第31話 少年の家へ行く日

 「シャツは頂くけど、大き過ぎるからパンツは良いわ」


 「そうなの。ヒモだから何とかならないの」


 「限度があるのよ」


 はぁ、〈はがと〉は私のお尻を見たことがあるくせに、どれだけ大きいと思っているの。

 失礼しちゃうわ。


 私と〈はがと〉は、泉で手に入れた服を洗って、部屋に干している。

 〈はがと〉はコソコソと血のついた服を洗っていたけど、流した時に赤い色が見えていた。


 二日後に貧民街へ行った時には、何も起こりませんようにと、祈ってしまう。


 ◇◇◇◇◇◇ 〈はがと〉の視点 ◇◇◇◇◇◇


  少年の家へ行くのに後二日あるから、その間なにをしようと〈アワ〉と相談する。


  【咬鼠】の肉と毛皮は十分あるから、もう危険なことをする必要はない。

  新しい門出が待っているんだ、無理をして元も子もなくすのはバカのすることだ。


 だから、〈塔〉の方から部屋を開けられるかを検証することにした。

 〈巫女の家〉へたどり着いた後、〈新人の狩場〉で【咬鼠】を狩ることになるから、この部屋を利用したいと〈アワ〉が言うんだ。


 まあ、それはそうだなと僕も思ったから、部屋の外側にガラス板みたいなものがないか探すことにした。


 〈アワ〉は迷ったあげく、また白骨の人の上着を着ている。

 鼠色のワンピースは、汚れたり破れたりしないように温存するらしい。


 僕も〈アワ〉も、床や壁を虱潰(しらみつぶ)しに調べたけど、見つけることが出来なかった。

 〈塔〉の内部からこの部屋を開けることが出来ないのか、それとも思いもよらない方法で開けるのかも知れないな。


 僕は「はぁ」と溜息を吐いて、調べる作業を止めて上を見上げた。


 んー、岩肌の天井の一部がいやに四角形だな。

 ごつごつしている中に、一部だけツルっとしている面が見えるぞ。


 「〈アワ〉、見てみろよ。あの天井のあそこ少し変だと思わないか」


 「えぇっと、普通の岩に見えるけど」


 〈アワ〉は乗り気じゃなかったけど、天井を調べてみることにした。


 「〈はがと〉、下着を履いてないんだから、絶対に上を見ちゃだめよ」


 僕の肩の上に立った〈アワ〉は、厳しい声で僕に注意を促(うなが)すが、下着を履いていれば見ても良いのかと、上げ足を取りそうになるな。


 ただ、〈アワ〉はバランス感覚がすごいな。

 平気で肩の上に立っているのは、もしかして〈位階〉が上がって、運動能力が向上したせいなんだろうか。


 結果的に僕の勘は大正解だったので、〈アワ〉が四角のところを触ったら、すっーと扉が開いていった。

 だけども手を離すと閉まってしまうので、部屋へ入るためには、何か工夫が必要だな。


 「うーん、梯子(はしご)がいるんだ」


 「いや、長い木を立てかければ、いけるんじゃないかな」


 僕が試しにやってみると、簡単に手で触ることが出来た。

 一本だけの木を軽々と登ることが出来たんだ、僕の運動能力も結構向上していると思う。



 さあ、今日は少年の家へ行く日だ。


 〈アワ〉は鼠色のワンピースに着替えて、ちょっとワクワクしているみたいで、頬を少し赤く染めている。

 ここから出るのは、すごく久しぶりだから、しょうがないと思う。


 明け切らないうちに〈肥溜め〉から這い出して、朝の清々しい空気を肺一杯に吸い込めば、新たな世界への期待がいやが上にも膨らんでいくようだ。

 僕は頬をパシッと叩き、気合を自分へ注入してみる。


 「ふふ、〈はがと〉案内を頼むわよ」


 「了解だよ。だけど名前は〈はが〉と言ってくれ、三文字は目立つと忠告されたんだ」


 「その通りね。了解したわ」


 朝が明ける頃に、少し迷いながらも 少年の家にたどり着くことが出来た。


 出迎えてくれたお母さんは、肉と交換出来たのだろう青色のワンピース着ているが、当然のように古着で青なんだけど鼠に近い色だ。


 僕と〈アワ〉は、少年とお母さんと朝の挨拶を交わして、知り合いの商人の所へ早速向かう事になった。

 お母さんの話では、よそ者の僕達は些細(ささい)なことで因縁(いんねん)をつけられてしまうため、早朝の方が人がいなくていいらしい。


 お母さんを見失いなわないように、僕と〈アワ〉は細い路地を慎重に歩いて行く。

 細い路地はゴミみたいなものが一杯あって、気を付けないとけつまずいたり、踏んづけてしまいそうなんだ。

 お母さんのワンピースも〈アワ〉のワンピースも、薄汚れた色だから、僕達は路地をチョロチョロと徘徊(はいかい)する鼠みたいだ。


 ふふっ、僕の服は茶色だから鼠じゃなくて、最悪でも野良猫だと思いたいな。


 しばらく歩いて着いた、お母さんの知り合いの商人は、一言で言うとしわくちゃのお婆さんだった。


 店があると思っていたけど、お婆さんの住処(すみか)は普通の民家だと思う。

 ただ周りの家より、かなり立派な家で他と違い二階建てだ。

 それが袋小路を塞(ふさ)ぐように建っているから、古色蒼然(こしょくそうぜん)とした頑丈そうな壁と合わせて、貴族のお屋敷みたいに見えてしまう。


 だけど本物はこの家の何倍も大きくて豪華なんだろう。


 「ほぉ、聞いていた通り〈南部連合人〉なんじゃな。早(はよ)う入れ。ここは〈自由塔市〉でも〈ペペイン王国街〉じゃから、〈南部連合人〉は目立って仕方ないわ」


 僕と〈アワ〉は、モゴモゴと挨拶をして、家の中へ入らせてもらった。

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