第27話 お手製の靴
ふぅー、それを心配するくらい、私も〈はがと〉も元気になったってことなのね。
〈段階〉が上がったし、毛皮と燻製も用意出来たので、いよいよ〈巫女の家〉を目指そう。
このまま二人で暮らしていると、近いうちに私と〈はがと〉は男女の関係になってしまうわ。
私には手を引っ張ってもらった恩があるし、何と言っても二人切りだから、〈はがと〉に迫られたら拒(こば)むことはかなり難しいと思う。
〈はがと〉の太い腕に抱かれながら、まんざらでもない感じで微笑んでいる私を想像出来るもの。
だからそうなる前に、一日でも早く二人切りの状態を解消しなくてはならないんだ。
こんなところで動物的な幸福を目指す、原始人みたいにはなりたくないんだ。
それでなくても今の私は、【咬鼠】の毛皮を被っている原始人の女みたいなんだもん。
せめて下着をはきたいよ。
お手製の靴を履いた〈はがと〉が、〈肥溜め〉を上がっていったけど、無事帰ってくることを私は願うしかない。
男物の下着でも許してあげるから、早く帰ってきてね。
男物では不満だけど、お尻が丸見えになるよりは、ずいぶんとマシなんだからね。
◇◇◇◇◇◇ 〈はがと〉の視点 ◇◇◇◇◇◇
何度匂いを嗅いでも、〈肥溜め〉は猛烈に臭くて、吐いてしまいそうだ。
何とか這い出して空を見上げれば、二つの月が弱弱しい光を僕へ投げかけてくれる。
今夜は半月と三日月の組み合わせか。
冷気が夜の底を這って、足元から僕を凍えさせようとするが、〈アワ〉が作ってくれた毛皮の靴の温もりがじんわりとだが頼もしい。
僕にはこの世界の季節が良く分かっていないが、冬だったら毛皮が売れるかもと、しょうもないことを思ってしまう。
はっ、その前にまず辺りを警戒するんだ。
その場でぐるりと見回しても、有難いことに人がいる気配はないみたい。
ここはどうやら、廃棄された昔の〈塔鉱山〉らしいな。
〈力鉱石〉の産出が悪くなったため、捨てられたのだろう。
〈力鉱石〉の出が悪いと鞭で叩かれる奴隷の悲鳴が、今でも聞こえるようでやり場の無い怒りが湧いてきてしまう。
持っている剣で、今直ぐに奴隷頭〈ダキ〉と駆逐人の〈ヤザ〉をぶった切ってやりたいな。
だけどここは冷静になろう、むき身の剣を持ちながら、外を歩くわけにはいかない。
僕達は訳ありだし、キョロキョロとしているだけで奴隷にされるような場所なんだ、目立つことは極力避ける必要がある。
剣は見つからない場所へ隠しておこう。
ロープも一緒に隠そうと思ったけど、ちょっとズボンが大きいので、ベルト代わりに腰に巻くことにした。
ただロープが長過ぎて、腹巻のようになってしまったが、せっかく長いこのロープを短くしようとは思わない。
このロープは色々と役に立ってくれた、幸運のロープなんだよ。
愛情を込めて〈万能ロープ君〉と呼びことにしよう。
〈塔〉から三十分ほど歩くと、貧民街と工場が見えてきた。
〈アワ〉の説明によると、この工場では〈力鉱石〉を精製し〈力石〉と言う物を作っているらしい。
〈力石〉ってなんだと聞こうと思ったが、かなり常識的なことみたいなので、やっぱり聞かないことにした。
これを聞いてしまうと、記憶喪失を〈アワ〉に疑われる気がしたから止めたんだ。
名前からでも想像がついたしな。
たぶん、力が込められた石ってことなんだろう。
まあそれは、今はどうでも良い事だ。
重要なのは、〈力石工場〉で働いている貧しい人々の、服と靴を手に入れることなんだ。
工場労働者の作業服を売っている店で買うか、燻製肉か毛皮との物々交換しかないと思う。
今はまだ真夜中なので、店があるか通りを歩いてみよう。
〈塔鉱山〉地帯と〈貧民街〉地帯との境には、大きな道が通っているけど、〈貧民街〉地帯の中は、ウネウネと曲がりくねった細い路地になっている。
〈力石工場〉の周りには比較的大きな道がついているのは、〈力鉱石〉を搬入して〈力石〉を搬出するためなんだろう。
ボロボロの家ばかりで、これは少しくらい歩いただけでは、とても店を見つけられそうにないな。
店があるのかも怪しい感じだぞ。
はぁ、何も見つけられないまま帰ったら、〈アワ〉はすごく落胆(らくたん)するだろうな。
ボロボロの迷路の様な路地をかなり歩いたけど、店らしきものは全く見つけられなかった。
〈アワ〉が言ってたように、毛皮の靴は革のヒモを通した穴が破けて、もう直ぐダメになりそうだ。
「困ったな」と僕は弱音を吐いて、当てもなくまた路地を歩き出したが、どうもこの先は行き止まりらしい。
「ふぅー」と溜息を吐いて戻ろうと思った時、人の声が聞こえてくる。
どうも路地の奥で、人が言い争いをしている感じだ。
少し近づいて聞き耳を立てると、中年のおっさんが少年を脅(おど)しているのが聞こえてくる。
「こんなとこで、手間をとらすなよ。もう返済期限が過ぎたから、約束どおりお前と母親を奴隷に売るぞ。早くボロ家に行って、お前の母ちゃんにも伝えなくっちゃならないんだよ」
「あー、借りたお金は返したじゃないか。そっちこそ、約束を守れよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます