クモクモバンバン8
「ヒィヤァアアアア」
いけません。年甲斐もなく悲鳴をあげてしまいました。
けれども仕方のないことだとは思いませんか。子犬サイズの蜘蛛の大群がこちらに向かってガサガサと近づいてきているのですよ。アレは駄目です。本当にいけません。ともかくパイプの中まで逃げて、ともかく逃げましょう。
幸い糸を飛ばしてくるようなタイプの蜘蛛型魔獣ではないようですが速いですね。いえ、わたしの方が遅いというべきでしょう。一般的な探索者のスペックなら逃げ切れているのかもしれません。
というわけでこのまま逃げ続けても追いつかれてしまいますので方針転換です。とりあえず近づいてきたのだけでも迎撃しようと思います。
今の収納空間のストックは石砲弾1、石散弾1、空気弾2に熱々コーヒー弾1となっています。ちなみに熱々コーヒーは時間遅延の検証用ですね。ともあれ、まずはあのまとまったところに石砲弾をぶち込みます。
「ビギィイイイイ」
おお、十体ほど貫通して吹き飛ばしました。
続けて石散弾を撃ちましたが、新たにやってきた群れが紫の血を散らしながら倒れていきます。こちらも成功ですね。
そして撃った分の収納空間を再構築。今の戦闘で2レベル上がったのでさらに二個、全部で七個の収納空間が作れるようになりました。それでは構築、構築。そしてビニール袋に詰めておいた小石をジャラーっと。うわ、転げそうに……は持ち堪えましたけど、入れてる途中でビニール袋を落としました。最悪です。って、ウワッ。近い。蜘蛛たちがもう目の前にいますね。
となれば石散弾(半分)に空気弾。空気弾。空気弾。空気弾。空気弾。空気弾。
良し、近づいてきた蜘蛛は全て潰しました。このままパイプの中に逃げ込んで……あ、パイプの穴の前に回り込んでる蜘蛛がいます。しかも他の蜘蛛よりもかなり大きいです。まるで熊のような大きさですね。収納空間の再構築は……この距離では間に合わない。なら熱々コーヒー弾を撃ちます。発射!
「ピィギィイイイイイイ……イ……イ…………イ…………イ」
おや? コーヒー弾が当たった大蜘蛛の動きが鈍くなりました? これはどういうことでしょう。大蜘蛛がゆっくりと暴れています。いえ、違いますね。他の蜘蛛の動きも遅く、私だけがいつも通りに動けているようです。ともかく大蜘蛛を避けて急いでパイプの中に逃げますよ。
「ギィイイ」
あ、元に戻りました。熱々コーヒー弾を撃って十秒が経過したぐらいでしょうか。熱々コーヒーをかけられた大蜘蛛が悶えています。ともあれ時間は稼げましたし私はもうパイプの中に入っています。これで最悪取り囲まれる心配はなくなりました。
しかし、今の現象は一体なんなのでしょう?
原因は熱々コーヒー……ではなく、収納空間に付与されていた時間遅延なのではないかと思います。収納解除したことで空気弾の空気のように時間遅延の効果が外に排出された……とでもいうのでしょうか。そんな感覚でした。私が遅くならなかったのは、そもそも時間遅延の収納内に手を入れても私自身に時間遅延はかかりませんから、そういう仕様だということなのでしょう。
「ピギィイイイイ」
大蜘蛛が怒ってますね。恐ろしい。パイプの中に大蜘蛛と蜘蛛が次々と入り込んできています。けれどもこちらももう準備はできています。すでに七つの収納空間の再構築は完了。時間遅延付きのものも並べています。そして小石袋は落としましたが石砲弾用の石をありますのでそれぞれに入れまして……まずは時間遅延の収納空間を解除。
「ピィギィ……ィ……イ…………イ…………イ」
なるほど。やっぱりそうですね。私以外の時間が遅くなっている。その効果は先ほどの体感的には十秒といったところ。なので効果が切れる前に狙いを定めます。パイプは直線。ならば正面に向けて撃つ分にはパイプを破壊することはないはず。どこかで曲がっていたらごめんなさいですねえ。チョンチョンチョンチョンチョンと。六個全てのゲートを固定。そして一気に……
「収納解除!」
直後、一斉に放たれた六つの石砲弾が大蜘蛛たちを貫いていきます。大蜘蛛は勿論、一緒に入ってきた蜘蛛もまとめて薙ぎ払われていきます。これは圧巻ですね。千切れた肉片が宙を舞う姿もスローリー。子蜘蛛が何体かは逃れたので空気弾で仕留めておきます。最後の一匹を倒したところで時間が元に戻りました。ギリギリでしたね。
それと今のでレベルがさらに2上がりまして今のレベルは9となりました。
収納空間はさらに二個、計九個作れるようになったようです。
魔石も回収したいのですが……うわ、蜘蛛の増援が来てますね。バラバラになった大蜘蛛の魔石は露出しているのでソレだけ採ったらさっさと逃げましょう。
放置した魔石は勿体ないし、残りの蜘蛛も倒せそうな気はするんですけどね。
けれども今の方針は命を大事にです。疲れましたし、もう帰ります。
本日の業務はこれにて終了。それでは。
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【次回予告】
激闘の末、地上に帰還することに成功した善十郎。
得たものは大きく、けれども己に欠けているものも自覚した。
なればどうするか。足りなければ補えば良い。そのために銭はあるのだ。
そして彼が向かう先は……
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