第02話 ──その、少し前
──世界樹都市。
この世界に幾つかあるという、樹齢数十万年とも伝えられる巨木、世界樹。
その周辺に築かれた都市は、いずれも当該地の世界樹と同じ都市名を持ち、そこに暮らす人々は世界樹を霊木として崇めている。
わたし、リーデル・スティングレーはいま、この世界樹都市・エクイテスでちょっとした有名人──。
『……あの子でしょ? 婚約者を使用人に寝取られた、例のリーデルって?』
『そうそう。いまどんな顔してるのか、近くで見てみたいわねぇ』
『よしなさいよ。あれでも一応、豪族の令嬢なんだから』
……あ、はい。
聞こえてますよ、街の皆さん。
こんな顔してます。
いまにも死にそうな顔です。
実際、いまから死にます。
丘の上にそびえるあの、世界樹の枝で首吊って。
『……いや、それがさぁ。婚約者とその家の使用人、幼馴染でねぇ? リーデルとの婚約が決まったことで、使用人が覚悟を決めて……。愛する男の部屋を訪ねて……』
『男は部屋へ迎え入れ、二人は情を交わした……ってわけ? ぷっ……使用人に寝取られる豪族の令嬢なんて、前代未聞じゃない?』
『当のリーデルだけならまだしも、スティングレー家って四姉妹でしょう? 姉も妹も風評被害よねぇ』
……そうですね。
わたしもそう、思います……ので。
このショルダーバッグの中に、
わたしはこれで、命を絶ちます。
でもこれは、自殺じゃなくって他殺──。
婚約者に裏切られたわたしが、被害者なのに。
傷ついているのは、わたしなのに。
世間が、街中が、「寝取られ令嬢」と
見知らぬ人たちから、傷口へ塩を擦り込まれる。
傷は塞がることなく、生乾きのままで疼き続ける。
この苦しみが一生続くなんて、断固拒否。
だから命を絶つ。
街の声から殺された。
そのことを、あの世界樹を見るたびに思い出して。
枯れることも倒れることもない、樹齢数十万年とも言われる世界樹とともに、忘れないで────。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます