第2章 エクイテスさんの授業参観

校庭に世界樹!?

第14話 あの樹なんの樹

 ──一日ぶりの学校へ、ユンユと徒歩で。


 きのうはエクイテスさんのところ……聖域からまっすぐ帰宅。

 そしてきょうからは、学校が終わったあとで世界樹に仕える日々。

 欠席したきのうのうちに、「寝取られ令嬢」の悪評が消えて、「世界樹に仕える聖女」という扱いになっていれば……いいけれど。


「ねえ、ユンユ? 中等部でわたしのこと、噂されてなかった?」

「さあ……どうでしょう? わたしは友達が少ないので、噂話の類は耳に入ってきません」


 わたしに耳の裏を見せて、学校のほうを見上げているユンユ。

 いまさらっと、聞き逃せないことを言った。


「ユンユあなた、友達が少ないって……。姉として、そこは心配するところよ?」

「では……。友人は厳選している、交友関係はコンパクトに調整している……と、言い直します」

「それはそれで、お高くとまっていないかが心配になるけれど……。あと、クラッラお姉様じゃないけれど、話すときは相手の顔を見て?」

「時と場合によります。いまは世界樹が気に掛かるもので」

「世界樹……?」


 世界樹ならば、わたしたちの背後。

 いま歩いているセントラル通りの北側。

 わたしたちは南東の学校へ向かっているし、ユンユの顔もそちら向き。


「世界樹ってユンユ、どちらを向いて言って……って。ええええ~っ!?」


 …………ある。

 ユンユの視線の先に、世界樹が……ある。

 ここからでは家屋が邪魔で、枝葉から上しか見えないけれど……。

 葉の色、葉の形、枝葉の広がりかた……。

 間違いなく、あれは世界樹。

 ど……どうしてっ?

 丘の上には…………いつものように、世界樹がちゃんとある。

 じゃあいま南東に立つ、もう一本の世界樹はいったい──。


「……リーデル姉。あれは世界樹の模造品レプリカでは?」

「レプリカ……?」

「もしくは、地下ちかけいから生えた新芽……ですか。世界樹が地下深くに根を這わせ、校庭に小さな分身を立たせた。一晩で」

「一晩でっ!?」

「きのうの下校時には、影も形もありませんでしたから」

「でも校舎より背が高いわよ、あのレプリカ! それを夜のうちにっ!?」

「世界樹にしてみれば、たやすいことかもしれません。あの大きな丘も、世界樹の根によって隆起したものと言われていますから」

「じゃ、じゃあ……どうして学校に、世界樹の分身が生えるのっ!?」

「それを調べるのは、世界樹の派出婦たるリーデル姉の仕事でしょう。なによりこの事態、リーデル姉に起因していると考えるのが妥当です」

「う……」


 ……確かに。

 エクイテスさんが学校へ、会いに来る人物がいるとするならば……。

 それはたぶん、わたし──。


「リーデル姉はひとまず、校庭の樹のそばへ。わたしは学校の蔵書で、世界樹について詳しく調べてみます」

「わ……わかったわ!」

「図書室の奥の書庫、一般の生徒は立入禁止。ですが非常時ですから、閲覧の許可が出るでしょう。そこはまだ見ぬ書物の山、情報の海……アハッ♪」

「……ユンユ? わたしを利用して、未見の本を読もう……ってつもりじゃあ、ないわよね?」

「そこは、否定しません」

「……しないんだ」

「それから念のため、クラッラ姉に護衛についてもらうのがよろしいかと」

「ええ……そうね。まずは、クラッラお姉様の教室へ寄るわ」

「いえ。あの人はこういう状況へ、真っ先に駆けつける性質たち。もう樹の前に立っていることでしょう」


 ……姉たちのことをよく理解している、出来た妹だわ──。

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