第15話
紅賀屋獅乃の一人称をアタシに変更
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訓練場には聞きつけた多くの人が集まっており、勝手に賭け事まで始める始末。そんな中、征司と獅乃は訓練場の中央にてお互い武器を構え対峙していた 征司は刀を抜き正眼の構えを、獅乃は槍を両手で持ち中段に構えている そしてそれ中心に天音が審判役で立っていた
「ではこれより紅賀屋獅乃対黒狐の模擬戦を開始します。ルールはどちらかが戦闘不能と私が判断したら終わりです。よろしいですね?」
「ああ」
「早くしろ」
天音の言葉に征司と獅乃は短く答える。それを確認した天音は小さくうなずくと右手を掲げる
「花蓮さん、あの紅賀屋さんって人はどれくらい強いんですか?」
「・・・正直どちらが強いかは私にはわかりません・・・ですが・・・」
「ですが?」
絵梨は天音に尋ねる。花蓮は言いよどむが意を決したように口を開く しかしそれは天音の言葉によって遮られてしまった
「それでは始め!!」
天音の言葉と同時にギャラリーから歓声が沸く、だがこの歓声に2人はお構いなしでにらみ合う。どちらが先に動くか探り合い沈黙が続く・・・そしてそれを終わらせたのは獅乃だった 突如征司の正面から消え槍を突き出し突撃する、その速さはまさに神速。常人では目で追う事すらできないほど しかし征司は冷静にその突きを紙一重でかわし刀を振り反撃に出る、しかしその反撃は失敗した。
空を突いた槍を獅乃は力任せに横に振り征司を襲う、その速度は残像を残すほどだがギリギリのところで征司はしゃがみ避け後退し距離を置く
「彼女の強さは日本のクライマーの中でも上位の実力者・・・私より強いですわ」
花蓮は2人の攻防を見ながらつぶやく。その言葉に絵梨は驚き周りギャラリーからはさらに歓声が上がり盛りあがっていった
「やっぱりいいな黒狐!戦いは!」
「そう思っているのはお前だけだ」
両者拮抗し視線をぶつけ合う、獅乃はその視線に心を躍らせ、征司は少し面倒そうな顔をしている。そして両者再び動き出し勝負は激戦になっていく 槍と刀、その武器がぶつかり合う度に訓練場には鈍い音が鳴り響く。だが周りのギャラリーにはそれよりも凄まじい音が2人の間で鳴り響いていた 獅乃は目にも留まらぬ速さで攻撃し、それを征司は躱し時には反撃するといった攻防が続いた。だがそれは突如として終わりを迎える・・・・
「!?」
「黒狐さん!」「黒狐様!」
征司が飛ばされる、槍の攻撃が当たったわけではなく飛ばされた姿にギャラリーは驚きを見せる。辛うじて受け身を取れた征司は体制を立て直し再び刀を構え獅乃を睨む、だが獅乃はその場に立ったままニヤニヤ笑っていた、だがその頬には僅かだが傷があり血が流れていた。それもそのはず、征司が飛ばされる直前獅乃の一瞬の隙を突き反撃していたからだ。その一撃は浅かったが獅乃の頬に切りつけた。赤い線が頬を伝い垂れそれを指で掬い舐める、そして頬を赤く染める
「やはり・・・やはりお前は良いぞ!黒狐!もっとアタシを楽しませてくれ!!」
獅乃は狂気に満ちた笑みを浮かべさらにギアを上げる。もう誰にも止めることはできないだろう。それは征司もわかっているのかため息をつくと刀を持つ手に力をこめて再び戦いは始まる、戦いはさらに激化しギャラリーのボルテージは最高潮に達する。常人では目で追えない攻防、打ち合う度に床は斬れ砕けていく、2人の姿はまさに天変地異そのもの。
「これが強者同士の戦い・・・」
「ええ、我々が目指しているものです」
絵梨と花蓮は目の前で繰り広げられる激闘に思わず息を飲む。2人の攻防はもはや人と獣の戦いとしか形容できない。ギャラリーの歓声はますます大きなものになり、戦いも終盤に差し掛かった・・・
「はぁはぁ・・・そろそろ終わらせよう・・・」
「ハハ・・・もう終わりか・・・」
両者満身創痍、獅乃は肩で息をし所々に傷を負い血を流し、征司の方も着物こそ破けてはいないがどこからか血を流し仮面は傷が入っている。
獅乃の槍には目に見えない何かが辺りを激しく揺らし纏い始めて獅乃は深く構える
「やはり風魔法だったか・・・」
分かっていたかのように征司はつぶやく先ほど飛ばされた正体は魔法で固められた風であった。そのつぶやきが聞こえた獅乃は小さく笑う
「やはりお前、良い」
獅乃は槍をさらに強く握り、征司も刀を構えてお互いにらみ合う・・・先に仕掛けたのは獅乃、風を纏った槍が先ほど以上の速さで征司に迫る。征司は動かず刀を上段に構え迎え撃つ
刀と槍がぶつかり合うと爆発したかのように訓練場全体に衝撃が走り砂煙が舞い2人を包む。ギャラリーは静かに砂煙が消えるのを待つ
やがて2人の姿が見え始めた
「チッ・・・アタシの負けか・・・」
そこには斬られ左右別れた槍を持つ獅乃の姿と刀を振り下ろした姿の征司がいた。その様子を見た天音は勝者の名を呼ぶため腕を上げ宣言しようとする
「そこまで!しょうs「待った」」
天音が勝者の名を呼ぼうとするとその声を遮るように声が響く。征司はゆっくりと姿勢を正すと口を開く
「引き分けだ」
その言葉と同時に琥珀色の刀は砕ける。両者の武器は壊れもはや使い物にならない状態、つまるところ戦闘不可。2人の死闘は引き分けという形で終わった。しばしの沈黙の後、訓練所を揺らすほどの歓声が上がる
その歓声を聞きながら征司は一息つくと獅乃と向かい合う
「これで満足か?紅賀屋」
「ああ、十分だ、楽しかった。だが次は勝つ」
狂気に満ちた獣のような表情から一転憑き物が取れたような晴れやかな笑みを浮かべ征司に手を差し伸べる。その手を征司は無言で握り握手をした こうして強者同士の戦いは終わりを迎える
「ところで黒狐・・・物は相談なんだが・・・ん?」
「なんだ?どうかしたか」
何かを言おうとした獅乃の言葉に征司は疑問を投げかけると、パキッっと何かが割れる音が聞こえる疲労からかどこから聞こえるものかわからず周りを見渡す
「あ」
誰の声だろうか、それは天音か絵梨、花蓮か、それとも獅乃だったのだろうか。誰が言ったのかは定かではないがその声と同時に訓練所の床に何かが落ちた。征司は自身の真下に落ちただろう物を確認する、その音の正体は
黒い狐面が2つに分かれ落ちていた
「・・・・・・・・あ」
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