俺の母さんが大人気アイドルVtuberになっているのは世界の方が間違っていると思う

TKあかちゃん

プロローグ

「父ちゃんな、実は仕事をやめてインターネットで稼いで行こうと思っているんだ……ってか仕事やめちゃった(笑)」

「えっ……」

俺は突如として父さんから告げられた言葉に耳を疑う。

父さんは確かにワイルドなイケオジ。見た目の割に茶目っ気があって、たまに変な冗談を言うが、真剣な目で語るその言葉に中学生の俺でも本当だと言うことが何となく伝わってきた。

「本当なの?」

「ああ……本当だ」

「あっ、そうか!IT系ってやつだね!今どき楽器屋の雇われ店長よりも、そういう系の方が……」

「いや、動画配信者だ!いやぁ、すごいんだよ最近の動画サイト。再生数でヒットを出せば広告収入も入ってくるし、案件とかで企業から依頼も来るんだ。ヒデキンさんとか小中学校でも流行っているんだろ?あれだ」

 ばかじゃねえーの!と俺は心のなかで絶叫する。もうこの年齢になったら極一部の人しか儲からない競争の激しい世界と頭の中でわかっている。

 これからの暮らしに頭が痛くなり、俺は隣に座っている母さんに声をかけた。

「ねえ、母さん……母さんはいいの?仕事辞めて配信者になるって……」

「うん……ママも沢山悩んだわ……でも、ママもパパも夢があったの、パパはプロのミュージシャン。そして、ママはアイドル……あなたが産まれて夢ではなく、今を取ったわ……でも、あなたも大きくなったし、いつの日かの為に貯金はしてきた。だから1年ぐらいもう一度夢を追ってもいいかなって……で!ママはVtuberになりまーす!知ってる?Vtuberって?」

「知ってる……」

「なら、話は早いわ!みて!ママの昔の知り合いに漫画家さんがいてね!すっごく可愛いキャラクターを描いてもらったの!」

その言葉と共にお母さんはスマホを取り出し、画面を見せてくる。

 そこにはお母さんの特徴をよく捉えているが、年齢だけは美少女のようなイラストが描かれていた。


「………」

「ユウキ……どうした?」

俺は知らず知らずのうちに言葉を失い、鏡がないからわからないが、恐らく親も心配するほど絶望の表情を浮かべていたのだろう。

父さんが心配してきた。

「ママ、やっぱりこれはちょっとエッチな格好過ぎるよ。こんなにおっぱい大きくて、肌をこんなに出していたら中学生ぐらいだったら恥ずかしくて言葉にできなくなっちゃうって」

「ええー!こんなにフリフリ衣装で可愛いのに〜それにおっぱいのサイズだって私と一緒にサイズよ。同じぐらいの体型じゃないとモデリングしたときに挙動がおかしくなって動画が変になるの!これは譲れません!」

「ええー、父ちゃん。ママがみんなからエッチな目で見られるのはちょっと辛いなー」

「大丈夫ですー!これはママじゃなくて、綺羅星カレン!ピチピチ16歳美少女アイドルなのでエッチな目で見られるとしても、私じゃくて、この娘ですー!」

 眼の前でお父さんとお母さんがくだらない喧嘩をしている。

ってか、母さんの年齢✕✕歳だろうに何16歳とか言っているんだ……

俺は席をたって、こっそりと自分の部屋へと戻り、ベットの中で涙を流した。

これから俺の人生どうなるんだろう……



あれから数年。

人生は波乱万丈。何があっても時間は進んでいく。

どんなに悪いこと良いことがあっても人生は止まらないものだと今なら頭と心で理解できる。

俺、木村 ユウキは高校1年生になった。

 都心部、駅を降りてふと見上げると電光掲示板には巷で大人気のVtuberアイドルがフリフリ衣装で踊り、人々はそれを見上げる。

数年前までは考えられなかったことだ。

 2次元イラストが3Dポリゴンになり、踊っている。

容姿や年齢に関係なく、アイドル活動や配信行為、色々な事ができるご時世。

才能一つで戦える世界が今の世の中には拡がっていた。


「うぉぉぉ!!!綺羅星カレン様の新衣装だぁ!!!!今回は姫コスかよ!ふぁー!」

「可愛いいいいい!!!!美少女すぎるだろぉぉぉ!!!」

「美しい……なんて澄んだ歌声なんだ……心が洗われる……」

と電光掲示板にアイドルの追っかけ野郎共が何十人と群がって、その画面を見上げていた。

 そして、その近場では……

「ぐはぁ!今回の執事コスか……カッコいい……やはり、初老のイケオジが美少女に付き従えるのは鉄板ですなぁ!」

「アキラ様……萌える……ブヒィィィ!!!」

「やっぱり、アキラ様と付き合ったらカレン様は義理の娘になるの?あっひゃあ!」

とわけわからん女の子たちがおっさん相手に発狂していた。


 電光掲示板にはあのときお母さんから見せもらった美少女Vtuberが熱唱しており、コスプレしたお父さんがギターをカッコよく鳴らしていた。

あの、絶望の日から数年。父と母には才能があったようで、初めての初楽曲が大バズリ。

 謎の新人Vtuberが6オクターブ近い音域で歌唱し、その歌唱力は大迫力。

 一度その一声を聞いただけで、耳から離れないほどのパワフルさ。

 

そして、その隣には仮面を着けた実写のおっさんが超絶ギターテクで泣きの演奏をしていて、その話題が至るところで騒がれていたのを覚えている。

そして、二人はコンビで配信しており、方や美少女Vtuber、もう片方は実写に初老のイケオジという構成も新しいと話題になっていた。

同じ苗字で活動したから二人は親子と思われ、今にいたる。

 「なんで!大成功しちゃってるんだよぉぉぉ!!!!!」

俺は大きく叫んだが、周りの熱狂にかき消され、その声は虚無に消えた。

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