悪役転生!~勇者召喚に巻き込まれた一般サラリーマンは、最強の魔人族に転生し勇者たちに復讐する!!~ 

第1話 転移と転生


 ブラック会社勤めの俺が退勤したのは、太陽も登り切った朝六時のことだった。


 入社二年目にして30連勤を果たした体は既にボロボロ。風呂にもまともに入れずに悪臭を垂れ流すだけの汚物となってしまった現在、周囲の人たちから嫌悪に満ちた目を向けられながら家に帰っている途中である。


 どうして俺がこんな目に合わなくちゃいけないのか。


 大学まで出て就職したというのに、俺は何をしているのだろうか。


 そんなときのことだった。


「あー……?」


 ふらりと揺れる俺の体が力を失った。連勤が祟ったのか、或いは一日に何本と飲んだエナジードリンクの効果が切れたのか。


 どちらにせよ、俺の体は力を失ったまま倒れてしまう。


 


 


 不幸なことに、ちょうど電車が来たところで、倒れた俺の体は線路の上に投げ出されてしまった。


 遠くから人の声が聞こえてくる。でも、聞こえない。ぼやけた音だけが、耳を通り抜けていくだけ。


 そもそも、聞こえてきたところでどうにもならない。だってもう、電車は目と鼻の先にあるのだから――






 ぐしゃり







「……えっと、大丈夫ですか~?」

「誰?」

「それは此方の話なんですけど……まあ、とりあえず起きてくださいよ」


 何が起こったのか。完全に死んだと思った駅のホームの出来事は夢だったのか。何もわからないままに寝そべった体を起こしてみると……


「な、なにこれ……」

「さあ? なんですかね、これ」


 寝そべる俺と、俺の顔を見下ろす少女。それから少女と同年代と思しき男女三名を取り囲むように、数百人の人間が列をなして首を垂れていた。


 何かの映画のワンシーンかと思ったけど、違う。服の汚れとか、前後の記憶の繋がり方とか、なんとなく。


「あ、おっさん起きたんだ」

「ちょ、臭いんですけどー」


 状況を理解できないまま呆けていると、少し離れていたところに居た男女三人(男一人女二人)のグループが話しかけて来た。


 いや、話しかけてきたのは俺の顔を見下ろす少女にであって、俺ではないようだけど。


 見たところ13~14才ぐらいか。俺と比べて一回りも二回りも幼い彼らは、嫌悪を顔に浮かべながら俺を見る。


「え、えっと……これは、どういう状況なのかな?」

「は? 見てわかんねーのおっさんw」


 平伏する数百人は頭を上げる様子がないので、一先ずは状況を理解するために中学生たちに声をかければ、小馬鹿にしたように彼は言った。


「異世界転移だよ異世界転移。見てわからねーかなー。わからねーか、やっすい金のために働いてそうだもんな、あんた」


 そう言って少年がゲラゲラと笑えば、取り巻きの少女二人もつられて笑いだす。何とも酷い態度だけれど、彼の言った異世界という言葉はしっくりきた。


 映画のワンシーンと言ったけれど、確かにここは現実味のない場所で、よく見てみるとどこかの教会や聖堂のような異世界感がある。


 つまりここは異世界だ。そんなわけあるかと言いたくなるけど。


「そんでもって俺たちは勇者! 異世界から選ばれた特徴的な人間ってわけ!」

「その通りでございます!」


 少年の声に合わせて、平伏する数百人の中から、何とも豪華な服を着た老人が立ち上がって彼の言葉に賛同した。


 異世界と勇者。


 ゲームみたいなものかと理解する。


「それにしてもおっさん……けど、あんたも本当に勇者なわけ?」


 続いて彼は、俺の姿を見てそんなことを尋ねてきた。いや、俺は普通のサラリーマンなんだけど……というか、おっさんという年じゃない。大学は一浪したけど、まだ25だ。


 しかし、彼の言った神様は何のことだろうか。


「神様……? なんのことだ――」

「ちょ、もう最悪~!!」


 神様だとか仏様だとか、俺にはよくわからないと話してみたら、言葉を遮るようにして取り巻きの一人が大声を上げた。


「あいつ、私のことエロいめで見てた~!」

「うわっ、気持ち悪いなおっさん」

「え、いや、なんのことだよ!」

「言い訳とか見苦しいぞ、おっさん」


 取り巻きの少女が少年に腕を絡ませる。それから、軽蔑したような視線を彼らは送って来た。


 これは流石の俺も頭に来た。けれど、相手は子供。冷静に、冷静に――


「つか、神様のこと知らなくね?」

「えー……でも、転移には一緒に来たんでしょ? どゆこと?」


 取り巻き二人が立ち上がった豪華な服の男へと話題を向ける。なぜ俺がいるのかという疑問に対して、男は言った。


「わ、わかりかねます。ですが、大規模召喚魔法は数百年前にのみ使われたものですので、何かと不具合があったのかと……」

「はーん……なるほどね」


 何か閃いたかのようににやりと少年が笑う。


「んじゃ、こいつは必要ないか」


 次の瞬間、彼が手を振ると同時に稲妻が走り、俺の体を吹き飛ばした。


「なっ……!!??」

「おー、よく飛ぶよく飛ぶ。やっべ、これ最強の力じゃんw」


 半笑いのままに、彼は言う。


「ねー、司教のおっさん。あれが勇者召喚に巻き込まれたただのパンピーってんなら、別にここで処分してもいいよね?」

「か、構いませんが……の有無の確認を――」

「必要ねーよ。こんな状況になっても使わないってことは、選ばれてねーってことだからさ」


 そう言いながら、彼は俺の方に近づいてくる。


「こいつ、殺したほうがいいと思う人~」

「はーい、はいはい私、賛成~!」

光希こうき君しか勝たん~! 絶対正義~! つか臭いから早く殺して~!」


 なにを、言ってるんだ……こいつら。


 中学校の制服と思われる服装をしている彼らは、俺と同じ世界の出身じゃないのか? なのに、なんでこんなに簡単に殺すとか、そういうことを言えるんだ?


「待って」

「あん? なんだよはるか。邪魔すんなよ」


 その時、俺に迫る少年――コウキの前に、俺が目を覚ました時に、俺のことを見下ろしていた少女が立ちはだかった。


 その目は異論を唱えるように鋭くて、人一人を簡単に殺そうとする彼らを非難しているようにも見える。


 おかげで、俺を殺そうとするコウキの足は止まった。――かに、思われた。


「こう言うのは私の仕事」

「……ふっ、そういうことかよ。ま、確かにこの程度のことで俺の手を煩わせる必要なんてねーしな」


 落ち着いた様子のハルカと呼ばれた少女は、しかし味方ではなかった。


「〈百奇兵〉」


 そのつぶやきと共に少女がどこからともなく取り出した長身の刀が、音もなく振るわれた。


 そして次の瞬間には、俺の首は胴体から離れていた。


「ありがとな、遥」

「大丈夫。光希のいうことなら私、あんな汚い大人にも話しかけられるから」

「そう言うところが大好きだぜ」


 二度目の死。


 理不尽な死。


 一度目は意味も分からず。


 二度目はわけもわからなかった。


 どうして。


 どうして、俺がこんな目に合わないといけないのか。


 俺が何か、悪いことをしたのか? 


 殺されても仕方が無いようなことをしたのか?


 なんで


 なんで


 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで





 ゆるさない。






 ◇◆◇



「はっ!?」


 目が覚めた俺は、だらだらと脂汗を垂らしていた。どうやら悪い夢を見ていたようで、昨日の疲れが取れていないのか、体全体がだるい。


 まったく、嫌な夢だった。


 まさか、死んだと思ったら異世界に転移してて、かと思ったらまたもや死んでしまうなんて。


 現実的じゃない。


「は、はははは……」


 そうだ。まったくもって非現実的だ。普通、人の手振りに合わせて雷が地面を走るわけなんてないし、身の丈を超える抜き身の大刀を隠し持つことなんて尚更できるわけがない。


 全部、全部夢だったのだ。


「そうだ……そうなんだ」


 夢なのだ。


 夢なんだ。


 だから、だから――


「お前、誰だよ……」


 鏡に映る俺の姿が、角の生えた子供のようになってしまったのも、すべてすべて夢に違いない。


 そんなわけないと、わかっているはずなのに。



※―――


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