第14話

ギルドに戻った征司は絵梨たちに何も言わずどこかへ向かっていた。そう、お花摘みに行ったのだ。

別にそれくらいならひとこと言って向かえばいいのだがギルド内には女性用しかなく黒狐が男だと知っている絵梨に言うのは何とも気まずい。だが生理現象なのだ仕方がない

すでに何回か女性用で用を足している征司は慣れたよう慣れたくないがに個室に入り用を足す、そして水を流して手を洗い出ると受付辺りにいるだろうと思う絵梨たちを探すために受付の方を目指そうとした時、背後から女性の声がしその方向に振り向く


「黒狐ォ!!!」


征司は後ろを向くと狂気的な笑みを浮かべた女性がいた、その女性の手には槍が握られており征司を捉えると周りの目を気にするそぶりもなく、ずかずかと向かってきた


紅賀屋くれがや・・・・獅乃しの・・・」


征司は思わず声を零す、赤い長髪を後ろに束ねた目鼻立ちが整った端整な顔立ちに日本人離れした赤い瞳。スタイルも同年代の女子と比べれば出るところは出て引き締まるべきところは引き締まった見事なプロポーション、しかしその美しさが際立つ凛々しい顔が今は狂気的な笑みを浮かべている


「そんな他人行儀みたいに呼ぶな、獅乃って呼べ。ようやく会えたな、ずっと探してたんだぞ?」


征司の目の前に着くと獅乃は嬉しそうに笑い槍を征司に向けながら言う、その雰囲気を感じ取り征司は腰の刀に手を置く。一触即発の状況を感じ取ったのか周りの人間も騒ぎ始める


「ギルド内で訓練所以外の私闘は禁じられているのを知ってるか?もし破ったのなら謹慎だぞ」


「当たり前だ、それぐらい知っている。だがお前が逃げなければ何の問題もない」


謹慎くらいどうでもいいと言いたげに征司を挑発する獅乃、やはり話が通じる相手ではない。周囲の人間もそれに気付きギルド職員を呼んび始めるが騒ぎを起こした張本人はそんなもの聞こえていないのかさらに挑発を続ける それに対して征司はただただ呆れることしかできずため息をつき向けられている槍を手でどかしその場を去ろうとする


「おい!黒狐!アタシと勝負しろ!!!」


「はぁ・・・俺はこの後用事があるんだが?」


「ああそうか!だがアタシはここ最近ずっとお前を探していた!そして今日やっと見つけた!もう我慢の限界だ!欲求不満なんだ!私と戦え黒狐!!」


頬を赤く染めた獅乃の言葉に征司はそんなストーカー行為を聞いてさらに呆れる。このタイミングで征司を探していた絵梨たちが騒ぎに気付いて人込みをかき分けてくる


「花蓮さん?あの人は一体・・・?」


「あの人は紅賀屋獅乃、なんていうか、その・・・・戦闘狂でしょうか・・・」


「戦闘狂・・・」


絵梨は花蓮の表現に納得する、体は高揚しているのか肩を上下させ今にも征司に襲い掛かろうとしているのを必死で我慢しているように見える


「ええ、誰それ構わず噛みつこうとする姿、餌を狩るような目つき、名前からついたあだ名が紅獅子ですわ」


紅獅子・・・、確かに今の獅乃はまさにその言葉がピッタリ合うだろう。そんなことを考えているとパンパンと手をたたく音がした


「そこまでにしてください、紅賀屋さん」


その声を聴いて獅乃はぴたりと動きを止めて声の主のほうを見る、そこには天音が呆れた顔をして立っていた 獅乃は天音を見ると不機嫌そうな顔になり舌打ちを鳴らす


「天音か・・・邪魔しないでくれ」


「それは無理な相談ですね、私はギルド職員なので違反を犯そうとしている人には注意しなければなりません」


獅乃は威圧的な態度で言うが天音は気にした様子もなく言い返す。天音の登場で周囲の人間はさらに人込みを作り出し遠くで観察している 天音はギルド職員という立場上、規律を破る人物を放って置くことはできない。そのため獅乃に厳しく注意する しかし獅乃もやっと見つけた黒狐という獲物を前にして完全にタガが外れ天音の注意など聞く耳を持たない


「アタシは黒狐と戦うだけだ、邪魔をするならお前も容赦しないぞ」


獅乃は天音に槍を向ける。それを見ていた周囲の人間はさらに盛り上がりを見せ野次馬がどんどん増えていく 天音、獅乃、黒狐を中心に円を描くように人だかりができ3人は逃げ場を失う


「いいですか?紅賀屋さん、あなたは今ギルド内での私闘を行おうとしているんです。そしてそれを止めるのは私の仕事です」


「ならどいてくれ、黒狐と戦えない」


「ですから、あなたはギルドでの規則を・・・」


「どけと言っている!」


天音が言い終わる前に獅乃は物に当たる子供のように石突を床に落とす。その衝撃は凄まじく地面は割れその威力を証明するが天音は表情一つ変えず平然としていた それはギルド職員として積み上げた経験からなのかそれとも何か特別な理由があるのか、この状況にあっても冷静さを欠くことのない天音に対して獅乃はさらに苛立ちを見せる。


「もういいよ天音さん・・・紅賀屋、戦ってやる」


しびれを切らした征司は天音にそう言葉をかけると腰に差していた刀に手を添えて鞘からゆっくり抜刀する。銀色に輝く刃を獅乃に向け不敵に笑う、もはやこの獣を止めるにはこれしかない。


「・・・・わかりました。では訓練場の使用を許可します・・・・ご無理をされないように・・・・」


天音は野次馬たちに聞こえるように訓練場の使用許可を出した、その言葉に集まった人間から歓声が沸く そして絵梨たちはこの状況にただ立ちつくしこれから始まる戦いを見守る事しかできなかった・・・




「あ、紅賀屋さんは買っても負けてもギルド職員に暴力行為及び床の破壊による罰則金が科せられますから」

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