バーサスレッサーパンダ8

「ともあれ、出所は不明なれど大貫さんが召喚獣を手に入れたのは確かです。その証拠がその手に描かれた召喚のシンボルです。いってみれば先ほど見せた封印石の代わりを今大貫さんが担っているわけですね」

「えっと……封印しているだけなのですか? 喚び出したりはできないのですか?」

「召喚獣が認めた証がソレですのでもちろん召喚は可能となっているはずです」

「ほぉ」


 アレが喚び出せるとなると凄いですね。一緒に戦ってくれるなら心強い。荷物を持ってくれるだけでも十分です。あのお腹に抱きついてもみたいですね。そういうのって召喚獣は許してくれるのでしょうか。食費も気になりますが、今の私であれば養うのは十分……いや、パンダの食事にかかる費用というのは高額であると聞いたことがあります。レッサーパンダは別でしょうか? インターネットで調べてみないと分かりませんね。となれば……


「大貫さん! 大貫さん聞こえてますか?」

「は!? あ、申し訳ありません。ついつい考え事を」


 ついつい物思いに耽ってしまいました。いけませんね。沢木さんの話をちゃんと聞かなければ。喚び出し方もまだ分かりませんし。


「それで召喚獣の喚び出し方ってあるのですか?」

「ええ、ありますよ。召喚方法については……そうですね。大貫さん、そのシンボルから何かを感じませんか?」

「うーん。どうでしょう。どことなく訴えてきている感覚はあります。鍵、楔、縁……そんなイメージ……でしょうか」


 そうです。昨日からそうしたイメージが感じ取られているのですが、それが何なのか分からず、むず痒い気持ちになるのです。何かが繋がっていないような、手を伸ばせば届くのに伸ばすための手がないような。そんな感じなのです。


「それは召喚のための条件付けを求めている状態ですね。名付けをすることで、それを鍵として召喚獣を喚び出せるようになるそうです」

「ハァ、名付けですか」

「はい、召喚者との繋がりを確定することで、召喚者と離れても召喚獣は繋がりが保たれるようになるのだとか。私も詳しくは知らないのですが、理屈としてはそのようなものだと説明されています」

「なるほど、それで名前を」


 名前ですか。レッサーパンダだからレッサーくん? いや、安直ですね。となると……


「あの大貫さん。名前をここで決めないでくださいよ。報告だと2メートル半はあるんですよね。ここで召喚して威嚇のポーズなんかを取ったら天井を突き破っちゃいますし」

「あ、すみません。それではダンジョンで試してみます」


 確かにあのサイズでここに出てきたら困りますね。危ない。危ない。


「そうしてください。施設内で未確認の魔獣の反応などが出たら場合によっては協会所属の探索者が攻撃してくる可能性がありますから」

「はい。気を付けます」


 そういう方もやっぱり控えているのですね。

 まあ、それはそうですよね。探索者はひとりひとりが一般人を上回る能力を持ってるわけで、当然探索者を管理する側が対抗する手段を用意していないわけがありません。


「それで、ここまでが大貫さんを呼び出した理由の半分となります」

「半分ですか?」

「そうです。召喚術の説明と使用方法で半分。それに加えて召喚獣を持っているデメリットも話しておかなければなりません」

「デメリット……ですか?」


 一体それは何なのでしょうか?


「はい。大貫さん、落ち着いて聞いてくださいね。召喚獣を得たことであなたは……」


 そして深刻そうな顔の沢木さんが続けて話す内容は私は目を丸くしてしまいました。


「命を狙われる可能性があります」




———————————




【次回予告】

 女の口から零れたものは嘆きの声であった。

 大貫善十郎。あの男、ただ者ではなく、わずかに見せた男の狂気は女に混沌の未来を予感させた。

 そして逃れられぬ運命を感じ、女はひとり慟哭した。

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