dramaturgy

藤井柊太

dramaturgy

青空の手前に置かれた橋げたが視界のなかでいちばん青い

あるだろう 道に迷って行きあたるモータープールの春のまばゆさ

どこまでが理想の暮らしの範疇かりんごの皮に貼りつくひかり

峻別は、とうの昔に割れている水銀計を捨てられないまま

うつむいて歩むことさえ美しく〈生き残る〉という名の競走馬

スピードは電車のもので僕たちは並んで景色を幻視している

降りだした豪雨に車輪は空転し、僕は誰かのために祈った

ゴーイング・コンサーン夏がくるたびに汗だくになって歩道を歩け

夏草を戦がす風にまぎれくるカレン・カーペンターの拒食は

話すこと尽きても歩く僕たちの関心は常に路地の奥へと

捨てられたキャットタワーに地域猫 真昼の月を天頂に見る

いつの間に遊具は塗り替えられていて話題は社会から通念へ

意味のない鉄塔などない 反省をするふりだけで乗り切る日々に

レジ袋もらって帰るとおい日の痛みを忘れるまでの遠足

いつからか萎れたポテト いつまでも黙り続けることに飽きても

泥酔に至れば話す生い立ちを 夜明けの前のいたいけな闇

寝ることを止めたらやたら涼しくて ドラマツルギー 長袖を着る

朝の光がひかるものだけひからせて昨夜ゆうべからある水の常温

シンプルな仕組みでしんとなる部屋に何度も秋の日ははにかんで

平日のメランコリーにお辞儀してまばらな拍手をいただいている


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dramaturgy 藤井柊太 @ToutaFujii

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