ずるずる

プロローグ

プロローグ

──なあ啓介、T町に幽霊屋敷あるだろ?

え? 知らない?

そうか、お前地元じゃないもんな。


俺の家の近くからT町の駅に向かうバスに乗るとさ、途中、小さい山みたいなとこのてっぺんに、でかい屋敷があるんだよ。

噂によるとさ、三十年前……。あれ? 四十年前だったかな。まあそれくらい前に、そこに金持ちの家族が住んでたんだと。子供はいなくて、屋敷には主人とその妻、後は通いの家政婦が数人いるだけだったらしい。しかし、しかしだよ、まあ良くある話さ、事業に失敗したとかで、そこの主人が二階の寝室で首を吊ったんだとさ。妻が出かけていた隙に、家政婦に「今日はもう帰って良い」なんて言ってさ──。


え? その主人の霊が出るのかって?

お前せっかちだな。もう少し聞けって。


でな、それから一ヶ月もしないうちに、今度は妻が後追いで首を吊ったんだ。もちろん、主人が死んだのと同じ部屋でさ。

でも、ロープの結び方が悪かったのか「後ちょっとで死ねる!」って時に、切れちまったんだな。ロープが。床に落ちた妻は瀕死の体で「ずる……、ずる……」と這って、階段へ向かった。そして、そこから転がり落ちて──。


──え? 何だよ良いとこで口挟むなよ。

妻の霊が出るのかって?

ああ、もう、そうだよ。ここまで聞いてりゃわかるだろうが。


え? それで、何で化けて出るんだって?

望み通り後を追えたなら化けて出る理由は無いだろうって?

知らねえよ。お化けの気持ちなんて知らねえよ。

何か成仏できない理由があるんだろうよ。


え? それで、どうやって化けて出るんだって?

お前さあ……、こんな感じで話してもちっとも怖くないだろうがよ!

まったく……、黙って聞いてろよな。

それでよ、妻の霊がさ、夜な夜な……、ああ、いや、昼間でも出るんだったか?


ああ、もう良いや。

とにかくその妻の霊がさ、出るんだよ。

二階の寝室から、一階へ降りる階段のところまで、ずる……、ずる……、って。

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