転生したら芸能人になった件

爪楊枝亭 カムイ

第1話 自殺から転生

 落ちている。俺こと新田優(あらたすぐる)は、落下している。近づく路面。アスファルトの凹凸がどんどん迫ってくる。俺の頭に。迫りくる死を前にして思い出すのは40年間の引きこもり生活とその生活の果てに愛想が尽きた両親と妹の冷ややかな眼差しだった。走馬灯ってこんな感じなんだな、他人事として内心呟きながら未だに落下している。風を切り裂く音が耳元で唸る。誰も、俺の新田優の飛び降りなんて気にしていないだろう。   

 時間帯は夕方の5時。退勤や下校する人の群衆を避けて昔はタワーマンションと呼ばれた廃マンションの屋上からの飛び降り自殺を決行することにしたんだ。

 高校卒業後働きたくないから進学と就活をせずに40年。58の俺は未だに社会人としての経験がない。裕福な家庭だった俺は働かなくても欲しい物を買い与えられた。それを当たり前に思っていたんだ。

 両親が老人ホームに入居することが決まってから状況が一変した。両親は俺の趣味にお金を与えることを渋るようになった。俺は不満がたまりにたまってぶちまけた。

「もっと金をくれ!」

と。そしたら、両親は言った。

「「あんたのような穀潰しに与える金は一銭もない(わ)!」」

と。そのあとは両親と殴り合いの喧嘩になり、勢いで家を飛びでて冷静になるとこんなクズの面倒をみていた両親に対し申し訳なく思い…ふらふらと廃マンションの屋上まで登り……落下している今に至る。もう、眼前に路面がある。思わず目を閉じて…俺、新田優は58年の生涯に幕を閉じた。

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