Re:START -異世界の魔王を演じる事になった俺-

水無月

〜序章〜

第零話「魔王様誕生」

 誰しも一度は思ったことがあると思う。異世界に行き勇者になって魔王を倒したいだとか、魔法を使ってみたいとか。特に男なら必ずくる暗黒期。だが、魔王になりたいと思ったことはあるだろうか。俺はある。

 

 ただし、その暗黒期を乗り越えられない者も一定数居るものだ。

 表には出さないが、裏では決めポーズを取ってみたり、黒のグローブを買ってみたり、挙句の果てにはどこで使うのか分からない木刀を買う始末。

 

 少年の心が消えてくれないそれを中二病という。

 

 *

 

『クラフトオンライン』。かつて人気を博した…………訳でも無い多分俗に言うクソゲーだ。プレイヤーの人口も少なく、公式が掲げているタイトルは『自分だけの街を作ろう!』である。

 俺はそんなクソゲーをリリースされた日に始めた所謂いわゆる古参プレイヤー。話すやつなんて居ない俺は休み時間になるといつもこの『クラフトオンライン』をプレイする。別に悲しいとか寂しいとかそんな感情は無い。俺はこれが普通なんだ。

 

「お、早速皆始めてるな。……フヒッ。じゃあ始めるか」

 

 俺は早速ログインするなり、破壊衝動に駆られ次々と他のプレイヤーが時間を掛けて創った家や街を壊していく。

 もちろんチャットは大荒れである。そして俺はそんな荒れ狂うチャットを見るのが好きだ。人が時間を掛けて紡いだコミュニティを壊すというのはやはり楽しいものである。

 

「フヒッ。ざまぁみろ」

「……うわ……キッモ……」

「またゲームしながら喋ってるよアイツ……」

 

 なんか外野がうるさい。しかし俺はそんなこと気にしない。俺の居場所はクラスじゃない。『クラフトオンライン』だからだ。

 

 ---

 

 ――魔王さんが入室しました。 

 

 ハルさん【おい! テメェふざけんじゃねぇ! 】

 チピちゃんさん【せっかく時間をかけて作った家なのにひどい……泣】

 女です@本当です。さん【キャーッ! 服返してー! 】

 彼です@本当です。さん【俺の女に手出してんじゃねぇぞ! 】

 おぺぇさん【ゲーム辞めろクソニート! ○ね! 】

 

 ---

 

 この街のプレイヤーのヘイトは全て俺に集まっている。

 いやぁなんて楽しいんだ。人が作ったものを壊すのは快感だ。

 

 この『クラフトオンライン』は街創りをメインとしたゲームだ。プレイヤーは家を建てたり街を創ったり、噂では『クラフト婚活』なんてのもあるみたいだ。自分たちで創った協会で実際にゲームの中で結婚するという。俺には理解出来ないが。

 

『クラフトオンライン』がリリースされた日、街づくりなんて微塵も興味の無かった俺は広大な世界を探索する事にした。すると、面白いものを発見した。このゲームが街づくりなんてそんな浅いゲームでは無い事に。プレイヤーキル、身ぐるみ剥し、多種多様なモンスターが生息しているなど、街づくりをするだけでは勿体ない位の完成度であったのだ。

 

 そこから俺は、他のプレイヤーが夢中で街づくりをしている中、俺だけは広大な世界を探索していた。時には悪事も働いた。そして、今俺の中でハマっているのが破壊である――。

 

 

「――やぁ、君いつもゲームしてるよね? 面白い?」

 

 そんな俺に茶髪にピアスという、いかにもチャラついた陽キャが俺に話しかけてきた。何様だよと言いたいところだが、俺様とか言われたら嫌だから普通に答えることにする。

 

「……あ……たの……たのしい…………けど」

 

 やばい。クラスのやつと、しかも陽キャとなんて初めて喋ったからなんか変な間が空いちまった!

 

「へぇ! 面白いんだこれ! 俺にもやらせてくれよ!」

「い、いいけど。難しいよ?」

「大丈夫だって! 俺、こうみえてハンドスピナーとか得意だからさ」

 

 こいつはアレを回せて器用だとでも言いたいのだろうか。とはいえ口にはしない。

 こいつが怖いからじゃない。相手を傷付けるのが怖いんだ。

 

 名前分からないから陽キャ君とでも呼ぶか。俺は陽キャ君にスマホを渡し、『クラフトオンライン』をやらせてみる。

 どうやら順調のようだ。まぁ負けるはずは無い。なんせ俺が今装備しているのはレジェンド級のものだからだ。

 

「なぁ! これみてみろよ! これ俺が倒したんだぜ!?」

 

 と、陽キャ君が俺のスマホの画面を見せ、自慢してくる。はしゃいでいる彼が倒したのはスライムである。

 たったのスライム一匹倒してここまで喜んでいる。俺はこの陽キャ君になんて言うか考える。

 

 一.スライムなんて目瞑ってても勝てるだろ

 二.うわぁ、すごいね! スライム倒せるなんて、凄いよ!

 

 ………………………………よし決めた。

 

「うん、凄いと思う――」

「――あ! ……ごめん負けた」

 

 陽キャ君は負けてしまった。

 

「……………………え、……うそだろ」

 

 俺は開いた口が塞がらない。二つの衝撃があったからだ。

 一つはなぜレジェンド級の装備をしているのにも関わらず、初級モンスターのスライムにやられているのかということ。

 二つ目はゲームオーバーによって装備が全ロスになった事だ。

 

 俺がプレイしているこの『クラフトオンライン』は死亡すると装備を全ロスし、リスポーン蘇生はランダムな位置からスタートする。

 つまり、ランダム転送……がはっ! これは効く……。

 

「え? なんか急に弱くなったぞ?」

 

 陽キャ君は操作キャラが装備を付けていないことに気付いていない。俺が二年かけて集めた装備をまさか……こんなやつに。

 

「いやぁ、ごめんな? なんかキャラ裸になっちまったけど」

「……あ……ああ、いいよ、うん。また集めるから」

 

 二年かけてなっ!! くそ! 覚えてろよクソ陽キャ!!

 

 と俺は心の中で言う……。口には出さない。

 ……なるほど、これがチャットのやつらの気持ちか。俺は二年かけて最強装備を手に入れた。それが一瞬で裸になった。

 

「ほんとに悪い! 俺のせいで大切な装備無くしちまったもんな」

 

 ……この陽キャ君、もしかして良い奴なのか? ただのゲーム下手な優しい陽キャなのか? まぁだからと言って許しはしないがな。

 

「いや、ほんとに大丈夫だよ。また集めるから」

「…………俺も手伝うよ!」

「え、本当に大丈夫だよ…………あの……」

「…………あ、そういえば名前まだ分かんねぇよな。俺水鏡太陽みかがみ たいようだ! よろしくな! えっと…………」

 

 これは俺も名乗った方がいい流れなのか……? ここで名乗らなかったらボコられるかもしれない。よし、名乗ってあげよう。

 痛いのは嫌だしな。……まぁ喧嘩しても勝つのは俺だと思うけど。

 

「俺は……大神 蒼太おおがみ そうた……」

「すげぇじゃん! 名前に神入ってるとかパネェよ!」

 

 だから嫌なんだよ。全国の大神さんには申し訳ないが、大神なんて大層な名前、俺に釣り合わない。

 今の俺にお似合いなのはせいぜい装備全ロス野郎とかそんなとこだろう……。

 

 二年費やし集めた装備を一瞬で失ったのだから。

 

「ほんとごめんな! ソウタ!」

「うん、いいよ大丈夫だから」

 

 実際全然大丈夫ではない。俺はこの装備を集めるのに二年かかったのだ。陽キャ君はそんな俺の苦労を知らない。だが、こいつには悪気が無い。こいつの頭を下げる姿を見れば分かる。だからまぁ……仕方ない。

 そんな俺の名前を下の名前で呼ぶこいつの前に突如として光が現れた。

 その光は形を形成し、やがてヒトの姿へと変わる。

 その様子を見た生徒たちは教室で騒いでいた。

 

「なにコレ!?」

「ちょっと眩しいんだけど! そのオタクに何したの水鏡!」

「いや、俺何もしてねぇって!」

 

 クラスの女子達は陽キャ君が俺に何かをし、俺がこの光を発生させていると勘違いしているようだ。

 ……てか、聞くなら俺に直接言えよ。なんでコイツ経由なんだよ。

 

 

『――黙りなさい』

 

 光のヒトが優しい声色で喋った。……喋った!?

 

 光を放つそれは全身が明るく発光し、顔を見ることが出来ず、表情が分からない。

 ただ、どこを見て誰に話しかけているのかは何となく分かる。

 

『……あなたがそうですか』

「……………」

 

 どうやらこの光のヒトは俺に話しかけていたようだ。

 

「…………俺になんか用ですか?」

『見つけました、魔王様』

「魔王……様?」

 

 光のヒトの発言に生徒達は次々と口を開き、俺と同じ様な反応をしていた。

 

「俺が魔王様? えっと……何かのコスプレイベントですか? あ! 学校側が仕掛け人の生徒は知らない系ドッキリか! あるある! それなら俺も分かりますよ、うん」

『…………魔王様、そんな事はどうでもいいのです』

 

 流されちゃったよ……。じゃあ何だこの人。明らかに不審者だぞ。

 

「魔王って言うけど、俺そんな悪い事した覚えない……けど」

『いえ、魔王様に間違いありません。今は……付けられていないようですが、あのレジェンド級のフル装備。あれは勇者を倒した者のみが付けられる装備です。そんな真似出来るのは魔王様しかおりません』

 

 勇者……あ、あいつか。居たなそういえぱ。何だか気に食わない喋り方とウザったい性格をしていたから、罠にはめて全装備ぶんどってやった。あれ勇者だったのか。

 …………ついさっきスライムの大群に殺され装備を全ロスしたがな。

 

『心当たりはあるようですね、魔王様』

「……だから、なんだよ。わざわざ直接苦情か? 俺は純粋にゲームを楽しんでいただけだ。 開発者の差し金か知らないが、俺には払うものなんて無い!」

 

 そもそも金が無い!

 

『何かを払って頂く事など何一つありません』

「……じゃあ俺に何を求めてんだよあんた」

 

 俺は少し強気だった。多分、装備を全ロスした八つ当たりかもしれない。

 

『ですから、魔王様。魔王城に来て下さい』

 

 …………………………………………は?

 

『――転移』

 

 光のヒトがそう唱えた瞬間、俺は眩しい光に思わず目を閉じた。そして再びまぶたを開くと見覚えのない場所に居た。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「「――お帰りなさいませ! 魔王様!!」」

 

 赤色の肌につのが生えた鬼のような者達が迎えてくれた。

 

「……………………なにこれ」

 

 俺は状況が理解出来ず、空いた口が塞がらなかった。

 

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