ラン科のラフレシア

まだ温かい

ラン科のラフレシア

 君はラン科の美しい花だった。


 ほどよく盛り上がった上背萼片じょうはいがくへんには未熟な毛状突起もうじょうとっきが生えそろわずにいて、大きなズイちゅうが恥ずかしそうに一本筋の端に隠れていたのを思い出す。


 そこを丁寧にほじくってやったら、ズイちゅうは恥ずかしそうにあっちに向いたり、こっちに向いたりしていたけど、その内に赤くなって皮から飛び出してた。


 ピンと張り出したものだから見るからに敏感になっていて、私の吐息を受けるだけで震えていたし、触れようものなら小さく声を上げていたね。


 それでも構わず弄っていたら、君は込み上がってくる何か熱い感覚に困惑し始めて、私の目の前でつぼみを振って逃げようとしたんだ。


 けれど、そうやって自分で刺激を与えてしまったから、君はこらえ切れずに身を震わせたんだ。閉じたままであるはずのつぼみが開いてしまった瞬間だったよ。




 花開いたとはいえ未だに青かったから、君の花には少し黄色い花粉がついたままになっていて、未熟な香りを立たせていたよ。


 だから、花の溝をなぞって取ってあげていたら、みるみるうちに側花弁そくかべんが色づいて張りが出てきたんだ。


 ただ柔らかかっただけの未熟な肉が、その用途に合わせて成長してくれたから、すぐに私を押し返してくるようになったね。


 それに負けじと私は、ズイちゅうを刺激しながら唇弁しんべんの奥まで入れてやったから、君は異物感と高揚感に身もだえして顔をゆがませたね。


 君が大きな声を出して全てを曝け出したから、慎ましく入り口を守る膜が見えて、その隙間から成熟した花蜜はなみつが溢れ出るのが見えたんだよ。




 君の準備が出来たっていう合図だよね。もういいんだよね。私の雄蕊おしべが悲鳴を上げているよ。やくがパンパンに膨れてしまっているんだ。


 君はラン科の美しい花だよ。


 私が君に覆いかぶさると、君は苦しそうに跳ねのけようとする。


 そうやって君が暴れるほどに、私の雄蕊おしべが君の花と擦れて気持ちが良い。花蜜はなみつで良く濡れていて、たまに唇弁しんべんに滑り入るけど、張りのある花弁かべんがすぐに押し返す。


 でも、そんな些細な抵抗はすべてやるだけ無駄なんだ……


 私がもう少しだけ力を入れて押し込むだけで、君の大切なものは無くなってしまう。私の雄蕊おしべが君の花弁かべんをぐちゃぐちゃにしてやるんだ。


 最初は痛いけど、すぐに良くなるから安心してね。


 ほら、すごく熱いでしょ? いっぱい血も出ているけど、安心してくれていいからね。すぐに落ち着くし、パパとママにも会えるからね。




 君はラン科のラフレシアになってしまったね。


 そうして真っ赤な花弁を広げているけど、ぱっくり晒して恥ずかしくないのかい?


 とろけた花粉が染み出して匂い立つけど、自分で止める事も出来ないのかい?


 そのせいで沢山の悪い虫が言い寄って来てるけど、振り払いもしないのかい?


 君も、

 腐って骨になって逃げてしまうのか。


 また、

 新しい子を見つけなくちゃ。




 そこの君は?

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ラン科のラフレシア まだ温かい @StillHotBodies

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