【100万PV突破感謝!】見た目は青年、中身はアラサーが異世界に降り立つ ~チートスキル「ストレージ」を携えて~
青山凪人
1章 第1話 始まりはテンプレ通りに
近衛海斗、二十九歳、独身、彼女いない歴=年齢。地元の町工場で働く冴えないアラサー。この、どこにでもいそうなプロフィールしか持たない男とは誰の事かって? 俺の事だ。
サービス残業上等。最低賃金すれすれの給料。
地方に住んでいるから転職先もなかなか見つからず、将来に希望が持てず、死んだ魚の様な目をしている(友人談)俺は、最近よく「人生やり直したいなぁ」と、異世界物の小説を読んでは考えていた。
そしてその度に、ありえない妄想をしては日々のストレスを紛らわせている。現実逃避ともいう。
まあ考えるだけで、実際に異世界転生したいと思っている訳ではない。憧れはあるけど、あくまで妄想の範囲内だ。
それに、今の家族と別れる事になってまで異世界に行く必要はない。
そう思っていた。本当にそう思っていたんです。嘘じゃないですよ? 本当ですよ?
なのに何故か俺は今、右手に棍棒を構えたまま、背後で気を失っている女の子を庇い、全身緑色の異形の化け物と対峙している。
背丈は小学生ぐらい。全身所々に大きなイボの様な物があるその姿は、漫画やゲームによく出てくるゴブリンを彷彿とさせる。
ていうか、まんまゴブリンだ。
ゴブリンは俺を見て、何が面白いのかケタケタと笑っている。
対する俺は緊張で冷や汗を流している。
いや本当に、どうしてこんな事になっているんだろうなぁ。
遡る事数時間前。
会社からの帰り道、信号待ちをしているトラックの後ろで停車した俺は、家に帰ったら何をしようかと考えていた。
明日から久しぶりの二連休だ。
溜まっている異世界物の小説を消化するのもいいし、積んでるゲームをプレイするのもいい。撮り溜めてるアニメを観るのもアリだな。
なんせ久々の連休だ。しっかりと満喫せねば。
そんな事を考えている時だった。突然「どっがぁぁぁん!」という轟音と共に、とんでもない衝撃が全身に伝わり、トラックの車体が一瞬で俺の眼前まで迫ってきた。
そして次の瞬間、俺の意識は「プツン」と糸を切るように、唐突に途切れた。
目が覚めるとそこは、見渡す限り一面真っ白な不思議な空間だった。上下左右前後どこを見ても、真っ白な空間が地平線の彼方まで続いている。
次に、自分の体を見てみると、何やら服装がおかしなことになっていた。
一応見た目はいつも着ている黒の長袖シャツとジーンズ姿に似ているのだが、服の生地が粗くなっている気がする。それに着心地も、生地が違う所為かあまり良くない。
一体何がどうなってるのか、さっぱり分からない。
確か俺は、会社から帰る途中で信号待ちをしていて、後ろからとんでもない衝撃が突き抜けてきたかと思ったら、そのまま意識を失ったんだったよな。
それで、目が覚めたら見覚えのない不思議な空間……え、あれ? もしかして俺って死んだのか?
「はい。あなたは先程、交通事故にあってお亡くなりになりました」
「っ!」
何が起きたのか理解出来ずに混乱していると、俺の頭の中に突然若い女性の声が響いてきた。
思わず辺りを見回しみるが、相変わらず真っ白な空間が広がっているだけで、誰の姿も見えない。
「私の名はガイア。今あなたの頭の中に直接話しかけています」
直接脳内に!? じゃなくて、少し状況を整理してみよう。
交通事故で突然死んだ。目が覚めたら知らない場所。そして知らない女性の声。
……おや? この展開はもしかして?
「お察しの通り、私は女神。若くして亡くなったあなたを、私が管理する世界の一つへ転移させる為にここに呼びました」
うわぁ、これまたテンプレ展開来ましたわ。
という事はアレか? 俺は今からチートスキルを貰って、異世界で勇者になって、魔王討伐の旅をする事になるのか?
「いえ、別に魔王討伐の旅はしなくてもいいです。自由に生きて貰って構いません」
え、マジで?
魔王討伐しなくていいの?
「ガイアーラは地球と違って魔法や魔物が存在していますが、あなたには最初に特典スキルを三つ差し上げるので、そこは心配しなくても大丈夫です」
魔法に魔物!? それが本当なら魔法は是非とも使ってみたい。ファイヤーボールとかすごく使ってみたい! 身体強化系とか鑑定とか欲しいスキルは沢山ある。それを三つまで絞るとなると……。
「あの、盛り上がってる所申し訳ありませんが、スキルはランダム付与になっていますので」
「え? マジで? 自分で選べないの? そんなのってないよ!」
「さて、あまり時間もありませんので話を進めますね。あなたに転移してもらう際、年齢を十九歳まで若返らせて差し上げます。また、最初の支援として銀貨十枚もお渡ししておきます」
女神様の言葉と共に、どこからともなく巾着袋が落ちてきた。いや、俺の話はスルーかよ!
と、心の中で愚痴るが、女神様は無反応。
仕方がないので、とりあえずそれを手に取って確認すると、銀色の貨幣らしき物がきっちり十枚中に入っていた。
自分の顔は確認出来ないが、とりあえず手で触ってみると、最近増え気味だった小じわやカサつきが全く感じられない。
高校を卒業したばかりの頃の、瑞々しい肌の感触が手に伝わってくる。
この感じ、もしかしなくても若返っているのだろう。じゃないと説明がつかない。いや、若返っている時点で説明はつかないけども。
「では次にスキルの付与に移ります」
いやいや、展開早くない? 俺は若干置いてきぼりになっているんだが?
と、次の瞬間。俺の体が一瞬パっと光ったかと思うと、次の瞬間には光は霧散して掻き消えていた。
「これであなたへのスキル付与は終わりました。「ステータスオープン」と唱えれば自分のスキルを確認出来ますからね。それでは第二の人生、楽しんできて下さい」
俺の足元に魔法陣みたいな物が現れるのと、女神様がそう言葉にするのとは、ほぼ同時だった。
え? これって……。
「いやいや、ちょっと待って!? まだ何も聞いてないんですけど!? 大した説明もなく異世界転移とか何の冗談だよ!」
「それでは、良い異世界生活を!」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!」
俺の叫びもむなしく、結局大した説明もされないまま、俺の体は魔法陣に飲み込まれていった。
「ふぅ、危なかった。ちょっと居眠りした隙に、死ぬ予定じゃなかった人間が死んじゃうなんて、他の神にバレたら流石に不味いわよね」
私は先程地上で起こった事故を思い返していた。彼の車に突っ込んだトラックは、本来なら彼ではなく、横のガードレールを突き破って田んぼに突っ込む予定だったのだ。
派手な事故だったが、幸い怪我人はいなかった。そうなる予定だった。
なのに、私がちょっと居眠りしていたせいで、トラックは彼の車に突っ込んでしまった。
正直彼には悪い事をしたと思うし、罪悪感もある。
だからこそ、本来なら記憶を全て洗い流した後、輪廻の輪に戻るだけだった筈の所を、特別に異世界転移させてあげたし、特典スキルだって三つも付与してあげたのだ。
「とりあえず私が管理する別の世界に転移させたし、後は死者書類を偽造して……え?」
私は、たった今転移させた男――近衛海斗の書類を見て固まった。
そこには『近衛海斗:転移特典スキル「鑑定」「成長限界突破」そして「ストレージ」と書かれていた。
「ま、不味い! ストレージは本当に不味い! 使い方次第では彼一人で世界を滅ぼす事も可能になっちゃう!」
とんでもない事をしてしまった。
しかし彼は、既にガイアーラへと旅立ってしまった。それは、こちらから干渉できる機会は限られている、という事を意味している。というか、下手に干渉すると他の神にバレる。それだけは絶対に避けないと!
何故彼を転移させる前に、付与したスキルの確認をしなかったのか。確認して気付いてさえいれば、まだ手の打ちようはあったのに。
だが、そんな事を考えても時既に遅し。たらればの話をしてもなんの意味もない。
「あぁ、本当にどうしよう。あのスキルは地上に降ろすにはまだ早いのに」
なんせあのスキルは、使い方によっては本当に世界そのものを滅ぼす事さえ可能なのだ。
悪用されれば冗談では済まない。一応彼の人柄を見るに、悪用する様な人間ではないのは分かる。分かるのだが……。
「神様、どうか彼が悪の道に堕ちませんように! そして願わくば、ごく普通の一般人として一生を終えますように!」
ストレージを持っている時点でそれは難しいと知りながらも、私は心の底から神に祈った。
……いや、女神が神に祈ってどうするのよ!
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