通したので、再度上に戻し、場所を少しずらしてまた摩擦をかけていく。その作業を数回繰り返していくと、段々と摩擦口から木の葉の上に溜まった焦げ茶色の粉から煙が上がり始める。

 

 これが火種完成の合図だ。後はこの火種が育つのを少し待つ。その間に枯草を鳥の巣の様な形にまとめ、中心に窪みを作っておく。


 火種が育ったら窪みに入れ、両手で枯草をそっと包み、軽く圧をかけてやる。両手に熱を感じ始めたら窪みを少し開け、酸素を送り込んでやる、と。確かこれであってるよな?


 すると突然、「ボッ」と火が大きくなったので、急いで木の枝に……しまった! 木の枝用意するの忘れた!


 焦った俺は、咄嗟に火をストレージに放り込み、急いで木の枝を大量に取り出そうと……俺は今何をした?

 ストレージ内を確認すると、今起こした火が収納されている。そして再び固まった。


 火が収納されてるだけならばまだいい。咄嗟の出来事とはいえ、焦ってストレージに火を放り込んだのは俺だ。火がストレージ内にあっても不思議ではない。いや、火がそのまま収納されてる時点でおかしい気はするけど。


 だが、そんな事が気にならなくなるほど、予想外の事が起こったのだ。

 ストレージ画面には、合成の文字が浮かんでいて「火の魔石」と出ている。


 もしも。もしもの話だけど、このまま火の魔石を合成して、スキル抽出をしたらどうなるだろう? そんな疑問が頭に浮かんだ。


 確信はない。もしかしたら俺の勘違いで、折角起こした火をいたずらに消費するだけかもしれない。


 でも、俺はさっき魔石の鑑定で見たのだ。「魔力」という文字を。

 試してみる価値はある。

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