第12話

あの親睦会から1ヵ月が経ち絵梨は無理な鍛錬の効果もあってかソロで20階層までクリアできる実力になっていた。


「よし、今日はここまでだな」


「ふぅー・・・お疲れ様です・・・」


征司の声を聞き絵梨は息を整えている、今は23階層を探索しており今はその帰りだった。


「(・・・そろそろかな)」


絵梨の実力も十分ついた、これより上に行くには次の段階に進む必要があると征司は思った


「絵梨、花蓮、明日は暇か?」


「私は問題ありません」


「私も大丈夫ですが、どこに行くんですか?」


「それは着いてからのお楽しみだ」


征司はにやりと笑う。絵梨はそれを見て首を傾げているが花蓮はなんとなく察しがついたようだ。そして翌日、3人は集合場所であるギルドに集まった


「来たな2人とも、それじゃあ行こうか」


「はい!」「わかりましたわ」


2人を連れ征司はギルドをでて街に進む、黒狐状態もあり多少目立つが征司状態よりはましだ


「黒狐さん、一体どこに行くんですか?」


征司の後を追いながら絵梨が聞いてくる。


「今日は絵梨の装備を見繕いに行くんだ」


確かにこの1ヵ月で装備を新しくし今の絵梨でも20階層まではソロで行けたがそれでもさらに上に行くならまだ弱い


「今の絵梨さんの実力を考えると装備の更新は近々確実に行います、善は急げというやつですわ」


「付け加えるなら絵梨、今のお前は本当の武器を扱えていないかもしれない」


「?・・・どういうことですか?」


絵梨は征司の言ったことがよく分からず首をかしげる。


「簡単に言えば今お前は剣を使っているがそれは本当に自身にあった武器なのか?ってことだ」


「そんな!私はちゃんと剣を使って戦えてます!」


征司の指摘に絵梨は反論する。その反応を見た征司は足を止め絵梨と向き合う


「落ち着け、あくまで他の選択肢もあるかもしれないというだけだ。今から行くところで適性を見てもらい剣で問題ないならそれでいい」


征司の真剣な顔を見て絵梨は落ち着きを取り戻すその様子を見て再び歩き出す、歩き始めて数十分、3人は目的の場所にたどり着いた。そこには廃屋のような、壁に蔦が絡まっている家で絵梨は不安そうに店の前に立ちつくしていた


「黒狐さん・・・?ここ・・・ですか?」


絵梨はあばら家を指さし征司に顔を向ける。その顔は不安しかなようだった花蓮も動揺していて征司は苦笑する。確かに看板も何もなく廃屋にしか見えないが 征司は絵梨の問いに。そうだ、と言って扉を開ける。ギィィという今にも壊れそうな音と共に扉が開くと店内にはいろんな武器が並べられその奥の座敷には日本人形を思わせる黒髪おかっぱの着物姿の少女が1人座っていた。


「久しぶりだな紗良、多田羅さんはいるか?」


紗良と呼ばれた少女は無表情に征司たちに挨拶する


「どうもお久しぶりです、主は地下におられますが今日はどのような御用でしょうか?」


「ああ、ちょっと仲間の武器を見繕って欲しいんだが」


「そうですか・・・では奥の方にどうぞ」


そういうと紗良は座敷を上がるよう征司たちを促した。3人が座敷に上がると紗良は地下につながる階段へ征司たちを案内しそのまま地下へ降りていく、征司が階段を降りると花蓮と絵梨も恐る恐る階段を降りる。そして地下に着き紗良がある扉の前に立ちノックする。


「多田羅様、お客様がお見えです」


『入りな』


紗良は扉を開け中に3人を招き入れる。部屋の中は武器が壁一面に並べられており奥には一人の女性が立っていた

髪は白く肌は褐色で身長は190はあるだろうか、腕や足には服から出ている部分だけでも無数の切り傷があった。


「久しぶりだな、多田羅さん」


「ああ、久しぶり・・・そっちの2人が新しい仲間かい?」


多田羅と呼ばれた女性は花蓮と絵梨を見る。その目は獲物を狩る獣の目だった


「ああ、そうだ。絵梨に花蓮だ」


「そうか・・・私は戦原多田羅いくさばらたたら、一応鍛冶師をしている」


多田羅はそういうと手を前に出し握手を求めた花蓮はその手を取り挨拶する。絵梨も慌ててそれに倣い多田羅と握手を交わした


「で?どうだ多田羅さん」


「ああ、花蓮の方は問題ないね・・・問題は絵梨の方だね」


多田羅はじっと絵梨を見る。その目は獣の目ではなく鍛冶師としての目だった。


「な、何ですか・・・?」


若干怯えながらも目を逸らすことができないでいる絵梨に多田羅は言う


「あんたは剣との相性が悪そうだね」


「え?そ、そんなことないですよ?」


「いや悪いよ、正確には使えるけど後々メインに使えるほどではないぐらいだね・・・」


「そんな・・・」


多田羅の言葉を聞き落ち込む絵梨、そんな傍ら多田羅は壁に掛けてある武器を一つ取り絵梨に渡す


「これは俗に言う偃月刀と言われる中国由来の武器、銘は晴幻、持ってみな?」


絵梨は恐る恐る晴幻を受け取る。今まで使っていた剣とはまるで違う柄が長く両手持ちの武器。


「重い・・・?」


なぜか疑問形になりながら絵梨は重そうに晴幻を持ちあげる 確かに重さはあるが持てないわけではない、扱えないほどではなかった。


「そうさ、その武器は両手持ちの武器で扱いも難しい・・・でもあんたなら扱えるはずだよ、着いてきな」


多田羅に言われ全員地下の工房から上がり店の裏の庭に出た


「ここでなら自由に振り回せるから使ってみな」


そう言われ絵梨は言われた通りに武器を振るう、上から下への振り下ろし左右からの水平斬りさらに突きを繰り出す。そのどれもが今までよりも速くそして正確に攻撃できた。


「す、すごい・・・」


まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のように笑みを浮かべ武器を振り回す絵梨。しばらく振り回した後満足したように武器を下ろし多田羅を見る


「多田羅さん!私これを使います!」


先ほどの今まで使っていた武器が合わなかったことを告げられた時の落ち込みようとは違い、その笑顔はまるで花が咲いたような笑顔だった


「ああ、それであんたの武器は決まったね」


「はい!」


多田羅の言葉に元気よく返事する絵梨を見て征司と花蓮は小さく息を吐き微笑む。


「で?黒狐、防具のほうはどうするんだい?」


多田羅は振り返ると征司に向け他の装備について聞く


「防具のほうはまだいい、とりあえず絵梨に合った武器を見つけに来ただけです」


征司の言葉を聞いて多田羅はそうかいと素っ気なく返すと絵梨に近づき細かい調整をする為また地下へを向かった、しばらくして調整が終わり偃月刀を絵梨に渡す


「ほらできたよ、これで問題ないはずだが違和感あるならまた来な」


そう言って絵梨に武器を渡す、絵梨はそれを受け取りまた軽く振るうが今度は重さを感じず十分に扱えた


「これが私の新しい武器・・・」


「気に入ったかい?」


「はい!」


「そうかい、ならよかったじゃあ」


多田羅は嬉しそうにする絵梨を見て手を出す、絵梨は首を傾げながら多田羅を見ると、多田羅は笑いながら


「代金」


と一言だけ言った、絵梨はハッとして慌てて財布を取りだし多田羅に値段を聞く


「あ!え、えっとあのおいくらですか?」


「んー暇つぶし程度に作ったものだけどそれなりの素材使っているし・・・500万かな?」


それを聞いた絵梨は固まる。500万、決して払えないわけではないが貯金のほとんどを使ってしまうことになる。が絵梨も一人のクライマー、この武器が額以上の物だとわかっている


「か、カードで」


震える手で財布からクレジットカードを取り出し多田羅に渡す。それを受け取り機械に数字を入力すると絵梨に確認してもらい金額は間違ってない事を確認した絵梨はゆっくりと頷いていた決済をした。


「毎度、また来な」


「あ、ありがとうございました・・・」


1日で貯金を使い果たした絵梨は燃え尽きたように放心状態だったが征司は苦笑して絵梨を励ますように肩を叩いた


「このぐらいすぐまた稼げるさ」


「そ、そうですね・・・頑張ります・・・」


絵梨はそう返すが声に覇気はなかった。こうして絵梨の新たな武器が決まりまたお金を稼ぐ日々が始まった


———————— —————————

花蓮いるけど全然しゃべらせなかった・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る