泡沫に囚われる
ArY
船出のち暗雲
「何でそんなに落ち込んでんだよ。大成功の個展だったじゃないか」
私は大学の食堂で注文もせず頭を抱えていた。
うなだれている私をよそに、千客万来だったじゃないかと笑いながら日替わり定食を飲み込むように食べている
「教授も褒めていたわよ、素晴らしかったって。
心配そうな顔をした
「確かに私も個展は大成功だったと思う。でも最終日に教授が岡本隆を連れてきて……」
「え、あの岡本隆?」
コーラを飲んでいた辰巳が吹き出しながら聞き返してきた。
驚くのも無理はないだろう、まさか世界的に有名な画家がたまたま日本に来ていて、たまたまうちの学校の教授と知り合いだったなんてとんだ奇跡だ。
葵も興味津々といったようで前のめりになりながら話を聞きたがった。
「それでなんて言われたの?教授はあんたのことが気に入ってるんだからいいように言ってくれたでしょ」
「教授はね、もちろん褒めてくれたけど」
個展の終わりがけに教授を連れていきなり現れ、一枚の絵だけを見て足早に帰って行った画家を思い出す。
「『綺麗な絵が好きな人には売れるだろうけど、君が何を描きたいのか伝わらない、心に響かないよ』って」
強がって笑いながら言ってみたが2人の顔を見るに空回りをしたようだ。
正直に言えば1番自信があった作品だっただけにその言葉を言われた時はショックを受けたが、何を描きたいか、と聞かれた時に答えられない自分に愕然とした。
取り繕った笑顔でこっちを見る教授の顔が余計に惨めに感じ、そうそうに退出していく二人を見てほっとした自分にも嫌気がさした。
何かを言わなければと思ったのか、葵が口を開きかけた時、正面から邪魔が入る。
「よし、こういう時は旅に出よう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます