第37話 未来を変える
「私はその方がいいと思う」
全員の視線が、一斉に小春の方へと集まる。小春は一瞬怯むが、それでもなお、言葉を続ける。
「まず、私には『未来』が見えます。皆さんが知っているかは知りませんが、私にはそんな能力があります」
「ん、それは知ってる。ま、見せてもらえるわけじゃないからそこまで信頼出来たもんじゃないけどね」
「私は今さっき、見たんです。皆さんに起きる未来を。いや、私達に起きる未来を」
そう、小春は先ほど『見ていた』。
このまま迷っていれば起きる『未来』を。
小春が見ていた未来では、
自分たち探偵事務所だけで、正体不明の敵へと対処しようとしていた。
自分たちは戦いを挑もうとしていた。正体まではわからない。
目の前に飛び込んできていたのは、炎、炎、炎。
その戦いの中で、自分たちは次々と倒されてゆく。連携が全く取れず、1人、また1人と炎の中に沈んでゆく。中には、血を流して倒れていた人物もいた。
その中には、異能力対策課の面々はいなかった。
「私の予知は絶対…というわけではないですが、多くの場合その予知は命中します。この未来は必ず起こるはずです。だからこそ、あなたたちに協力を頼みたい、です」
「ふむ、前回も小春クンのおかげで、少なくとも探偵事務所の全滅は避けられたわけだからな」
「…本当にいいんですか、華月さん」
「僕も完全にこれで納得というわけじゃないさ。だが、時にはプライドを捨てた方が上手くいく場合もあるというわけだ。僕は請けるよ」
「………!」
小春は大きく喜んだ。もし、ここで協力者を得られるのなら、大きな一歩になる。未来を変えられる、そう彼女は確信した。
「言っておくけどオレたちは依頼を請ける立場ではあるけど、上も下もないから、そのつもりでお願い」
「はいはい、わかりましたよ。…なんか、うちの奏さんみたいな人ですねぇ、この少年」
「それ、貶してる?」
「解釈次第です」
一哉は相変わらず不機嫌そうな顔だったが、その実、その声色には先ほどよりは少しだけ明るさが滲んでいた。
「とりあえず、この後はどうしましょうか。えっと。白川さんの予知を見る限り、うちの奏さんの件と、そちらの件に関連性はなさそうなのですが、そこはどうするおつもりでしょう」
「そこで僕からのアイデアなのだが。ここからはそれぞれ3人、4人でチームでも組んでもらおうか」
「チーム?っていうと、俺たちとそちら、それぞれを分けて別件の事件に対応してもらう、って解釈でいいのかな」
「その通りだ。久遠寺奏の件、うちの事務所の件。それぞれに分かれて対応してもらおう。もし関連があるならば、チームを合流させる。それでいいか?」
華月は指を立てながら提案をした。
「華月さん、これってつまり。今後も良好な関係を築いていくために、一緒に活動していこうっていうことかな」
「まさにその通りなわけだが……紬に先に言われてしまうのは少し悔しいな」
まるで幼い少女のように、口をとがらせる華月。それを見て、小春は少しおかしな気分になっていた。
「紬さんは…勿論お姉さんの方に行くよね?」
「そのつもりだけど……。小春はこっちに行くつもりじゃないの?」
「お姉さんに思い入れがない、っていうわけじゃないけど。やっぱり予知はこの事務所に危険が訪れることを告げてるから、こっちに行きたいな、って」
「…そっか。うん、小春が選んだことだし、仕方ないかな……うん」
「ははーん。まあ小春クンと一緒にいたいという気持ちはわからんでもないがな。では君の姉の調査には僕が一緒についていこうか。一応依頼を請けた組織のリーダーとしてな。一哉と悠希はどうする?」
「オレは~~~うーん。選べないからカズ先にお願い!」
「じゃあオレの方は事務所の方に行くよ。そっちの方には人員2人いるでしょ?悠希もそっち来なよ」
「まー、オレたち一緒じゃないとな!じゃー春ちゃんもよろしくね!」
「う、うん。よろしく!」
やけに距離の近い悠希に少しだけ後ずさりしながら、小春はともに向かうことを了承した。
「奏さんの調査には京太郎さん、アンタが行きたいでしょ。俺事務所の方に向かうわ」
「気遣い感謝します。ではよろしくお願いしますね」
こうしてチームが決まり、それぞれがそれぞれの目的に向けて歩き始めることとなった。
「そういえば、大事なこと一つ決めてないんじゃないかな」
「大事なこと?何かあったか?」
「何かあった時のために、誰に連絡したらいいのかっていうのを決めないと。こっちの代表は華月さんでいいだろうけど……そっちはどうするつもり?」
「流石紬さんですね。確かに、連絡先がわからなければ困りますね。順当に行けば広夢さんでしょうが…あなたこういう時に代表やるの、苦手ですよね?」
「いや別にオレでもいいけど?というか、連絡者代表が両方探偵事務所サイドってのはそれはそれで困ることもあるでしょ。それにぶっちゃけ白川さんも九条君も朝賀君も、向いてないと思うよ」
「向いてないっていうのは自覚してるけど…直接言われるとイラっと来るな」
「まーまー。カズはその代わり得意分野で頑張ればいいんだからさ!春ちゃん的にはどー?」
「任せてくれるならやる!でも…ほかに意見あるから、その人に譲りたい」
小春は少し視線を泳がせてから、曖昧に答える。
「あーいや、そういう消極的な姿勢で名乗り出られてもね。だったらオレに任せてくんねぇ京太郎?」
「他の人達が納得してくれるのであれば」
「私は構わないよ。それに…連絡するって言っても私達の方から華月さんに連絡するんだから、むしろ紬さんと華月さんが納得するか、かな」
「正直、こういうことで下手にもめるくらいなら早く決めちゃっていいと思う」
「僕も賛成だ。つまらない小競り合いはやめよう。言い出しっぺの僕が言うのもなんだが、そもそも一緒にやろうって方が厳しいんだ。ある程度の妥協は必要だぞ、中川君」
「あはは、言われちゃいました。そんじゃ準備が出来たら場所くらい決めてから行きましょうか」
「それじゃ、私達は事務所周辺で怪しい人がいないか見回ってこようと思うけど、いいかな?」
「オレもそれでさんせー。カズはどう思う?」
「ん……別に何でもいいんじゃない?調査って最初に何かしら動かないと始まらないでしょ」
「オレも特に反対理由はないよ。そっちはどう?」
「私達は現場近くの方を見てみようと思う。反対意見がなければだけど」
こうして、最悪の未来を変えるための調査が、始まった。
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