第1回ライトノベル短編アリーナ作品講評
五十貝ボタン
総評&各作品講評
総評
ライトノベル短編アリーナとは?
カクヨム上で五十貝が行った企画です。
短編ライトノベルを募集し、その講評を行うという企画です。
そういうわけで、この記事が講評です。
詳しくは企画URLをご参照ください。
https://kakuyomu.jp/user_events/16818093074776346415
おかげさまで、全7作品が集まりました。予想を超える参加にたいへん喜んでいます。
それでは、各作品について僭越ながら語らせていただきます。
各作品講評
地獄にまつわる事柄(あるいはたとえ灰になっても)
https://kakuyomu.jp/works/16818093075714926676
今回は「組織の中で」をお題として取り上げたわけですが、潜入捜査は「組織の中で」ものの真髄と言ってもいい、おいしい題材だと思います。
本来の所属である警視庁暗殺部(!?)、反社会勢力の頭、そしてその姪と3人の上司に仕えている複雑な立場の人物が主人公で、いちばん近くにいる相手にこそいちばん本音を隠しているという、精神的な距離感が緊張感を出していると感じました。何も知らないメノウが不憫でとてもいいです(人を殺してるけど)。
一点だけ、あるキャラクターが語り手からぎょっとするような呼び名で呼ばれているのは、さすがにたじろぎました。語り手が読者に対して別のキャラに対する偏見を植え付けようとするような語りは、全体の信頼を揺るがしかねないので注意して扱ったほうがいいと思いました。「〇〇という過去を持つ××××だ。その××××は~」というようにその呼び方の由来を説明してからなら、もう少し自然に読めると思います。
(もしかして××××というのがそのキャラの本名だったらすみません)
アクション上の敵役にあたるデュランダルはパーソナルな情念と組織の都合に引き裂かれてしまったわけですが、主人公もいつそうなるかわからない、という含みのある終わり方が好きです。
揚げあんバターサンド同盟/remono
https://kakuyomu.jp/works/16818093076134453944
主人公である桜子が、流されるままであることをやめて自分の意志で決断をする、というお話だと思いました。しかも、その決断して行く先がいまどき秘密結社。学園ナンセンスですね。いきなり結社の目的が明かされてしまうのはもったいないような、主題を明かす意味では読みやすいような……。何を先に書くかというのは、作者にとって永遠の課題ですね。
秘密結社というだけあって、「同盟」には学園内の様々なヒエラルキーの人々が集まっています。たった一つの目的しか共通していないので、いろいろな人が集まってくるわけですね。彼らの個性がもっと際立つところがあればよかったんですが……さすがにそこまで書き込むのは文字数として厳しかったかもしれない。
なぜリンゴとヨーグルトがあればハイカロリーな揚げあんバターサンドが食べられるのか、栄養学的な説明があればもっとよかったなと思います。個人的な気持ちですが、小説の中に読者にとって有益な知識を入れ込むのはお得感が増していいことだと思っています。
同じものを食べている人は仲間であるというのが、古来より人間の認識だそうです。そういう意味で、「何を食べるか」が目的の組織というのは面白いですね。
その瞬間まd/@momochi1029
https://kakuyomu.jp/works/16818093076320201781
「組織の中で」がお題だったのですが、本作の場合はこの「組織」が「巨大な日常」として描かれていて、まずそれが面白いと思いました。たしかに人間が作り上げている社会は巨大で緻密な組織であり、その組織の中に属するかは選択の連続の結果で決まったものと言えますね。
滅亡を前にした人類のパニックが巻き起こるはずが、案外生活には変化がない……ということが語られていますが、おそらくこの主人公の目に見えていないだけで、もっと様々な反応が起きているはずです(夫の勤め先の描写などでにおわされていますね)。それが見えないところに暮らしていることこそ、主人公がある種の浮世離れ、組織から外れつつも組織の恩恵を受け取っている人であることがうかがえます。
これがライトノベルなのかどうかはわかりませんがまあ何でもありなんだからありってことでひとつ。
見えていないところでパニックを起こしたり、生き残るための方策を練ったりしている人々もいるのでしょうが、彼らとまったくかかわることのなかった主人公が幸運だったのか不運だったのか。おそらくは夫のほうはまったく知らないというはずはないと思うので、愛情深いとも皮肉とも読めるエンディングが素敵でした。
餓狼の血には抗えず/叶あぞ
https://kakuyomu.jp/works/16818093076489508846
武術ものですね。「あらがえない性質」を前にどう生きるかというのも、確かに「属するか/離れるか」というテーマに沿っていると言えます。
ストーリーの中で、グエナスは転生を通じて自分自身の生き方を見つめ直す機会を得ますが、結局は自分自身の生き方を変えることはできなかったようです。タイトルには「血」とありますが、どちらかといえば「魂」についての話と感じました。本編の戦いを通して彼は納得ができたのか、それとも魂の因果に囚われたままなのか……少なくとも、故郷に戻ることはなかったようですが。
後編でストーリーが収束するぶん、前編では作品の確信が見えにくいような感じはしました。武術、暴力をめぐるストーリーであることをわかりやすく示した方がいいかもしれません。
アクションが見せ場になっていますが、個人的な印象では前半の過ぎ去ったものについての会話が印象的でした。転生をして二度目の人生でさえ動かしようがなかったものについて、振り返る機会を得たことが迷いを断ち切ることになったように思います。前半では会話、後半では格闘を通じてグエナスは他者と関わるわけですが、結局どちらも孤独を覆すには至らなかった哀愁があります。
皐月のレンズ/ビリーT
https://kakuyomu.jp/works/16818093076809899837
部活モノだー! ライトノベルで組織にまつわる話といえば、まず部活モノが出てくるだろうとは思っていました。
いまや定番の「廃部回避」ネタですが、もっと書き込めそうだなというのが正直な印象です。分かりやすい展開だからこそ、細かな描写や作者なりの思いが乗せられるように感じました。皐月が風景写真に、清子が人物写真にそれぞれ何を込めているのかが描写できれば、青春劇としてキャラクターが立つんじゃないかなと。
属するか・離れるかという主題、組織に新しく入ろうとする新人、メンターになる先輩、敵対者と、「組織の中で」の構成に忠実な作りです。キャラクターづけもライトノベルらしいはっきりした色づけで、誰が読んでもはっきりしたストーリーラインを読み取ることができると思います。プロットの明快さがとてもよかったと思います。
それから、部室という空間がストーリーの中で重要な存在感を出しているのも、部活モノとしてとても「らしい」ところだと思います。
銃後の獄鬼は涙する/燈夜(燈耶)
https://kakuyomu.jp/works/16818093076831452126
テンポのいい導入で、短編らしくすぐに本題に入るのがとても読みやすく感じました。自分の体ではなく、他者の死を通じて戦争を実感するという舞台だてもいいです。語り手を中心として感情のカーブはテーマに沿って盛り上がっています。特に、ボタンを巡るシーンはじっとりとしたイヤさがあってよかったですね。
悲惨な結末も戦争というある種の組織的構造によって個人の尊厳が踏みにじられるという形になっており、組織であることこそがその究極的な原因であるとテーマに切り込んでいるところもたいへんよかったです。良心を発揮しようとするものと、自ら迎合するもの、抗うほどの自己を持つことすらできなかったものと、キャラクターも対比が効いています。
他作品でも言及しましたが、一人称での語りでは他のキャラクターに対する不公平な語りに気をつけたほうがいいと思います。「豚」呼ばわりはかなり強い罵倒なので、短いやりとりですぐに発動するよりは、溜めてからシーンの終わり際に使う、というほうが主人公の諦観が際立って感じられると思います。
個人的にはエピローグはスパッと終わる方が好きなのですが、抗うことができたとしてもごくわずかな範囲にすぎない、というのが全体のテーマに繋がっていると思います。
塩漬けの歯車/秋乃晃
https://kakuyomu.jp/works/16818093075733743808
超能力組織ものですね(「異能力」より「超能力」が好きなんです)。独自の世界観があるようですが、スピンオフでも歓迎としているので興味深く読ませてもらいました。
新入りの目を通して組織を描くわけですが、人によって組織の見え方が違っているところが面白かったです。次々に登場するキャラクターのそれぞれからは、まったく違ったものがそれぞれに見えているのでしょう。最後のシーンは分かりやすく「見え方」がテーマであることを象徴している……と、解釈しました。同じように、主人公の姿も様々に見えているのかも知れません。
序盤には話の核心(つまり、主人公について)の前フリがありますが、途中であまりそういう仕込みがないのが少しもったいないと思いました。外見のことのみならず内面についても、主人公自身が採用された理由を不思議がるよりは周囲からの言及があり、それをかわしたりごまかしたり、といったスリリングな要素があると、オチの展開が引き立つと思います。
一人称によってさまざまな人物との対話を描き、くるくる場面転換をする様子はとてもライトノベル的だと思います。
さて、次ページでは部門賞を発表します。
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